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パリ最新情報「フランスで広がる『アートセラピー』。癒しとつながるアートの力」 Posted on 2025/01/28 Design Stories  

 
デッサン、ぬり絵、粘土、ダンス……。これらの創作活動を通じて感情を表現し、心の奥深くに向き合う「アートセラピー」をご存じだろうか。このアートセラピーは医療の分野でも広く取り入れられており、フランスでは大人から子どもまで幅広い世代に親しまれている。
表現する内容に、決まりはない。アートセラピーは「自由に表現する」ことで、気持ちを整え、自信を育み、心身の回復を後押しする効果があるとして、ここフランスで注目を集めてきた。
 



 
「ものづくり」をしていると、不思議と感情がフラットになることがある。どんな出来栄えになろうとも、こうした創作活動で「ストレスや不安が和らいだ」人は多いと思う。
フランスにおけるアートセラピーも同様で、人々は作品の質・見栄えにはまったくこだわっていない。心身に不調をきたす人、人間関係に深く悩む人、そして限られた時間を生きる人たちが、アートを通じて心のありのままを表現している。もちろん、健康な人であっても「言葉で気持ちを表すのが難しい」と感じる時には、芸術が言葉の代わりとなり、自分の内側を解き放つ手助けをしてくれるだろう。
 

パリ最新情報「フランスで広がる『アートセラピー』。癒しとつながるアートの力」



 
長い歴史を持つフランスのアートセラピーは、日常生活のなかで親しまれている身近な存在だ。芸術と医学の関連性という概念そのものは、フランスでは1900年代初頭にはじめて提唱されている。その後、1970年代から80年代にかけて、現代的なアートセラピーが医療現場で注目され、広く受け入れられるようになった。
現在のフランスでは、セッションを行う専門家、つまり「アートセラピスト」の需要が大変多いという。セラピストたちは自営業として活動することもあれば、民間や公的機関に雇用されることもある。医療現場では、腫瘍科・老年科など病院の診療科で働くほか、老人ホームや利用者の自宅を訪問してセッションを行っている。

またパリ市役所など、各自治体が主催するアートセラピーのプログラムも盛んだ。このプログラムでは、グループセッションや個々のニーズに合わせた年齢別のアートセラピーが行われており、デッサンやぬり絵、楽器演奏、ダンス、コラージュ(貼り絵)、粘土、人形劇など、多彩なアート活動が取り入れられている。セラピストたちは創作活動から生まれた作品を観察し、患者の状態とニーズを把握し、それに基づいた治療プログラムを設計するというわけだ。
 

パリ最新情報「フランスで広がる『アートセラピー』。癒しとつながるアートの力」



 
さらに近年では、末期がん患者の家族や、緩和ケア病棟で働く看護師たちの「燃え尽き症候群」に特化したアートセラピーが、フランスの病院でますます増えているという。
たとえばフランスで配信された看護師のインタビュー記事に、こんな切実な声があった。「私たちは、あまりにも辛く、膨大な感情を共有しなければなりません。それに加えて、激務も重なります。感情がつま先立ちのまま患者とその愛する家族に寄り添うのは、簡単なことではありません」

こうした現場で行われるアートセラピーは、医療従事者自身が心身のバランスを取り戻すための貴重な手段となっている。内容はデッサンや詩の朗読といったシンプルなものだが、セラピーを通じて職場でのチームワークが改善したり、患者との信頼関係が回復したという声がいくつも挙がっている。
 



 
当初は患者を対象にはじまったアートセラピー。しかし今では、こうしてケアを担う側やその家族にもポジティブな影響を与えている。
「セラピー」「セッション」と聞いて身構える必要はない。もともとアートとの距離が近いフランスだが、語学のレッスンを受けるように、みな気軽にセラピーに参加している姿が何とも印象的だ。そんなアートセラピーは内面に秘めたものと現実をつなぐ存在として、これからますます注目されるのではないだろうか。(チ)
 

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