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パリ最新情報「パリ、屋根職人とその技術がユネスコ無形文化遺産に!」 Posted on 2024/12/08 Design Stories  

 
パリの建築を象徴する「グレーの屋根」。その屋根を扱う技術と職人たちが、ユネスコ無形文化遺産に登録されることになった。
 

パリ最新情報「パリ、屋根職人とその技術がユネスコ無形文化遺産に!」



 
日本の「伝統的酒造り」やタイの「トムヤムクン」など、大きな話題を集めた2024年の無形文化遺産。パリが誇る屋根職人の登録も、フランス国内で30件目という節目にふさわしいのではないだろうか。
フランスの無形文化遺産には、バゲット、カフェとビストロ文化、フランス料理、馬術などが含まれている。このたび新たに加わった屋根職人とその技術は、オスマン建築の保存に欠かせないものとされ、パリの景観美に貢献した点が高く評価されたという。

パリの屋根は、パリジャンが選ぶ「この街で愛するもの」のリストで毎回上位に挙がるほど人気が高い。7月に行われたパリ五輪の開会式では、聖火を掲げた人物がパリの屋根を縦横無尽に駆け抜ける姿がとても印象的だった。
それほどパリ市民から愛されている屋根だが、これが街の歴史、人々の暮らし、そして職人たちの技が一つに溶け合った「生きた景色」であることは疑いようがない。
無形文化遺産登録に貢献したというパリ9区の区長も、「屋根のないパリは、エッフェル塔のないパリと同じだ」と語り、大変誇らしげな様子であった。
 

パリ最新情報「パリ、屋根職人とその技術がユネスコ無形文化遺産に!」



 
そんな屋根の歴史は、19世紀の「パリ大改造」までさかのぼる。パリの屋根がすべてグレーに統一された理由は、「青みがかったグレーに反射する光が美しい」というオスマン男爵の一声から。しかも亜鉛は軽量で安く、当時のモダン性を象徴する真新しい素材だったという。
「パリの景観は美しい」と言われるいちばんの理由は、統一されたこのグレーの屋根にあるのかもしれない(パリの屋根の80%近くを占めている )。
扱いやすい亜鉛はどんな形の屋根にもフィットしたため、職人たちの腕もそれに応えるかたちで磨かれていったそうだ。
 

パリ最新情報「パリ、屋根職人とその技術がユネスコ無形文化遺産に!」



 
しかし、時代の移り変わりとともに新たな問題も生じている。亜鉛製の屋根の下では、夏に熱がこもりすぎると住民たちから悲鳴が上がっているのだ。
こうした気候変動問題に対応するため、パリの屋根職人たちはいま、新たな取り組みをすすめている。
その主な対策は二つ。屋根を白みがかったグレーに塗り替える試みと、屋上庭園の設置だ。「青みがかったグレーに反射する光が美しい」と言われた亜鉛の屋根だが、近年ではこのように気候変動への迅速な対応が求められている。
 

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※工事のカバーにも屋根が描かれている。パリのサン・ラザール駅



 
パリの屋根が無形文化遺産に登録されたのは、職人たちの卓越した技術だけが理由ではない。200年以上にわたり、「この景色を守りたい」と願い続けてきた市民の情熱があったからだろう。
現在、パリで屋根職人として働く人は約6,000人。ユネスコ無形文化遺産への登録は、彼らの技術と熱を次の世代に受け継いでいくという約束でもある。パリの空に描かれる新たな歴史を、これからも静かに見守りたい。(や)
 

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