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「南イタリアの離島、イスキア。緑の島」 2 Posted on 2016/10/31 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア

「南イタリアの離島、イスキア。緑の島」 2

イタリアのナポリ湾西部に浮かぶイスキア島。
 
 
フィレンツェの料理学校に通っていた僕は、先生から紹介され、その島で夏休暇の間だけレストランの見習いをすることになりました。

手渡された手書きの地図だけを頼りに、僕はなんとかイスキア島にある、紹介されたレストラン「リストランテ ラ ロマンティカ(Ristorante La Romantica )」に辿り着いたのです。(「南イタリアの離島、イスキア。緑の島。1」
 
 
今よりも若くて、無鉄砲だったせいもありますが、何より島のおおらかでゆったりとした雰囲気が僕の緊張を解いてくれました。

「南イタリアの離島、イスキア。緑の島」 2

お店の前で、ひと呼吸してから中に入りました。
 
 
レストランは、この島のほとんどがそうであるように家族経営、同じような顔の人たちがぞろぞろと出てきて僕を温かく迎えてくれました。

ビールでも飲む? と聞かれて、特別飲みたいわけでもなかったけど、とりあえずご馳走になりました。
お店のバーで立飲みしながら、何げない会話を交わしたのが、本当につい最近の事のようです。
 
 
その時はまさかイスキアに定住することになるだなんて、思いもしなかったのですけれど・・・。

住む場所はお店の方で提供してくれることになっていたのですが、まだ部屋が見つかっておらず、レストランのお客さんのご厚意でとりあえずホテルに泊まることになりました。

イタリアのしかも離島、ご近所づきあいや助け合いが強く、そういうことなら、と僕の部屋がすぐに確保されたわけです。

ホテルはお店から少し離れた海辺にあって、やはり家族経営でした。
ここでも温かく迎えられ、何だか出来過ぎの始まりでした。
 
 
波音の聞こえる部屋で荷解きをしてから、再びレストランに戻りました。



「南イタリアの離島、イスキア。緑の島」 2

仕事は明日からという事で、この日はみんなの働く様子を眺めていました。
 
 
しばらくすると、賄いを食べると言う事で(営業後に食べるので真夜中なのですが)大きなテーブルがセッティングされ、親戚の人たちもがやがやと集まってきて、不意に賑やかになりました。

それから次々とお皿が運ばれてきて、まるで祝宴の席の様になったのです。
もしかして僕の歓迎パーティー? とも思いましたが、その”祝宴“は次の日も、その次の日も続いたのです。
 
 
つまり、イスキアでは毎晩、仕事の後に宴会のような賄いの時間がやってくるのでした。

その時に食べた、小魚を酢とオレガノとミントで煮込んだ郷土料理の美味しかったことといったら!
それまでの僕のイタリア料理の概念を覆すような、あっさりとしたでも生き生きとした味付け。

これ以上ないくらいにシンプルなのに、とても柔らかく、味わい深く、他の料理が霞んでしまうほどでした。
 
 
みんなが陽気に食べて飲んでおしゃべりをしている様子を、イタリア映画でも見るような気持ちで眺めていました。
部屋に戻って窓を開けると、潮風にのってどこからともなく甘い香りが漂ってきました。
その香りがオレンジの花のものだとわかるのは、随分と後になってからのことです。
 
 
こうして僕のイスキアでの初日が終わりました。

「南イタリアの離島、イスキア。緑の島」 2

この日に感じたイスキアの印象は、あれから15年以上経った今も変わっていません。
 
 
刻々と色を変える深い海と空の色、人間味豊かで個性的な人々、オレンジの花の香がする潮風の匂い、山の影、郷土料理などなど・・・。

ありふれた日常の中にあるあらゆる事象が、この島の一番の魅力かと思います。
 
 
僕が初日に感じたイスキアの魅力。

それは何気ない、でもどこを切り取っても絵になる町並みと、別名“緑の島”にふさわしく、生い茂る植物や花たちが織りなす甘美で素朴な風景、そして純朴な島民の人懐っこい心意気に尽きると思います。
 
 
近隣のカプリ島やアマルフィ海岸と比べても決して引けを取らないこの島の美しさを、これからお伝えしてゆければと思います。



「南イタリアの離島、イスキア。緑の島」 2

Photography by Keisuke Yaegashi (except the group photo)

自分流×帝京大学

Posted by 八重樫 圭輔

八重樫 圭輔

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Keisuke Yaegashi
シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。