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パリ最新情報「パリのシンボル、セーヌ川に名誉市民の称号が与えられる!」 Posted on 2025/02/23 Design Stories
パリをゆったりと流れる雄大なセーヌ川。2025年2月、パリ市はなんとこのセーヌ川に「名誉市民権」を授与することを決定した。人物以外にこの称号が与えられるのは、きわめて珍しい。
パリ市は公式ホームページで、「セーヌ川が私たちに与えてくれたものを、セーヌ川に返す時が来た」とコメント。その言葉には、長い歴史のなかでパリとともに歩んできたセーヌ川への深い敬意と感謝の思いが込められている。
そんなセーヌ川は、紛れもなくパリの歴史と深く結びついている。フランスでもっとも多くの人が訪れる川であり、古くから周辺に暮らす人々を養い、主要な貿易ルートとしても機能してきた。そして何より、無数の芸術家たちにインスピレーションを与えてきた唯一無二の存在でもある。
パリ市の名誉市民権とは、通常、人権の保護や文化・芸術の分野で特別な貢献を果たした個人、または団体に贈られる称号だ。過去には、南アフリカのネルソン・マンデラ氏や、オーストラリアのジュリアン・アサンジ氏などが受賞している。ただ、この称号自体に法的な権利はないため、フランス国籍や市民権が与えられることはない。どちらかというと、パリ市がその人物を公に称えたり、支援を表明するという象徴的な意味を持っている。
今回のセーヌ川への授与は、人物ではなく自然に与えられる非常に珍しいケースだ。しかし、歴史的な意義を持つ場合には例外的に認められることがあって、ニュージーランドではワンガヌイ川が、スペインではマールメノール湖に同様の称号が与えられている。
では、名誉市民権が与えられたセーヌ川では、具体的にどんなことが可能になるのだろう?
最大の目的は、川の保護を強化すること。この称号により、環境破壊が起きた際の復旧や、川岸の保全をよりスムーズに、より優先的に進めることが可能になるという。また、セーヌ川にとって今回の授与は、これから法的な権利を持つ存在として認められるための第一歩となる可能性がある。
「自然にも権利を」とする考え方は、実は今、ヨーロッパ各地で急速に広がっている。自然を単なる資源ではなく、守るべき存在とみなし、長年にわたる環境破壊や搾取に対する反省の意味を込めた動きだ。セーヌ川の名誉市民化も、そんな新しい時代の流れを象徴する試みなのかもしれない。
パリの地元メディアは今回の決定を受け、こう報じている。 「セーヌ川はただの川ではない。パリのアイデンティティの一部だ」
名誉市民権については、パリ市民のあいだでも日常的に話題に上ることはない。それでも、セーヌ川を「アイデンティティの一部」として大切に思う人は多いだろう。
それを表すかのように、昨年のパリオリンピック・パラリンピックでは、セーヌ川が幾度となく映し出され、多くの人の目に焼きついた。そして2025年の現在では、今夏からセーヌ川の3つのポイントで遊泳ができるよう、整備が急ピッチで進められている。
名誉市民となったセーヌ川が、これからも美しく、より良い環境のもとで人々に愛され続けることを願いたい。(大)