欧州最新情報
パリ最新情報「5月1日はミュゲの日!愛する人にスズランを」 Posted on 2022/05/01 Design Stories
フランスでは5月1日は「ミュゲの日」と呼ばれ、愛する人にスズランを送る習慣がある。
この日にスズランをもらった人には「幸せが訪れる」とされていて、渡す方も相手の幸福を心から願う。
そんなフランス発祥の素敵な記念日は、いつ、どこで、誰が始めたのだろう。
日本ではあまり知られていない興味深いスズランの歴史を、フランスの花屋さん事情とともにご紹介したい。
真っ白で可憐なスズランは、まさに今が旬。グリーン系の爽やかな香りも良く、家のどこに飾っても心が和む。
このように人の気持ちを掴むスズランを「贈る習慣」としたのは、ルネサンス時期のとある権力者だった。
当時のフランス国王シャルル9世は、兄王の急逝によりわずか10歳で即位した。
ところがフランスの成人年齢は13歳だったため、摂政として母が実権を握っていた。
スパルタな母に加え、国内はカトリック対プロテスタントの宗教戦争の真っただ中。
体の弱かったシャルル9世は、心身の静養のため側近とともにフランス南部のドローム地方に足を運んだ。
そこで気を利かせた側近は、その地方に咲く大量のスズランをシャルル9世にプレゼントする。まだ子供だった国王は大喜びし、「成人したら宮廷の女性たちにスズランを毎年プレゼントしよう」と心に決めた。
それが、1560年5月1日の出来事であったのである。
さらにスズランは、ベルエポック時代の偉大なクチュリエを象徴する花だった。
そのクチュリエとは、フランスのファッションデザイナー、クリスチャン・ディオールのこと。
彼はスズランをこよなく愛し、5月1日にお針子さんや顧客にプレゼントしていたそうだ。
その後メゾンは大成功をおさめ、世界的ブランドに成長する。
ムッシュ・ディオールはそんなスズランを「幸運のシンボル」とし、自らのジャケットにスズランの花を忍ばせたり、ショーの成功を祈ってオートクチュールドレスの裾にスズランを縫い付けたりした。
また5月1日はメーデー(労働者の日)でもあるのだが、スズランはフランスのメーデーとも密接に関係している。
1941年、第3共和政最後の首相フィリップ・ペタンは5月1日を正式に労働者の日と定めた。
ペタン首相は同時に、左翼を連想させる赤いバラを「春が冬に打ち勝つ」ことを象徴するスズランに置き換えることにした。
ということで最近のデモ参加者の中には、一輪のスズランを上着に身に着ける人もいる。
メーデーでもある「ミュゲの日」は、フランス人はよほどのことがない限り働かない。
それでも5月1日のスズラン売りだけは特別!
普段は公道での無許可営業は罰則付きで禁止されているのだが、この日のスズラン販売のみ例外的に許可されている。
条件は、花屋や市場からから40メートル以上離れていること、スズラン以外の花を売ってはいけないこと、森で摘んだ根がないものなど。
年齢制限もなく、スズラン売りが初めてのアルバイト経験となる子供もいる。
そしてもちろん、フランスの花屋さんはスズランでいっぱいになる。
鉢植え、切り花、バラと合わせたブーケと、その形も値段もさまざまだ。
ただし本気で相手の幸運を願うのならば、スズランの花が1枝に13個なっているのが理想的。
13という数字は西欧では「不運」というイメージだが、フランスでは「不運+不運=幸運」ということでラッキーナンバーなのである。そのため13日に宝くじを買う人がとても多い。
こうして、スズランとフランスが歩んできた歴史は深い。
「Je porte bonheur(私は幸せを運ぶ)」というフランス語とともに、身近にいる大切な人にスズランを贈ってみてはいかが?(や)