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パリ最新情報「パリの新たなカフェ事情。パソコン持ち込みの可否で揺れるオーナーたち」 Posted on 2023/01/06 Design Stories
パリの風景を構成するものの一つに、カフェがある。
誕生当時は社交場として盛り上がったパリのカフェだが、現代でも人々の憩いの場として、その輝きを失うことはない。
最近の大きな変化としては、テラス席の暖房撤去があった。
これは仏政府によるCO2対策の一環で、2022年初めからフランス全土で開始されていた。
スタートから一年が過ぎた今。暖かい季節は良いとしても、冬のテラス席に座る人は確実に減少したという印象を受ける。
現在、パリのカフェでは新たな問題も起こっている。
問題というと大袈裟になってしまうのだが、実際には顧客より「経営側の悩み」として、最近よくクローズアップされるようになった。
オーナーたちの新たな悩みとは何か。
それは、パンデミック中から劇的に増加した「テレワーカー」の存在だ。
つまり健康危機以来、パソコンを開きながらカフェで半日近く過ごす、という客がかなり増えたのだ。
しかも、1杯〜2杯のドリンク料金のみで。
ただこれについては歓迎するオーナーと、疎ましく思うオーナーで意見が真っ二つに別れる。
テレワーカーたちが居座ることで、スムーズなサービスができなくなったと嘆くオーナーもいれば、この変化(多様化)を喜んで受け入れるオーナーもいる、とのことだ。
では正規のコワーキング・スペースに行けば良いのでは?という話になる。
確かにカフェを兼ねたコワーキング・スペースはパリに続々と誕生しており、周りもテレワーカーばかりと、気兼ねなく作業をすることができる。
ただデメリットはその利用料金の高さにあるだろう。
例えば、とあるコワーキング・カフェの料金は5時間で25ユーロ(約3500円)。
ほんのたまにの気分転換には良いとしても、これが週1〜2回の利用となると、若いテレワーカーたちには痛い出費となる。
またここ10年で増えているのが、ニューヨーク風や北欧スタイルのモダンなカフェだ。
インテリアも非常にすっきりとしていて、現代のパリジャン好みの内装となっている。
こちらではドリンク料金のみでPC作業可としている場所が多いのだが、コンセントがなかったり、貸し切りが多かったり、時間制限があったり(それも日によってまちまち)と、テレワーカーにとっては肩身が狭い場所だという。
ということでそのどちらでもない、いわゆる慣れ親しんだ「街のカフェ」、が選ばれている。
パリ11区にあるカフェ・コメットの経営者、マリオン・デピニィ氏は、「ある人は礼儀正しく、節度を守っていて、昼食も注文する。しかしある人は朝からコーヒーだけを飲み、昼食もとらずに長時間テーブルを独占している」と仏TV番組のインタビューで答えていた。
同氏によればむしろそれ自体が問題なのではなく、周囲のお客さんがテレワーカーたちに気を使って、邪魔にならないように小声で話すという「雰囲気が問題」なのだという。
法的には、こうしたカフェにはPC持ち込みの禁止を強制できる権限はないそうだ。
つまり、カフェとはあらゆる人に開放された私的な空間であり、事業者は<お知らせ>として貼り紙をドアの前に掲示するしか術がない。
そんなテレワーカーを疎ましく思うオーナーたちは、Wi-Fi提供のサービスを停止したり、BGM音楽のボリュームを大幅にアップしたりしている。
一方で歓迎派は「フレンドリーな雰囲気が集客に繋がる」とし、平日はテレワーカー用のスペースを確保しながら、週末だけは利用不可とするところが多い。
健康危機が働き方を変えた、という現象は世界各地で起こった。
フランスでは健康危機のピークは過ぎたように見えるが、多くの企業ではこのテレワークスタイルを維持しており、週1〜3日出社or在宅勤務のハイブリッド形式が一般的だ。
中には100%テレワーク、としている会社もある。
ただフランスではこのカフェ利用が、テレワーカーたちの単なる気分転換ではなくなってきている。
電気代の高騰問題だ。
たった1年で大幅に増えた電気料金を受け、彼らは節約を望んでいるのだ(月20日間のテレワークをする場合、冬場で6〜60ユーロの電気代アップとなる。最大約8400円)。
パリのカフェは、誰にでも解放された親しみやすい場所。
それだけに、社会で起こる時事的な問題も、セットとなって絶えず抱えこんでいるように見える。(セ)