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パリ最新情報「世界を救う? 新型コロナの特効薬?クロロキンに迫る」 Posted on 2020/03/28 Design Stories
3月26日より、フランスで新型コロナの治療薬として、抗マラリア剤として知られ、関節リウマチなどの自己免疫疾患に効果を出す「ヒドロキシクロロキン」の使用が承認され、不安に包まれる世界に小さな光りが差した。
この薬を新型コロナの治療薬として発表したのは、フランスのマルセイユにある感染症研究所(IHU-MÉDITERRANÉE INFECTION)に在籍する微生物学者、ディディエ・ラウルト博士のグループ。3月上旬、クロロキンの一種であるヒドロキシクロロキンのみを単独、または、抗生物質アジスロマイシンとの組み合わせを合計24人の新型コロナ患者に試験投与したところ、ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシンの組み合わせを投与した患者に「ウイルスの保有期間を減少させる大きな効果」が見られたという発表をしており、公衆衛生非常事態宣言下のフランスで、急速に臨床試験が行われていた。
この一縷の望みの出現に、アメリカではドナルド・トランプ大統領が「神の贈り物。この薬の組み合わせはゲームチェンジャーになりえる」という、大げさで早とちりな発言をし、医師の処方なくクロロキンを服用した新型コロナ感染のアメリカ人男性が死亡、一緒に服用した奥さんも重体というニュースが流れた。しかし、クロロキンは水槽掃除用製品にも使われており、亡くなった男性の奥さんによると、「トランプ大統領のクロロキンが効くという発言を聞いて、鯉の水槽を掃除するものにクロロキンが入っていたことを思い出し服用した」とのことだった。大統領の言葉にすがり、誰の意見も聞かずにこのような形で薬品を服用するとは信じがたいが、それもこれも、新型コロナの脅威とアメリカの医療問題が巻き起こした悲劇と言えるだろう・・・。
さて、この治療薬が新型コロナに効くと発表したラウルト博士は「外出制限政策は中世的で時代遅れ、検査の幅を広げ、感染者を特定して治療するべきだ」と政府の方針に異議を唱え、独自のコロナ対策を実行した。マルセイユの感染症研究所にて市民に無料でPCR検査を行い、感染者には適切な治療を行うというその方法は、コロナの疑いがある人々を殺到させた(社会的距離である1mの間隔をあけて並ぶので、長蛇の列となり、 平均待ち時間は5時間だったとか)。結果、「陽性患者は1万人。中度から重度の陽性患者にヒドロキシクロロキンが処方され効果を出した」と報告され、ラウルト博士は「僕は統計の前ではなく、現場にいる。心配しないで欲しい」と発言していた。この治療を6日間受けた新型コロナ感染患者のうち、75%の患者の体内からウイルスが消えたという。
ヒドロキシクロロキンの効果に自信を持つラウルト博士に対して、専門家や医師会からは「中国ではあまり良くない報告も出ている」、「自分たちだけで進める問題ではない」、「必要な基準をすべて満たしていない」という批判や討論は絶えない。しかし、それと同時に、ワクチンも治療薬もなく、医療崩壊が起き始めている今、この薬には希望もある。テレビの討論番組で、ある医師がこの治療薬使用に懐疑的な医師に向かい、「じゃあ、あなたの家族や友人が新型コロナにかかり、ヒドロキシクロロキンがその人を救うかも知れないのに、投与せず重症化するのを見ていられますか? 私なら投与する」と論じ、違う医師は、「副作用がたくさんあるというが、一時的な副作用を選ぶか死を選ぶかだ」とも言っていた(重大な副作用もあるため、投与前には慢性疾患等の細心の検査が行われる)。このように、賛否両論、理解しない専門家もいるまま、ここフランスでは、この薬が新型コロナの治療薬として使用(重症患者に対し、病院の監視下のみで処方)されることになった。戦場と例えられる医療現場で、ヒドロキシクロロキンは患者を救う新しい武器となるのだろうか。
このラウルト博士というのは、その外見からも十分に伺えるが、挑発的で、一度これだと思った獲物は絶対に離さないタイプ。我が道を行く、いわゆる頑固オヤジなのだそうだ。その性格から、医学界のシャルル・ド・ゴールとも言われている。しかし、ド・ゴールが素晴らしいリーダーであったように、ラウルト博士は微生物学者として世界的な信頼を持っている。この発見が新型コロナ感染症パンデミックを終息に向かわせてくれることを願うばかりだ。