PANORAMA STORIES
絵はともだち Posted on 2017/09/02 美波 女優 パリ
絵にはどんな力があるのかな。
絵を描きはじめたのは、暇つぶしと孤独の埋め合わせのためだった。
一人暮らしをはじめた18歳のとき、一人の時間が溢れて寂しかった。
毎日遊び歩くタイプではないので、時間を持て余していた。
あれから、もう12年。
今の自分は、あの時の自分と何も変わってない。
フランスで、小さなアパート暮らし。
18歳の頃の孤独が蘇る。
一人になりたくないから、絵を描く。
絵と会話しているようで夢中になる。
すると、やるべき事がどんどんできなくなって、絵から少し距離をおく。
絵は私にすり寄ってきて、また描きたくなる…。
いつからか、気のおけないともだちになっていた。
ただ、映画やお芝居の役が入ると、めっきり絵が描けなくなる。
物ごとを同時進行させるのはなかなか難しいものだ。
同時に何役も演じるとか、夢と現実の中間を選ぶとか、好きな人を複数もつとか…
日本人とフランス人の血がミックスした自分でも、中身はすっぱり竹を割ったような性格だから、中間ゾーンをバランスよくこなしてる人をみると羨ましく感じる。
まあ、それは置いといて。
絵は、描きたいときに気兼ねなく描ける。途中で放り投げることもできる。
たぶん、生涯ライフワークにできるものの一つだと思ってる。
スケッチは得意ではないから、下書きはほとんどしない。
最初にイメージを描き出し、思うようにいかず修正を重ねる。
するとなんだか違った形になってきて、違うイメージが湧いてくる。
もうこれ以上描くところがないっていう時が完成だ。
いつも描きたいと思ったものとでき上がった絵はまったく一致しない。
でも、これはこれで、今の心情を描いているのだと思う。
正解なんてないのだ。
絵の学校に通おうかとも思ったけれど、自分の技術を比較されているようで尻込みする。
競い合う世界は息苦しい。気ままに、自分の心を表現したい。
絵を描いていて好きなところは、絵の中で彷徨える時間だ。
瞑想しているようで、心の落ち着きを感じられる。
自分の居場所はここなんだっていう安堵感に包まれる。
その反面、絵を描きながら深い孤独感を味わうこともある。
外の世界から遮断され、自分は一人ぼっちなんだと感じる。
そんな時は、一人で泣くか、外に出て散歩したり、映画を見たり、ともだちに会う。
そして、やっぱり、また絵に向かう。
絵は、相変わらず私を温かく迎え入れてくれる。
絵は、私にとって最高の話し相手であり、理解者なのだ。
絵との対話はつづく。
メキシコの壁画と絵画が好きで、特に、シケイロス、ディエゴ、フリーダは大好きだ。
彼らは絵を通して外の世界と戦ってる。
私の絵は自分の鏡のようなもので、今はまだ自分の心の中しか映していない。
叫びたい言葉が今の私にはないからだと思う。
彼らのような戦士になりたいって、いつも憧れてる。
でも、私にはそんな勇気がない。
だから、私にとって絵はいつまでもともだちのまま。
心の世界を代弁するフィルターなんだ。
生きていると、辛いことがたくさんある。
焦りや、心配ごと、我慢することとか、辛くてどうしようもないこと…
考えだしたらキリがない。
でも、生きてる以上、私は好きなことをやめたくない。
映画やお芝居で生きていきたいし、絵を描き続けたい。
だから、何もやめない。
どうして好きなことをやめる必要があるのだろう?
一つのことを長く続けていると本当の自分が見えてくる。
そして、それが自分の人生を形づける。
知識がなくても、技術がなくても、結果なんて気にせず、好きなことは続けたほうがいい。
それは、生きていく上で本当に大切なことだと思うから。
絵はともだち。
私にとって自分を大切に支えてくれる唯一無二な存在なんだ。
Posted by 美波
美波
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女優。1986年9月22日生まれ、東京出身。2000 年に『バトル・ロワイアル』(深作欣二監督)で映画デビュー。その後、舞台・映画・ドラマと幅広く活躍している。’14年には文化庁の新進芸術家海外研修制度のメンバーに選ばれ、パリに1年間演劇留学。現在はパリに拠点をおき、多方面で活動している。
2017年11月9日(木)~28日(火)/Bunkamuraシアターコクーン・地方にて、演出・串田和美の『24番地の桜の園』に出演。