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パリ最新情報「セーヌ川沿いのブキニスト、パリ五輪時の立ち退きを拒否、続く攻防戦」 Posted on 2023/08/14 Design Stories
セーヌ川沿いにあるブキニスト(古書店)が、パリ・オリンピック開会式のため、一時立ち退きをパリ市から求められている。
理由は治安上・警備上のためだというが、店主らはこれに猛反発している。
撤回を求め、8月9日までに6万件以上の署名を集める事態となった。
ブキニストは450年以上前から存在していて、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている世界最大の青空書店だ。
パリ中心部、右岸・左岸の両方に位置しており、その数は2023年現在で950件となる。
今日では古書だけでなく、観光客向けにポスターやキーホルダー等も置かれているのが特徴である。
パリ・オリンピックの開会式は来年7月26日に予定されており、開催まで一年を切った。
選手入場はセーヌ川で、しかも船を使って行進するというのは、前回の東京オリンピックの閉会式でもセンセーショナルに放映された。
だがパリ五輪委員会およびパリ市役所は、当日の人手を約60万人と見込んでいる。
これだけの人がセーヌ川沿いに集まれば人通りが滞ってしまい、暴力や暴動を引き起こす原因になるかもしれないと危惧したのだ。
そこでパリ警察署長は7月、パリ市ブキニスト文化協会会長のジェローム・カレ氏に「一時的な立ち退き」の旨を書簡で伝えた。
パリ市の要求は、全体の約59%にあたる570個のボックスを撤去すること。
オリンピック開催期間中はバスティーユ広場などほかの場所にブキニストを移し、終了後に再び元に戻すことを提案した。
その際、パリ市はボックスの移動費、再設置費用、また移動の過程で損傷が生じた場合の修理費も負担すると申し出た。
これに対してブキニスト会長のジェローム・カレ氏は、一部のボックスは壊れやすく運搬が困難であると考えており、すべてを改修するには150万ユーロの費用がかかると見積もった。
しかし費用の問題だけではない。
同氏は「私たちはパリのシンボルだ。オリンピックの祭典はパリの祭典でもあるべきなのに、私たちを景観から消し去ろうというのはおかしな話だ」と述べ、当初から反発の姿勢を崩さないでいた。
この発表を受け、フランス文学界の重鎮も立ち上がった。
7月末には仏作家、哲学者ら約40人が仏紙ル・モンドに意見書を提出し、ブキニストへの支持を表明するとともに、パリ市の決定を非難した。
ル・モンド紙によれば、彼らは「ブキニストは教育的、道徳的、歴史的に見ても大変に貴重なフランスの文化である」と訴えたそうだ。
そして仏作家らは、「店主たちは生きていくために必要な収入の大部分を、補償もなく、経済的破綻の可能性も含めて突然奪われることになる」とブキニストを完全に擁護したという。
またこの頃にはオンラインでの署名も行われた。
結果、2週間で集まった署名数はおよそ66,000件にもなった。
こうして多くのパリ市民と関係者が、ブキニストの一時立ち退きに反対の意志を示した。
現在は行政の多くが夏季休暇のため進展はないのだが、反対の声がここまで多くなった今、パリ市はどう決断するのか。
今後の発表が待たれる。(オ)