PANORAMA STORIES
q.b.レシピのないレシピ帳~ナポリの味 パスタ エ パターテ~ Posted on 2025/01/05 八重樫 圭輔 シェフ イタリア・イスキア
「コーザ クチーニ オッジ?」Cosa cucini oggi?
これは訳すると「今日は何をお料理するの?」「今日の献立は何?」という意味のイタリア語です。道端で知人と会話を交わす時、教育、政治の話題や時事問題はとかく愚痴っぽくなりがちなので、僕はこのフレーズを多用しています。もともと話題に乏しいというせいもあるのですが。因みに料理をしない人に対しては「何食べたの?」と聞くことにしています。
たまに「それがまだ決めていないんだけど、何か良いアイデアある?」と返される時もあり、そこからメニュー談議に花が咲きます。そんな中、かなりの確率で「あ、いいねえ。それにしよう」と落ち着く一品があります。
そして決まり文句のように「アッツェッカータに限るよね。プローヴォラチーズは入れる派かい?」と続くのです。それは“pasta e patateパスタ エ パターテ”(パスタとジャガイモ)というナポリ地方の伝統的な家庭料理で、とても簡単に作ることができます。
聞きなれないアッツェッカータという言葉と共にレシピをご紹介しますので、ぜひ皆さんも挑戦してみて下さいね。この寒い時期にもぴったりのホッとする料理です。
パスタ エ パターテ ~ナポリ風ジャガイモのパスタ ~
★材料(4~5人分)
○ミックスパスタ 320g ○じゃがいも(皮をむいた状態で) 約600g
○玉ねぎ 小1個 ○人参 小1本 ○セロリ 1本
○パンチェッタか背脂の部分、又は厚めのベーコン 80g ○ミニトマト 4~5個
○パルミジャーノチーズ(できれば皮付き)q.b.(適量)
○燻製プローヴォラチーズ(無くても可)100g ○塩 胡椒 オリーブ油 q.b.
(補足)ミックスパスタは中途半端に余っているパスタの寄せ集めで大丈夫です。
スパゲティもポキポキと小さく折って入れることができます。燻製プローヴォラのかわりにスカモルツァ、あるいはモッツァレラでも可。ミニトマトの代用にトマトペーストでも。
★準備
じゃがいもは1~2センチ角ほどに切り水にさらしておきます。玉ねぎ、人参、セロリはみじん切り、パンチェッタ(ベーコン)は小さな角切りにします。パルミジャーノの皮がある時は、表面を削ってきれいにし小さくカット。
★作り方
①鍋にオリーブ油をふたまわし入れ、パンチェッタ(ベーコン)を加えて表面が少しカリっとするまで弱火で炒めます。玉ねぎ、人参、セロリを加え、しんなりするまでじっくりと炒めます。
②4つ切りにしたミニトマトを入れ軽く火が通ったら、じゃがいもを加えてさっと全体を混ぜ合わせ、材料全体がひたひたになる位の量の水を加え中火で沸騰させます。
③沸騰したら弱火にして塩をふりますが、後ほどチーズもかけるので、入れすぎないようにしましょう。全体がトロっとしてきたら、パルミジャーノチーズの皮を加えます。30分程かけて木べらでたまに混ぜながら煮込みます。
④次にミックスパスタを入れます。別茹でではないのがポイントです。ここからは焦げ付きやすいので、木べらで頻繁になべ底から混ぜながらパスタを煮ていきましょう。パスタが水分を吸って混ぜにくくなったら、その都度お玉1杯分くらいのお湯を足します。煮込んだじゃがいもとパスタから滲出した澱粉、チーズの皮で、固めのシチューのようなとろみが出てきます。パスタが大体ゆであがったら火を止めて2分ほど休ませます。燻製プローヴォラがある時はこの時点で角切りにしたものを加え、全体に溶け込むまで混ぜ込みます。好みでバジルを加える人もいます。お皿に盛って黒胡椒、パルミジャーノチーズをかけて出来上がりです!
この料理は決して水っぽく仕上げないことが肝心です。先ほど出てきたazzeccataアッツェッカータという言葉はナポリ地方では‘くっついた“という意味を持っていて、ここでは料理に十分な濃度がある事を指します。理想的な仕上がりはお皿を傾けても中身が動かないこと(まさにくっついた状態)、鍋の中に木べらをさしても倒れないこと、とよく言われますが、お好みで調整してください。
いずれにせよ、十分な濃度があるように仕上げてくださいね。この料理は17世紀にナポリの貧しい庶民の間で生まれたと言われており、じゃがいもがイタリアで食用になった、ごく初期に考案された事になります。当初はパンチェッタやプローヴォラといったぜいたく品は使われず、非常にシンプルだったようです。1773年に出版されたレシピ本にも載っていることから、その当時にはすでにポピュラーな存在であったと考えられます。じゃがいもと寄せ集めのパスタという2つの炭水化物を使ったこの1品は、低コストで栄養があり、おなかも満たせるので当時の貧しい庶民にとってはありがたいご馳走だったに違いありません。
白状しますと、僕は更にここへパンをちぎって入れるという、まさに炭水化物の三種の神器勢ぞろいにして食べますが、自制心のある読者の皆さんはあまり真似をしないでくださいね(笑)それではまた次回、普段着の食卓でお会いしましょう。
※タイトルのq.b.とは適量を意味するイタリア語quanto basta(クワント バスタ)の略です。細かいことは気にせず臨機応変に、あなたなりのレシピにして頂けたらという思いを込めて。
Posted by 八重樫 圭輔
八重樫 圭輔
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シェフ。函館市生まれ。大学在学中に料理人になることを決め、2000年に渡伊。現在は家族とともにイスキア島に在住。