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パリ最新情報「フランスの景観に欠かせない『四角い街路樹』。では、なぜ四角に?」 Posted on 2025/02/21 Design Stories  

 
フランスの庭園を訪れたことがある人なら、きっちり四角く刈り揃えられた街路樹を見て、珍しく感じた人も多いと思う。
 

パリ最新情報「フランスの景観に欠かせない『四角い街路樹』。では、なぜ四角に?」

※パリのチュイルリー庭園



 
実はこの光景、パリだけでなくフランス各地で見ることができる。ヴェルサイユ宮殿に代表される庭園はもちろん、地方都市の道路沿いでも、四角く剪定された木々が整然と並んでいるのだ。
 

パリ最新情報「フランスの景観に欠かせない『四角い街路樹』。では、なぜ四角に?」

※パリ郊外の街路樹

 
日本の丸みを帯びた剪定方法とは違い、四角い木をフランスで初めて見た時には少し驚いてしまった。剥き出しの枝と武骨なその表情は、どこか寂しげでもある。しかし、そんな姿が冬のフランスの景色にぴったりと合っているから不思議だ。
「冬になるとよく見かけるな」とは思っていたが、それもそのはず、剪定する時期はちょうど今頃がピークで、春を迎える前には済ませてしまうらしい。先日、運よくその剪定作業に出くわすことができた。
 

パリ最新情報「フランスの景観に欠かせない『四角い街路樹』。では、なぜ四角に?」



 
まず、剪定作業は想像以上に大掛かりだった。クレーン車に大型の電動ノコギリが取り付けられ、作業員たちに見守られながら、小枝がゆっくりと切り落とされていく。作業中はかなり大きな音が響くものの、1年に一度、または2年に一度のタイミングで必ず行われているそうだ。
 

パリ最新情報「フランスの景観に欠かせない『四角い街路樹』。では、なぜ四角に?」

※地域住民には作業内容が事前に知らされる。場合によっては電気が止まるそう

 
剪定の時期は自治体によって異なるが、早いところでは11月から始まり、数日から数週間かけてじっくりと進められる。作業を主導するのは、市役所や区役所などの行政機関。ちなみにこの四角い剪定方法は、フランス語で「カーテン剪定(La taille en rideaux)」と呼ばれている。街路樹を壁やカーテンのように、平らでまっすぐ整えるという剪定方法だ。
 

パリ最新情報「フランスの景観に欠かせない『四角い街路樹』。では、なぜ四角に?」

※切り落とされた枝はリサイクルにも

パリ最新情報「フランスの景観に欠かせない『四角い街路樹』。では、なぜ四角に?」



 
四角く剪定する理由はいくつかある。一つは、木の高さや密度を均一に保つため。また、大通り沿いでは枝を整理することでバスやトラックが通りやすくなるうえ、近くのアパートに住む人にとっては、冬の間に日光を取り入れやすくする役割も果たしている。

それだけではない。カーテン剪定には、フランスに多く生息するとされるムクドリが木に留まり、糞が大量に落ちてしまうのを防ぐ役割がある。こうした実用的な理由に加えて、フランスならではの美観計画が合わさって生まれたのが、カーテン剪定というわけである。
 

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フランスならではの美観は、ヴェルサイユ宮殿の庭園に見られるように“左右対称”であることが多い。たしかに木を四角く整えれば左右対称にしやすいが、意識して見ていると、家庭の生垣でも四角く刈り揃えられているところが驚くほど多いことに気づく。実用的な理由だけでなく、フランス人の好みというのも少なからずあるのだろう。
 

パリ最新情報「フランスの景観に欠かせない『四角い街路樹』。では、なぜ四角に?」

 
そんなフランスの人々にとって、四角い街路樹は「生まれた時から当たり前にあるもの」で、とくに気に留めることはないという。むしろ、柔らかな曲線を生かした日本庭園に惹かれる人も少なくなく、関心を持つ人が後を絶たないそうだ。
異なる土地で当たり前とされる風景も、視点を変えてみると新鮮に映ったりする。今回、フランスの四角い街路樹には美観だけでなく、暮らしに根ざした実用的な役割があることが分かった。(大)
 

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