PANORAMA STORIES
パリ、セーヌ河岸に打ち上げられたマッコウクジラ!? Posted on 2017/07/25 マント フミ子 修復家 パリ
先週金曜日の早朝、「パリの中心、セーヌ川のほとりにマッコウクジラが打ち上げられている!」という話を聞きつけ、出かけてきました。
横たわる全長約16mのマッコウクジラとそのクジラに水をかける科学者らしき人物たち、鼻をつく独特の異臭、立ち止まり写真を撮る警察官…。
集まり始めたパリジャン、パリジェンヌたちは口々に「ホンモノだわ! 信じられない!」「ニセモノだよ、ありえない」と、ざわついています。
「でも、どうやって河岸に上がったの?」という疑問に、科学者らしき人物は「夜中の2時くらいに橋の下に引っかかって動けなくなっているこのクジラが発見されたんだ。消防隊と一緒にどうにか逃がしてやろうと努力したんだけど、残念ながらすでに死んでしまっていた。だからここへあげたんだ…」と神妙な面持ちで説明。
警察に電話をした人によると「現在、詳しいことを調査中」という回答だったそうです。
ラ・マンシュ(イギリス海峡)を越え、セーヌ川を上ってきたマッコウクジラ。
あなたは、信じますか?
–––しかし、これはベルギーのアーティスト集団「Capitaine Boomer Collective (ブーマー船長集団)」が仕掛けたアート作品だったのです。現在、パリで行われている夏のアートフェスティバル「Paris l’été」(7月17日から8月5日まで)のプロモーションとして金曜日から3日間 ”展示” されました。
カラダ中に生々しい傷をつくり、ぐったりと横たわるガラス繊維製のマッコウクジラは、捕鯨の歴史や鯨類の窮状を訴えるものでもあります。
実は、今回のパリが初めてではなく、すでにオランダ、ロンドンのテムズ川、フランス・レンヌ市内を流れるヴィレーヌ川のほとりにも出現しています。
人目の少ない夜中のうちに運び込まれ、サプライズを成功させるため、パリ市あげての本気の演出。
ニセモノの科学者はホンモノの俳優たちでした。「信じられない!」と驚くパリジャン、パリジェンヌの中には、エキストラ俳優もいたのでしょう。
ユーモアに対する情熱と寛容さがフランス人らしい。その背景には、アートに対する意識の高さと動物への愛があると言えます。
子供から大人まで、たくさんの人々が横たわるクジラを目の当たりにしました。実際に自分の目で見ると、その存在を改めて意識します。これを見て、どう感じるかは人それぞれ。
アートであれ、環境問題であれ、大切なのは目撃すること。ひとりひとりが問題を提起するということではないでしょうか。
人々が立ち止まり、考えさせられた夏のサプライズ。さて、あなたは、どう受け止めますか?
Posted by マント フミ子
マント フミ子
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修復家。岡山県出身。在仏30年。フランスに暮らしはじめ、アンティークの素晴らしさに気づく。元オークション会社勤務。現在はパリとパリ郊外の自宅にて家具やアンティーク品の修復をしている。