JINSEI STORIES

退屈日記「フランスにおける招くこと、招かれること」 Posted on 2022/10/22 辻 仁成 作家 パリ

渡仏して20年、
ぼくはよく人を招くのだが、
招かれることの方が少ないのである。
もっとも、ぼくの場合は料理好きだから「招く」ことの方が圧倒的におおくなるのも当然だし、
料理をしない人たちは、お礼に美味しいレストランにご招待しよう、ということになる・・・
あ、料理が得意だと相手が萎縮して、なかなか、招いて貰えないのであーる。(気にしないでいいのにねー)

ただ、フランスは、「自宅に招かれてこそ、本当の友情」という考え方が根付いているように思う。
ぼくを招いてくれるのは、やはり料理が得意な人たちばかりになるのがちょっと残念だ。
シェフのシャルルの家にはもう何回も招かれた。
マーシャルの家にもよく招かれる。
でも、絶対料理をしないアドリアンの家には招かれたことがない。あはは・・・彼が料理するわけないしね・・・
彼ら夫婦がぼくを招く時はレストランを予約する。
フランス的には、自宅で迎え合うというのが、友情の大切な意思表示だったりするのだ。
渡仏直後、その家の大家さんにそう力説された。
「家に招かれた時こそ、友情が前進した証拠だと思っていいよ、辻さん」

退屈日記「フランスにおける招くこと、招かれること」



家に招かれることがフランスではとっても光栄なことなのだ。
全部を見せてもいい関係というのか……。
招き招かれる関係によってフランス人は友情関係や親密度を確認し合っているようなところがある。
逆を言うと、長いお付き合いをしていても招かれない場合もあるのである。
「招かれて」ほっとしたこともある。あはは。

まだ、息子が小学生の頃のこと、
「⚪︎⚪︎君の家に「アンビテ」されたんだ」
と嬉しそうに言ったことがあった。
アンビテ、とは、招待されたということである。
彼も小さな社会で生きている。はじめて招かれた日、顔が紅潮していたっけ。笑。
我が家もよく友人を招くが、しかし、だいたい同じメンバーかもしれない。
確かに、誰でも彼でも招くことはないように思う。
招かれるというのは真の仲間になったということを意味するのかもしれない、この国では・・・
在仏歴30年の友人が「ぼくは、いまだフランス人から招かれたことがない」と嘆いていた・・・
きっと、それは別の原因があるような……。
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退屈日記「フランスにおける招くこと、招かれること」



 
ところで日本には「おもてなし」という日本ならではの言葉がある。
フランスにはこの「おもてなし」みたいな言葉はない。
招き招かれ方がそもそも日本とはずいぶんと違う気がする。
ぼくは日本的な「おもてなし」をフランスに持ち込んだ。
みんな、感動してくれる。
だから、逆に、「そこまでやる辻は呼びにくい」のかもしれない。あはは。

フランスの「お招き」は実にびっくりするくらいどこの家もシンプルなのである。
まず、アペロ(アペリティフ)がやたら長い。
それも、スーパーで買ったピーナッツなどが、置かれているだけのスタート・・・、マジ、そういう気を使わないレベルがいいみたいね。
夕食(ア・ターブル)まで1時間半とか、へたすると2時間以上、ひたすら、ワインとポテトチップスなどで、トークを繰り広げるので、多少、疲れるのだ・・・。
その上、フランス人はおしゃべりが大好きだから・・・。
テレビもほとんどが議論の番組です。
ピーナッツとか、ポテトチップスとか、中国の米せんべいのようなもので、すでにお腹がいっぱいになってしまう。

20時を過ぎると、「ア・ターブル!(食卓について!)」となる。
サラダ、メイン、デザート、と続くのだけど、量は多くない。
クスクスだったり、鶏の丸焼き(肉屋さんで売ってます)だったり、魚のグリル焼きだったり、どちらかというと簡単な料理ばかり。スーパーの食材店で買ったようなものが出てくることもある。マジで。
もっとも、それはそれでお美味しいのだけど、正直、日本人の感覚からすると、ご招待、からはちょっと遠い気もする。
ご招待から「ご」をとった感じ・・・。
食後酒を飲んで、お別れになる。
あ、招かれたら、ワインを1本持っていくのがいいだろう。それがだいたい常識になる。
時々、お菓子や、お花とかを添えて。

退屈日記「フランスにおける招くこと、招かれること」



日本のお招きはこれでもかと心も時間も割いてくれるところが多いので、それを期待してはいけない。
フランスのお招きは実に質素で和気あいあい、気は一切、使わないのが流儀だ。
彼らの家に入り、彼らが食べるものを一緒に食べることが重要なのかもしれないね。

ナポレオンの末裔の大金持ちさんの邸宅に招かれた時も全く一緒であった。
ピーナッツを頬張りながら、庭園を眺め、持参したワインを飲んだ。
それでも、フランス人にとって「アンビテ」されるということは名誉なこと。
こちらが招く場合、ついつい頑張り過ぎてしまう日本人だけど、そういう気苦労はフランスでは必要ないということ・・・。
もっとも、ぼくは自分の料理をふるまうのが好きなので、どうしても招く時は真剣になってしまうのだけれど・・・
これはこれで困ったちゃんであーる。えへへ
そこが父ちゃんのよいところなんだよね。

退屈日記「フランスにおける招くこと、招かれること」

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
たまには誰かに招かれたい父ちゃんなのですけど、招き続けるのが趣味みたいな性格だから、どうなることでしょうね・・・。えへへ。どなたか、招いてくださいませー。

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