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ジャン・コクトーは言った。「南仏は花を育てる温室、パリは花を売るブティック」 Posted on 2017/04/30 町田 陽子 シャンブルドット経営 南仏・プロヴァンス

ジャン・コクトーは言った。「南仏は花を育てる温室、パリは花を売るブティック」

この季節になると思い出す。ひと束のスズランの花。
ある田舎の村で友人が挙式をしたとき、ひとりの初老の男性が普段着でスズランの花を手にやってきた。
ラッピングもない、庭から摘んできたままの花。
幼い頃から新婦を知っているという、その近所のおじさんは、照れくさそうに、静かに、おめでとうとその花を彼女に手渡した。

花というのは、不思議なもの。私たちの心のうちを、物言わず、けれど雄弁に物語ってくれる。

バラのような人。水仙のような人。スミレのような人。
人を花にたとえると、へたな形容詞で説明されるより、ぐんとイメージがわくのも不思議。

いま、プロヴァンスは大地から花の命があふれ出している。
サクランボの花、藤の花、ハナズオウ、菜の花、マロニエ、リラ、アカシア、コクリコ……。プロヴァンスの花といえばラベンダーやヒマワリが咲く7月に人気が集中しているが、じつは早春から夏までずっと花の競演が続く。

南仏を愛したパリジャンの画家ジャン・コクトーは言った。
「南仏は花を育てる温室、パリは花を売るブティック」と。
 



ジャン・コクトーは言った。「南仏は花を育てる温室、パリは花を売るブティック」

そんなプロヴァンスに、風変わりな庭園がある。
几帳面に刈り込まれたフランス式庭園とは異なり、かといって、イングリッシュガーデンとも言い難い。
タイム、ローズマリー、ラベンダーなどのハーブや薬用植物をはじめとする多種多様な植物が、アレッポ松やピスタチオの木の下でところ狭しと気持ちよさそうに、伸び放題に生い茂っている。まるで人の手が入っていないかのような野性っぷりで、花が好きな我が家のお客様をご案内すると、誰もが感激される。

ここは、セリニャン・デュ・コンタという小さな村にある、『昆虫記』で有名なファーブルの家の庭。
そういえば、この庭、いかにも昆虫たちに居心地がよさそう。
余談だが、ファーブルといえば、日本では知らない人がいないといっても過言ではないが、フランスでは意外と知らない人が多くて驚く。
 

高校の先生だったファーブルは、40代後半で辞職し、5人の子どもを育てながら裕福とはいえない生活をしていた。しかし、56歳のとき、長年の夢だった家を持つことができた。
彼にとっての“夢の家”とは、「誰にも邪魔されずに昆虫を観察できる家と庭」を意味するのだが、さっそくそこに昆虫の理想郷と研究室を作り、思う存分、好きなだけ、フンコロガシやイモムシやらを追いかけた。

近所の人たちからは、いつも地面をじっと見ている変わった人と思われていたらしいが、人生はクレイジーになれた者勝ちである。他人の視線から自分を解放した先に、真に自由な人生が待っている。
ファーブルは、夢の家という孵化器を手にいれたことで、いっきにサナギから蝶へと変化したかのようにみえる。
『昆虫記』シリーズの執筆に没頭し、それらは15ヶ国語に翻訳され、妻に先立たれてやもめ暮らしとなるも、62歳で41歳年下の妻と再婚し、さらに3人の子どもをもち、昆虫の研究のみならず、キノコの水彩画を描き、詩を書き、作曲もし、92歳まで生きたのである(1823ー1915年)。

56歳で夢を叶え、その後36年間も好きなことに専念できたなんて、勇気がもらえる話ではないか。
そう、焦ることはない。夢と理想はいくつになっても手放してはいけない。
 

私の友人マリーは55歳過ぎてから突如“陶芸家”になり、アメリカにまで作品を輸出するほどになった。

肉屋のアンヌ(47歳)は、先日久しぶりにあったら、25年も続けた店をやめて、ずっとやりたかった庭のデザインを勉強するために学校に行くことにしたと、はりきっていた。

年齢からも自由になれたら人生の可能性は無限大。

叶わなかったら恥ずかしいという心理が働かないのか、プロヴァンスの人が自分の夢をみな堂々と楽しそうに話すのに、最初は驚いた。その癖がついて、私も日本でつい、素朴な夢を口走ってしまったら、思いがけず、「それは無理でしょう」と同席していた先輩方に爆笑された。
人の夢を笑うなんて失礼だと思うのだが、まぁ笑われてもかまわない。人からどう思われようが気にせず、ファーブル流に信念をもって、急がず、あわてず、ゴーイング・マイ・ウェイ、でいこう!
 

ジャン・コクトーは言った。「南仏は花を育てる温室、パリは花を売るブティック」

 
 



Posted by 町田 陽子

町田 陽子

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Yoko MACHIDA
シャンブルドット(フランス版B&B)ヴィラ・モンローズ Villa Montrose を営みながら執筆を行う。ショップサイトvillamontrose.shopではフランスの古き良きもの、安心・安全な環境にやさしいものを提案・販売している。阪急百貨店の「フランスフェア」のコーディネイトをパートナーのダヴィッドと担当。著書に『ゆでたまごを作れなくても幸せなフランス人』『南フランスの休日プロヴァンスへ』