JINSEI STORIES
にんじんのきんぴらとか食べたーい、父ちゃん居酒屋ごっこ Posted on 2025/04/09 辻 仁成 作家 パリ
フランスの(田舎)スーパーでは、やたら日本関連商品が出回っている。
レジのお兄ちゃんに、
「え、日本人?」
と聞かれ、うん、と言ったら、
「うわああ、すごー、はじめて会った。日本人だと思いました」
とかえってきたので、
「え、どこが?」
と好奇心にかられて、訊き返したら、
「髪の毛かな。マンガっぽい」
だって、あはは。
ということで、最近、どこのスーパーでも日本関連商品だらけ、しいたけ(どんこ)、梅干し、寿司米、ラーメンの器、といった具合だ。
でも、すべて、メイドインフランスなんだよね。
味は悪くないけれど、ちょっと、アレンジされていたりするから、面白い。
「日本のどこ出身ですか?」
「生まれは東京、でも、あちこち」
「ほっかいどー?」
「知っているの?」
「行ったことないけれど、あこがれてるんです」
そのあと、謎の日本語を披露してくれた。
「でしたーありがー、ざます」
みたいな、ありがとうございます、ってこと、かな? あはは。
ぼくが暮らすノルマンディの田舎の若者はみんな日本が大好きで、だから、三四郎もぼくも親切にされている。
20年くらい前だと、田舎は保守的で、外国人には暮らしにくい感じだったが、そうでもない。日本の経済は下がり気味だけれど、文化発信力はすごい。
まだまだいける。
※ 干ししいたけ。
※ う、梅干し。
※ 寿司米なんだけれど、この絵が、えぐい。どこ?
※ ラーメンのドンブリ、箸ガセットになっとる。ラーメン食べたい、らしい。
ということで、今日は居酒屋ごっこをやることにした。
居酒屋「ひとなり」開店~、へい、いらっしゃい。
「お、三四郎さん、久しぶりです」
「わんわん」
「あはは、もう、呑んでるな。からまないでくださいよ」
「わおーーーーん」
なんか、西荻窪の(かつて住んでいた)居酒屋で注文してみたいものを、冷蔵庫君と相談をして、作ってみたー。
大好物は、レンコンのきんぴらなんだけれど、レンコンはパリのアジア系食材店でしか買えないので、にんじんで我慢した。
一応、知っているとは思うが、簡単なレシピを、・・・。超簡単に。
千切りにする。
ごま油で炒める。
ちょっと塩して、麺つゆあれば、しゃっとまわしかけて、みりん、ちょっと味見して、醤油足すなり、なんでもええ、くらいかな。
イージーだ。
で、胡麻でも振りかけてやれ。
350円で、どうぞ!!! やすっ。え、高い!?
ちなみに、先ほどのスーパーの店員さん、アントナン君という。
日本を好きになったきっかけはマンガだったが、そこから食文化に興味を持ち、パリに行くと、日本人が経営する「おにぎり屋」「ラーメン屋」「カツカレー屋」さんをハシゴするのだとか・・・。
なるほどね。
なんちゃって日本料理とほんものの日本食の違いとか、かなり詳しく知っていた。ほー。
「大阪が好きです」
というので、
「へー、大阪のどこが好きなの?」
と訊いたら、
「だから、行ったことはないけれど、なんか、イキイキしている感じとかかな。行きたい~」
という謎なこたえだった。
行ったことあるみたいに、行ったことない大阪を語りたおす、アントナン君。
「もしかして、ユーチューバーのルイさんとか、見てるの?」
「えええ、知ってます、そう、正解!」
日本を紹介する人気あるユーチューバーが何人かいて、それを見て育ったんやろな、と思ったので聞いたら、見事に、図星であった。
行ったこともない北海道や京都や沖縄や大阪のことよく知っていた。笑。
「ムッシュはなんか、ロン毛で、ニット帽で、サングラスで、目立ってるし、だぼだぼのずぼんで、ほら、なんか、ワンピースが年取ったみたいで、そういう不良日本人に、憧れます」
えええええ! なんだって~っ!!!!!!
鳥ハムがあったので、スライスして、つぶした梅とあえた。
居酒屋にほしい一品、「梅和え」、おおお、すっぺー、焼酎にあう!
「大将、焼酎、わん!」
常連客の三四郎さんから、注文が入った。
「はい、おおきにー」
こうやって、田舎の夜はふけていくのだー。
※ 貰いものの焼酎、大事に飲んでいる。高いものは自分では買わない。
※「当店自慢の4種盛」というのを作ってみた。左上は、ラディッシュのお漬物、右上のが鯖の塩焼き、鳥ハム梅和え、にんじんのきんぴら。
「大将、おつかれわん!」
ということで、大変楽しい田舎の居酒屋ごっこであった。
これから、大豆を買いに、5キロ離れた有機野菜店まで、テクテクさんちゃんと、田舎道を歩いて、行ってくるのだ。
日々は、穏やかに流れている。
テレビもないし、週刊誌もないし、雑音が届かないので、落ち着く。
このまま、仙人になってやろうかな、と思っている、父ちゃんであります。
ちゃんちゃん。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
そうやって、田舎では、日が暮れていきます。となりの家があるんですが、それ以外は何もないので、夜は真っ暗です。でも、よく眠れる。電磁波がないとこんなに爆睡できるのだ、と驚くばかりです。田舎暮らしの良さは、朝がちゃんと来て朝陽で目覚め、夜は太陽が海に沈んで、星がたくさん瞬きはじめ、月が君臨して、電気を消すと真っ暗になって、寂しい時は、三四郎を抱きしめて、はい、おやすみなさい。健康~。