JINSEI STORIES
人生は後始末「冷静と情熱のあいだ同窓会」 Posted on 2017/07/29 辻 仁成 作家 パリ
作家の江國香織さんと共同で執筆した小説「冷静と情熱のあいだ」の出版から早いもので、もうじき18年が過ぎようとしています。
二人の作家が同じ物語を、男女それぞれの切り口から描くという試み、とっても面白かったです。
一緒にミラノに行き、フィレンツェに行き、取材をしました。
単行本は赤と青の装丁に分けられ、赤い「Rosso」を江國さんが、青の「Blu」を小生が描き、別々の一冊として角川書店から出版されました。
チームプレイの本来存在しない作家世界に新しい手法を持ち込むことができたこと、ある種の奇跡だったと思っています。
だって、作家って基本偏屈で気難しい人間が多いからです。ええ、小生がその筆頭ですけど・・・(笑)。
江國さんとはその後、「右岸」「左岸」も一緒に出版させていただきました。
幼なじみの少年と少女を主人公に、小生が「右岸」を、江國さんが「左岸」を描く壮大な人生の物語です。
先日、「冷静と情熱のあいだ」を世に送り出した編集者や当時の編集者仲間が一堂に会し、同窓会のような宴が催されました。
あれから18年もの歳月が流れているので、角川書店から別の出版社に移った編集者さんもいました。
集英社や新潮社、朝日新聞社などにいる江國さんと小生の共通の編集者さんも駆けつけ、なんだか、昭和なミニ文学会となったわけです。
当時はみなさん、本当に若くて可愛らしい方々でしたが、ご覧のように今は全員貫禄の塊。
いまだ、文学の世界の灯を守り続けているところが本当に嬉しかった。
彼らのおかげで今の自分があるんだな、と思えば背筋も伸びますね。
本が売れない時代と言われ、一方で電子書籍の参入など、小説世界は随分と様変わりしましたが、形態が変われど、小説本来の愉しみがなくなることはありません。
小説でしか表現できない豊かな世界がきちんと残っています。
その中心に江國さんがいます。
江國さんとはプライベートで会うことはほとんどありません。
ラインは知りませんし、メールも滅多にし合いません。
二年に一度程度の頻度で、「やあ、元気かな?」と一行の生存確認が届く程度です。
で、数年に一度、こうやって飲んだりします。
ずっと笑顔です。安心します。
そりゃあ、そうですね。作家が手の内を見せ合って、一緒に本を書いたわけですから、同志に近い関係といっても過言じゃないでしょう。
「元気だった?」
「元気、元気。辻さんは?」
「いろいろあるね~」
江國さんはなんでもわかっていて、黙って笑っています。
でも、心強いですね。
人生の節目に、彼女はこう呟くんです。
「辻さんはみんなに愛されてるね~」
面白いことを言う人だな、小生がこんなに苦しんでるのに、と思わず吹き出してしまいました。
でも、何年振りに会っても、お互いの人生がすっとわかってしまう、そういう人はとっても貴重ですね。
あの時代だからできたこと、あの若さだからできたこと。
めったに人生を振り返りませんが、二人はいい仕事をしたと思います。
今日の後始末。
「江國さん、編集者の皆さん、また飲める日を楽しみにしておりますよ。お互い、長生きしましょう」