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パリ最新情報「日本人が塩酸をかけられた? 報道の裏側から世界を見直す」 Posted on 2021/02/15 Design Stories
2月10日に、パリ17区を歩いていた日本人3人(被害にあわれたのはこの中の一名)が、何者かに塩酸をかけられたという事件が、大使館から配布されたメールで明らかになり、これが一部メディアで報道された。
実は、以前から、似たような事件が起こっていた。今回の事件も、一連のアジア人を狙った不良たちの「勇気試し」である可能性が少なくない。
この不良たちによる勇気試しと称した暴力行為で亡くなられたアジア系の観光客も出ている。
日本大使館の情報は以下の通り。
(1)2月10日(水)夕刻、パリ17区の公共空間において、邦人被害者が友人と3人でいたところ、フードをかぶり下を向いて歩いてきた3人組(男女の別不明)からいきなり顔に向けて液体をかけられた。
(2)不審なグループだったため注意していたが、グループのうち一人が液体の入ったボトル(工具店などで普通に購入できるもの)を取り出した瞬間、危険を察知し、手で顔をガードした。幸いにして顔には液体がかからなかったが、掌に火傷を負った。
(3)すぐにその場から避難した後、医者の診断を受けたところ、火傷は塩酸によるものであることが判明した。仮に顔(特に目など)にかかっていた場合、失明など取り返しのつかない事案に発展していた可能性があった。
不良たちの目的は「日本人」ではなく、むしろ、在仏中国系の人々へ向けられた可能性が大きい。
とくにこの手の不良たちは数年前から、若いアジア系女性を攻撃することが命じられている。
見分けがつかないので、アジア系はすべて攻撃対象となっている。
一連の勇気試しであれば、在仏日本人の皆さんへの広範囲の注意喚起が必要になる。
当編集部でこの記事を当初見送った理由に、特定の日本人が狙われた事件ではなく、もっと広範囲でアジア系が狙われたものだという、社会背景を考慮する必要を検討してきた。
このニュースはほとんど、フランスでは報じられなかったが、一誌、フィガロ紙が報じたところによると、被害届は警察にだされたが、警察は興味を示さなかった模様、で終わっていた。
筆者も日本人に対する特定の暴力とは思えず、よくある鬱憤ばらしであろうと思った。しかし、そのアジア系へむけられたなんとなくアジア人への腹いせが今後、大きな事件を招く可能性があることに、ここは注意をうながしたい。ある種の差別だが、アジア系の成功への妬みも内部にくすぶっているし、この手の犯罪をする若者たちの置かれている行き場のない現状にも問題がある。
中国の武漢でコロナウイルスの感染拡大が起きてから、中国の一帯一路構想による経済的繋がりの深いイタリアでは、ここ最近、中国からの強い支援を享受しながらも、イタリア国内にある中国人への排他的感情が今までにないほど強い高まりをみせている。
イタリアと中国はペスト流行の時代から、経済的な繋がりが強く、中国から入る感染症の入り口であった歴史が繰り返されている。
ローマ、ミラノ、ベニスなどで、特にその不満が顕著に広がりをしめしており、右政党の台頭が強いイタリアでは反中国的運動が問題化しつつある。
その一方で、アメリカでも、今年、2月以降、カリフォルニア州などでは、アジア系の高齢者を狙う暴力事件が頻発している。
北部、オークランドのチャイナタウンでは特に酷い暴力事件が続き、複数のアジア系の高齢者が28歳の若者の暴力を受けて入院、サンフランシスコでは84歳のタイ人男性が19歳の男性に殺害された。
トランプ元大統領が中国武漢で流行したコロナウイルスを「チャイナウイルス」と連呼したことから、アジア系が狙われる重大事件が多くなった。
これに対し、バイデン大統領はその呼称の使用を禁止する大統領令を出し、国内の分断を回避する動きに出ている。
EUでも、長く右派ポピュリズム勢力への支持が強まっている。コロナ以前に訪れたオーストリア、ハンガリーなどでも、強大化する中国への懸念からアジア系を狙う小競り合いが続いていたのが目を見張った。
フランスでも極右政党の国民戦線党首、マリー・ル・ペン氏がマクロン大統領とほぼ支持率で並んだ。大統領選挙を控えたフランスで今後このポピュリズム運動の高まりが目を離せない展開になりそうだ。
イギリスでも、もともとあった中国嫌悪(シノフォビア)の動きが旧宗主国である香港問題などと絡み合い、表面化しつつある。これらの世界的な中国嫌悪の感情が、外見では見分けのつかないアジア系全体へと向けられている。
コロナ禍への不満がそのまま中国を通り越してアジア系全体に向けられていることを警戒する必要がある。とくにアメリカでも欧州でも、この手の暴力事件を起こすのは将来に希望のない若者たちであり、塩酸をかけられた日本人事件を、日本人に向けられた一事件と括らず、見分けのつかない在仏日本人、在欧日本人へ向けた新しい社会情勢であることを認知し、もっと広い視点で警戒心を強める必要がある。
今後、ますます、アジア系へ向けた暴力の根が広まる可能性がある。
危険地域への出入りを避け、用心を怠らないことが命を守る上で最重要となる。(み)