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パリ最新情報「洗濯しすぎ?フランスで巻き起こった『スローウォッシュ』論争」 Posted on 2025/03/01 Design Stories  

 
「スローウォッシュ(Slow Wash)」という耳慣れない言葉が、今のフランスで広がっている。
スローウォッシュとは、エコロジーの観点から“洗濯回数を最小限にとどめる”取り組みのこと。2024年末、フランス環境エネルギー管理庁(ADEME)はこの流れを汲んで、「私たちは必要以上に洗濯をする傾向がある」とフランス国民に向けて発信し、衣類を洗う理想のペースをまとめたガイドを発表した。
ところが、このガイドが予想以上の大論争を巻き起こすことになる。
 

パリ最新情報「洗濯しすぎ?フランスで巻き起こった『スローウォッシュ』論争」

※ADEMEが発表した洗濯ガイド ©Le Parisien



 
ADEMEが示した理想の洗濯ペースはこうだ。
・下着(ショーツ):1回着たら洗濯
・スポーツウェア:1~3回着用後に洗濯
・コットンのトップス:4〜5回
・ブラジャー、パジャマ:7回
・セーター:10〜15回
・ジーンズ:15〜30回

つまり、1回の着用で洗って良いのは男女ともに「ショーツ」だけ。ブラジャーとパジャマに関しては、なんと7回も着用してから洗うことを推奨している。
エコ意識の高いフランス人もこれにはさすがに驚いたようで、XをはじめとしたSNSは炎上状態に。「地下鉄の悪臭がさらに酷くなる」「ショーツしか同意できない」「子どものいる家庭ではあり得ない」など、批判の声が殺到したのだ。その後に行われた「ADEMEの提案に賛成しますか?」というアンケートでも、賛成はわずか8%、反対が58%、「状況による」が34%と、圧倒的に否定派が多かった。
 

パリ最新情報「洗濯しすぎ?フランスで巻き起こった『スローウォッシュ』論争」



 
意識の違いはあれど、この「スローウォッシュ」は今やフランスで新しいムーブメントとして知られるようになった。さらにこれをテーマにした論争は、皮膚科医や政治家、テキスタイルの専門家たちにも波及。結局、フランス国民から激しい批判を受けたADEMEは対応を余儀なくされ、2025年2月に出された新しいガイドでは、洗濯頻度の具体的な数字が消されることになった。現在では「 一度着たら洗濯する衣類」「数回着たら洗濯する衣類」「数週間着たら洗濯する衣類 」という柔軟な表現に置き換えられている。

衛生基準を優先すべきか、環境基準を優先すべきか。こうしたテーマは、ADEMEの提案をきっかけに、フランス全体を巻き込む大きな議論へと発展した。
快適さや清潔さ、利便性を追い求めてしまうと、環境にはたしかに悪影響を与えてしまう。そんな中でフランスではここ数年、環境保護を目的とした規制法案が次々と可決されている。 EUの中でも、フランスが自ら率先してイニシアチブを取っている印象だ。しかしその裏では、消費者や製造業者が政府から置き去りにされているといったイメージも……。もしかしたらそんな不安や不満が、今回の大論争につながったのかもしれない。
 

パリ最新情報「洗濯しすぎ?フランスで巻き起こった『スローウォッシュ』論争」



 
とはいえフランスでは、環境にやさしい食器用洗剤・洗濯洗剤が数多く販売されている。それを意識して手に取る人も、非常に多いと思う。ただ、洗濯の頻度となると各家庭の事情が大きく関わってくるのが現実だ。いくらフランスが乾燥しているとはいえ、汗をかいた後のスポーツウェアはすぐにでも洗ってしまいたい。
今回の批判を受けて、ADEMEのトップはこのようにコメントしている。「提案の目的は、意識を高め、私たちの日常的な行動を見直すことであり、(皆様には)少しの理性と少しの冷静さ、そして少しの常識を求めたい」

実際に人がどれほどの頻度で洗濯しているかは、普段の会話でもあまり話題に上らない。だが、この度の騒動は「日常の行動に異なる視点をもたらす」という点において、フランス国民に大きなインパクトを与えたと感じる。(大)
 

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