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速報・パリ最新情報「フランス政府、噂されていた三度目のロックダウンを断念した、裏事情」 Posted on 2021/01/30 Design Stories
週明けにも3回目のロックダウン突入か、と言われていたフランス。
現在、フランスでは英国型変異株が急拡大しており、夜間外出禁止令だけではこの拡大を抑えきれない、というのが専門家を含め、政府の見解であり、このロックダウンは誰もが「避けられないもの」だと思っていた。
しかし、ほとんどすべてのメディアの予測を裏切り、今夜、カステックス首相は「フランスはロックダウンを選択しない」と発表した。
ちなみに、フランス国内で英国変異株感染者の数は、1月の初めに1日500件ほどだったのに対し、現在は1日に2000件、1日の感染者の約10%が英国変異株という計算になっている。
ICUの患者数も新たに3000人を超えてしまい、このままではまた病院が逼迫してしまう、という実に厳しい状況であることは間違いない。
通常であれば、ロックダウンしか、手がない状況であるはずだが、…。
また、BFMTVの調査では、1回目のロックダウンは93%のフランス人が理解を示し、2回目では67%、3回目に関しては50%まで下がっているものの、フランスはまだまだロックダウンが必要と考える人も多かった・・・。
しかし、このような状況、条件下だったにも関わらず、政府はロックダウンには踏み切らなかった。
その一つの要因として考えられるのが、「再ロックダウンには従わない!」という市民運動の高まりが考えられるのではないか、…。
1月10日以降、Twitter上で、ハッシュタグ「#JeNeMeConfineraiPas」(私はロックダウンしません)が、拡大している。
1月22日にジェネラル医、ファビアン・クドヴィル氏の「”人々の健康のため”といえば、ロックダウンは正当化できます。でも、だからこのハッシュタグを使って発言しますが、ロックダウンはこの感染症の進展になんの結果ももたらしていない。ロックダウンがもたらす結果は、心理的、経済的、社会的に悲劇を招くものです。公的機関や国民はここを意識しなければならない。これは不服従への呼びかけではなく、考え直すことへの呼びかけです」というツイートをきっかけに、この運動は一気に広まった。
その後、政治家や有名人がこぞってこのハッシュタグを使用しはじめていた。
自殺者や精神的に病む人の増加はコロナ禍が生み出した現実であり、被害なのである、というのが彼らの主なメッセージでもあった。
なんとしても感染拡大を抑えたいフランス政府、これに対して、市民のあいだから起こったハッシュタグ「#JeNeMeConfineraiPas」運動がこの決定に影響を与えたのかどうか・・・。
昨日の世論調査によると、フランスの極右政党「国民戦線」のマリン・ルペン党首と現政権のマクロン大統領の支持率の差が僅かに4ポイントにまで狭まった。
「ルペン48VSマクロン52」と拮抗しているこの支持率の動きも、今後の政権運営に大きな揺さぶりをかけるものと思われる。
欧州各国で、現政権への批判が相次いでおり、イタリアでは去年春のロックダウン時に英雄的な扱いを受けたコンテ首相が、不支持の急増で辞表を提出した。
コンテ氏は主要政党の党首らと協議に入り、新内閣を組閣できるか、注目を集めている。コンテ氏が新政権を発足出来なければ、議会は解散、前倒しの総選挙ということもあり得る。すべてはコロナウイルスの狙い通りというところかもしれない。
このような政治力学的な要因が影響をして、ロックダウンはあっけなく、回避されてしまったのだろうか?
いや、細かく分析をすると、ただ、フランス政府が世論に屈しただけと結論付けるには少し早計な気もする。
ロックダウンが行われない代わりとして、2月1日(日)からEU圏外からの出入国が禁止(緊急時以外)されることになった。
また、超大型商業施設(2万m2以上の生活必需品以外を扱う)が閉鎖されることになった。
夜間禁止令を強化するため(レストランなどの違法営業、違法パーティ・集会など)、今まで以上の警察を動員することが決定された。
マクロン大統領の支持率低下、それに反して国民戦線、ルペン党首の支持率の急上昇。このままロックダウンに踏み切れば、今よりも厳しい政局を迎え入れないとならなくなる。
マクロン政権は一時的に強硬策に出るのをやめ、手持ちのカードでこの苦しい現状を乗り切る選択をしたことになる。
48%まで支持率を伸ばした国民戦線の急成長を前に、これまでのコロナ対策から大きな方向転換を迫られたマクロン政権の次の一手が気になる。
英国変異株の感染拡大をなんとしても食い止めないとならないフランス政府の混乱と格闘は続く。(井)