PANORAMA STORIES
いざ、オランダの箱根へ! オッテルローの森に息づく至宝たち Posted on 2017/07/06 まきの ななこ ライフスタイルキュレーター アムステルダム
初夏の緑きらめく6月のとある日、そのチャンスは突然にやって来ました。オランダに来て以来の念願だった”クレラー・ミュラー美術館”を訪問することができたのです。
クレラー・ミュラー美術館はアムステルダムから電車とバスを乗り継ぐこと約1時間半。デ・ホーヘ・フェルウェ国立公園のなかにあります。
その名前からお察しがつくように、オランダの実業家でアートコレクショナーのヘレン・クレラー・ミュラーとその夫であるアントンが1907年から1922年までの間に集めたおよそ11,500点の美術作品は、20世紀最大のプライベート・コレクションのひとつと言われています。
なかでも有名なのは、約90点の絵画と約180点の素描画で構成されるヴァン・ゴッホ・コレクション。
オランダ・アムステルダムにあるゴッホ美術館に次ぐ、世界で二番目の規模を誇ることから”ゴッホの第二の故郷”とも呼ばれています。
『アルルのはね橋(ラングロアの橋)』、『種まく人』(ともに1888年)や『糸杉と星の見える道』(1890年)などはこちらで鑑賞することできます。ゴッホがまだ有名でなかった頃にこれだけ多くの作品を収集したのですから、クレラー・ミュラー夫妻の先見の明には目を見張るものがあります。
アムステルダムのゴッホ美術館がいつも混み合っているのに比べると、こちらでは優しい自然光のもと、ゆっくりと鑑賞することができます。同じ画家の作品でも観る環境によって、響くものが少し違ったりしますね。
またその膨大なコレクションはゴッホだけにとどまらず、モネやスーラ、ピカソにモンドリアンなど多くの現代アートにおよびます。オランダの国立美術館では、この時代の作品に出会うことが意外と難しかったりするので、オランダ黄金期とは一味違う、柔らかい色使い、筆使いに癒されるのも、少し新鮮でなんだか心地よいものです(笑)。
そんなクレラー・ミュラー美術館でもうひとつ忘れてはならないもの、それは25ヘクタールに及ぶ庭園に置かれた様々な彫刻たち。マイヨールにビュフェ、ピエール・ユイグなど、実に160点以上のモダン彫刻が緑の匂い香る芝生の公園に点在しています。
私が小学生の頃、家族での週末ドライブ定番コースであった”箱根 彫刻の森美術館”は、こちらをモデルにつくられたとも言われています。確かにアムステルダムからのアクセス具合といい、周りのロケーションといい、よく似ています。
なにか懐かしいノスタルジックな気分がしたのは、そんな理由からなのかも知れませんね。
私が訪れた日には、地元の小学生が絵画や彫刻をスケッチしにやって来ていました。グループで画家について調べて発表するらしく、みんな絵の前に座り携帯で検索中。なんとも現代っ子な光景です。かと思うと、その隣ではおそらく引退されたと思われる老夫婦が仲良く手を繋いで、作品のキャプションをひとつひとつ読みながらじっくりと鑑賞しています。
オランダ郊外の美術館ではそんな地元の人々と美術館の愛おしい関係が印象的です。
アートを後世に伝えていくことは、たとえ国をあげて取り組んだとしても難しいことが多いもの。
20世紀初め、私財を投じてコレクションをしたクレラー・ミュラー夫妻の情熱と想いが、静かに確かに力強く、これからも引き継がれていくことを願います。
柔らかな光が降るオッテルローの森が、いつまでも豊かに輝き続けますように。
クレラー・ミュラー美術館
https://krollermuller.nl/jp
Posted by まきの ななこ
まきの ななこ
▷記事一覧Nanako Makino
ライフスタイルキュレーター。シカゴ、東京、モスクワ、ロンドン、、、一期一会に生かされて。新しいホテルやブランドなどの立ち上げに携わりながら様々な都市を巡り、2014年よりアムステルダム在住。オランダ語見習い中。放浪癖あり。