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パリ最新情報「フランス、ブーランジェリーの危機。インフレ・エネルギー危機の影響を最も受けた業界」 Posted on 2023/01/17 Design Stories
1月13日(金)、INSEE(フランス国立経済研究所)は、2022年のフランスのインフレ率が平均で5.2%であったことを報告した。
フランスのインフレ率はEU諸国の中では低いと言われているものの、21年の1.6%を考えると、昨年の物価上昇がいかに急激であったかを確認できる数字である。
その内、上昇率が一番高かった分野は予想通りエネルギーだった。(21年は10.5%、22年で23.1%増)
また食品の価格上昇も加速しており、(21年は0.6%、22年で6.8%増)仏国民のさらなる購買率低下が懸念されている。※製造業とサービス業においては3%の上昇に留まった。
ウクライナ問題がインフレの主な原因だとされているが、フランスではパンデミックの後遺症も少なからず影響している。
サービスそのものを買う消費ではなく、「物」を買う形での消費に切り替わり、それが元に戻っていないためだ。
これは端的に言えば、サービスより物のほうに需要が集中していることで物の価格が上がり、そこからインフレが発生したという形になる。
つまり、人々の消費行動の変化とウクライナ問題が「雪だるま式」となって、ここまでのインフレを引き起こしてしまったのだ。
この物価高には家庭も企業も苦しんでいるのだが、現在最も苦境に立たされてるのが、フランスのブーランジェリー(パン屋)業界だと言える。
ブーランジェリーはフランスの食卓に欠かせない、バゲットやクロワッサン、パティスリーなどを提供している。
しかし原料のメインは小麦。
ロシア・ウクライナ問題で小麦価格は高騰し今でも値段が戻っていない。
加えてパンを焼くのに大量の電力を消費することから、「バゲットを大幅に値上げしないと経営を続けられない」とオーナーたちが悲鳴を上げているのだ。
昨年12月には、フランスのバゲットがユネスコ無形文化遺産に登録されていた。
しかしその喜びも束の間、12月のインフレ率は一年で最も高い5.9%を記録してしまった。
バゲットがユネスコ無形文化遺産に登録されたこと自体は名誉であるものの、それがブーランジェリーの抱える高額な原材料と電気代問題をカバーすることはなかった。
例えばイル・ド・フランス(パリ首都圏)にあるブーランジェリーでは、電気料金がここ数か月の間で月900ユーロから1400ユーロ(約12万6000円→21万円)に跳ね上がってしまったという。
わずか数か月の間に起こった40%もの電気料金の値上げは、当然のことながら経営者たちを苦しめた。
ある店舗は従業員を何人も解雇しなければならず、またある店舗では電気オーブンを薪に変更しながら節約を試みているということだ。
しかし現場では、解雇される従業員と残る従業員との間で軋轢も生まれてしまっている。
簡単に薪オーブンに変更できるブーランジェリーもそう多くはない。
さらにオーナーたちはそんな不穏な空気の中、クリスマスケーキやガレット・デ・ロワといったイベント用の商品も絶えず作り出さなければならなかった。
イル・ド・フランスにあるブーランジェリーの店主は、「我々はどこに行けばいいのか分からない。昔は老後の資金を貯めることもできたが、今では全くできない。バゲットを一本3ユーロにすれば採算は取れるが、そんなことが出来るわけないだろう。今は店を畳むことばかり考えている」と、仏デジタル誌Actu・Franceのインタビューに答えている。
※フランスではバゲットの価格は経済指標の一つになる。2021年には平均90サンチーム(セント)で売られていたが、今後は平均1.20ユーロ(約175円)になると言われている。
フランスには約3万3000人のパン職人がいるとされている。
1月上旬には仏政府が「税金と社会保険料の支払いを猶予する」と、エネルギー価格の高騰に直面するブーランジェリー向けに発表していた。
しかしこれらの詳細や期限が不明確であると不満が募り、1月23日にはパリ市内でパン職人たちによる大規模デモが計画されている。(大)