PANORAMA STORIES
幸せを運ぶ、四つ葉のクローバーチーズ Posted on 2017/07/05 久田 早苗 チーズ熟成士 パリ
パリも東京に負けないくらいの暑さが続いています。
年々湿度も多くなったと感じるのは私だけでしょうか?
それでも、冷房設備なく毎日暮らせるのは石造りの建物のおかげなのでしょうね。
今年はフランス全土が天気に恵まれ、動物たちの食料となる草が、栄養もタップリ、豊富に生えているのだそうです。場所によっては1年分をすでに刈り取り、干し草の準備が完了した農家さんもあるようで、嬉しい限りですね。
種類を問わず「チーズ作り」が真っ盛りの季節ですが、暑い時はどうしても濃厚な味のチーズは嫌われがち。
今回は、Le Trèfle(トレーフル)という山羊チーズをご紹介したいと思います。
日本でも目にする機会が多くなった、四つ葉のクローバー型をした灰まぶしのチーズは、全て農家製。無殺菌乳で作られます。
現在の作り手は、ノルマンディーに 1軒、ペイ・ドゥ・ラ・ロワールに1軒、サントルに5軒の合計7社が共同体を結成し、全社同じレシピで協力しながら普及に努めています。
今回お尋ねしたのは、5年かかってこのチーズのレシピをよみがえらせたチーズの御本家、Basilou社。
パリから180km、ノルマンディーにある農家です。
お父さんと息子さんの2代に渡る農家で、FROMAGERIE HISADAパリ店では彼らから、こちらも山羊のチーズであるBasilou(バジルー)を購入し、アフィネ(熟成)にしてお出ししていました。
しかし、6月初旬に行われたトゥールでのチーズコンクールで彼らに再会し、他に作っているチーズが有りますか? とお伺いしましたところ、「トレーフル」を作っている農家である事が判明したのです。
私たちは丁度、スタッフを連れて社員研修としてどこかの製造所を見学に行きたいと思っていましたので、渡りに船で急遽話がまとまり、訪問させていただくことになりました。
6月20日、39度にも上昇した猛暑日でしたが、山羊たちは風通しのいい小屋で元気に私たちを迎えてくれました。
合計300頭という大所帯は、現在搾乳できる山羊のグループ (200頭)、12月から搾乳でき、クリスマスの需要に対応出来るグループ、そして、子山羊たちのグループ。と、3つのグループに小屋がわけられています。
山羊たちが食べる草の環境は全て自然に任せているため、その土地に生える草の栄養素の加減はとても重要です。
草だけだと消化が速すぎるので、乳搾りの際はトウモロコシを与え栄養を補います。トウモロコシがゆっくりと消化し、不足しがちな栄養素の吸収を助けるのだそうです。
そのおかげで、太り過ぎず痩せ過ぎず、程々に管理され、しっかりとしたチーズが出来上がります!
毎日、朝と夕方、2回の搾乳を行います。
絞った乳は「マチュラシオン」とよばれる成熟過程を過ごし、その後、前日の製造で出た乳清を加え乳酸発酵を行います。
さらに36時間後、水に浸かったお豆腐のような塊を3回おたまですくって型に入れて行きます。
全てが丁寧な手作業なのです。
Le Trèfle(トレーフル)はクローバーと言う意味のフランス語ですが、四つ葉は日本と同じく「幸せ」を表すものです。お祝い事にもよし。また、幸せな気分を味わえるチーズと言えますね。
<チーズ豆知識>
Le Trèfle(トレーフル)灰まぶし130g。山羊種はアルピンヌ・シャモワゼ
フレからアフィネまで各段階での美味しさが味わえる。無殺菌乳を使用。
10日間は製造所にて熟成 (表面に綺麗なジオトリカムが付いたら乾燥部屋から熟成庫へ移動)
トレフルを作る7社が共同体となり、同じレシピで製造している。
Posted by 久田 早苗
久田 早苗
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チーズ熟成士 株式会社 久田 取締役 副社長。1985年、東京立川市にチーズ専門小売店「チーズ王国」1号店を開店。2004年にはパリ16区に「Fromagerie HISADA」、2010年にはパリ1区に熟成チーズの販売とチーズカフェを併設したSalon du Fromage HISADAをオープンする。2008年、日本人で初めてのチーズ熟成士最高位の称号「Maitre Fromager」を受勲。2013年にはフランス共和国農事功労賞シュヴァリエ勲位、2015 年にはフランス共和国農事功労賞オフィシエ勲位を綬章。