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パリ最新情報「「もしも」に備えて。EU、72時間分のサバイバルキット準備を呼びかけ」 Posted on 2025/03/28 Design Stories  

 
ヨーロッパで政治的緊張が高まるなか、EUは3月26日、加盟国の国民に対し、緊急事態に備えて3日分の食料を備蓄するなど、具体的な対策をとるよう呼びかけた。これは戦争やサイバー攻撃、テロといった国際情勢の不安に備えたもので、火山噴火や洪水、森林火災などの災害にも対応できるとされている。しかし、この「あらゆる事態に備えよ」というEU側のメッセージは、とくに対ロシア防衛を強化する今のフランスにおいて、一層の緊張感をもって受け止められている。
 

パリ最新情報「「もしも」に備えて。EU、72時間分のサバイバルキット準備を呼びかけ」



 
今回、EUが推奨したのは「命を救うリュックサック」。万が一の事態に備え、自宅での避難生活を72時間支えるためのサバイバルキットだ。中には飲料水や保存食品だけでなく、ラジオ、常備薬、缶切り・ナイフ、懐中電灯、マッチ、現金、防水ポーチに入れた身分証のコピーなどが含まれている。日本の防災セットともよく似ているその内容は、緊急時に必要な最低限の備えとして推奨されたものだった。
 

パリ最新情報「「もしも」に備えて。EU、72時間分のサバイバルキット準備を呼びかけ」



 
さらにEUは、27の加盟国でガイドラインを統一し、「サイレンが鳴ったら何をすべきか」という共通のマニュアルを、あらゆるレベルで浸透させることを目指しているという。これには、民間人と軍の協力体制の強化や、消防・医療関係者による定期的な訓練の実施も含まれるそうだ。
ただ国民の意識や準備態勢には、国によって大きな差がある。3月はじめにはフランスでも対ロシアを念頭に置いた独自の防衛策が発表されたが、政府と市民の意識については溝が深まるばかりといった印象だ。

そんなフランスも、春の終わり頃には、フランス独自の「サバイバル・マニュアル」を全世帯に向けて配布する予定。これにはEUと同じく、「もしものための備蓄品リスト」が記載されている。ただフランスならではの要素も追加されていて、国内ラジオ局の周波数や、原発事故が発生した場合の対応策などが含まれているという。しかも、このマニュアルはオンラインではなく、小冊子で配布されることになっている。
 

パリ最新情報「「もしも」に備えて。EU、72時間分のサバイバルキット準備を呼びかけ」



 
少し前の話ではあるものの、フランスでは有事の際の具体的な対処法を知らない国民が多いことが、2013年の世論調査(IFOP)で明らかになっている。たしかに2020年のパンデミックで外出禁止令が発表された時には、トイレットペーパーや食料の買いだめに走ったりと、ちょっとしたパニックに陥った人々もいた。
フランスの「サバイバル・マニュアル」は、こうした背景を教訓にしたとあった(戦争のリスクだけに焦点を当てたものではないとのこと)。しかしフランスのSNS上では、この取り組みを懸念する声が早速上がっている。「不安と恐怖を煽るのはやめて」「戦争を起こす気?」「また私たちの税金が無駄にされる!」といった否定的な意見が多く、支持する人は少数派。やはり、マクロン大統領の政策に疑問を持つ人が後を絶たない。

24年末以降、この「サバイバル・マニュアル」はすでにスウェーデンやフィンランドでも発表されている。ヨーロッパ各国で次々と導入が進むなか、これが単なる備えとして終わることを願うばかりだ。(大)
 

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