JINSEI STORIES
人生は後始末「大統領から礼状が届いた」 Posted on 2017/08/28 辻 仁成 作家 パリ
フランス大統領選挙の結果が出た、そのほぼ同タイミングで速報記事を打った。
日仏経済のスペシャリスト富永典子氏に「マクロン大統領誕生」を想定し記事を依頼しておいた。
WEBマガジンだからこそ出来るスピード感であった。
フランスで生きる日本人にとって誰が大統領になるのかは重要。
とくに中学生の息子を育てなければならない日本人のシングルファザーとしては……。
だから「マクロン大統領」に決まった時は、選挙権はないにしても、ひとまず安心を覚えたものだ。
その勢いで小生は大統領に祝電を送ってしまうのだった。自分のフランス語版の本を添えて。
在仏日本人として、日仏の未来に期待を表明したかったのかもしれない。
それから長い休暇に入り、小生は本を送り付けたことなどすっかり忘れて、北は北海道から南は熊本まで、ドサ周りツアーに出た。
そして先ごろ、2か月ぶりにパリの自宅に戻り、ポストを開けると、見慣れない封書が……。
「LE PRESIDENT DE LA REPUBLIQUE」
と表面に記されてあった。
「大統領」からである。
慌てて、手紙を送ったことを思い出し、横にいる息子をほったらかして、玄関先で開封することになる。
まさか、返事が戻ってくるなどとは思いもしなかった。
もちろん、タイプを打ったのはスタッフであろう。
「あなたは私にご著書をお贈りくださりました。そのお心遣いとサイン入りのご著書に感激しています。心よりお礼申し上げます。」
そして、最後に大統領本人の手書きサインがあった。
そのエマニュエル・マクロン大統領、就任100日を迎え、国内では試練に立たされている。
まず、妻ブリジットさん(64)の「ファーストレディー」としての公的地位の創設をめぐり、大きな世論の反発を買った。
公務員給与を増やさないと明言し、これまた公務員の怒りを買った。
財政赤字を抑えるため、歳出から45億ユーロを削る計画を打ち出し、その流れで防衛費の削減を明言、仏軍トップのピエール・ド・ビリエ統合参謀総長と対立、軍を敵にまわした。
労働改革に対する抗議も大きく、複数の労働組合の大反発を招いている。
国民の不満を買ったせいで、就任直後60%を超える支持率だったにもかかわら ず、わずか100日で36%に激減した。
不人気だったオランド大統領の不支持率を最速で更新したことになる。
外交面ではプーチン大統領、トランプ大統領との対話、ドイツとの連携で独特の政治力を示しているマクロン大統領なのだが……。
正念場である。
いろいろな意見が出て当然かもしれない。
しかし、まだ就任100日に過ぎない。
選ぶときは若さを買い、ダメそうだと思えば即座に若さを批判する。
メディアもここぞとばかりにマクロンのあら探し。しかし、100日じゃ結果は出せない。
日本には「石の上にも3年」という気の長い格言が存在する。
今日の後始末。
「ローマは1日にして成らず。パリは100日にして成らず」