JINSEI STORIES
フランスごはん日記「なぜか、地下鉄で笑われた父ちゃん。大失敗の巻。恥ずかし~」 Posted on 2024/12/04 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ぼくは一つのことに集中すると、なかなか、休憩というのができない人間なのであーる・ぱちーの。
頭の中がそのことでパンパンになってしまうのだ。父ちゃんあるある。
三四郎のごはんを一時間くらい過ぎてしまうと、三四郎が、ドアの向こう側から、ふんふん、(パパしゃん、ごはんの時間過ぎてまっせ)と催促してくるので、しまった、と慌てて、さんちゃんのご飯を解凍し、出してあげるのだが、また、すぐに仕事に戻り、ええと、10時間くらい、キャンバスに向き合うのも、けっこう、普通なのだ。
なので、腱鞘炎になってしまう。
ただ、最近、視力がぐんと落ちたので、文庫本の字が読めなくなり、夜になると、絵筆はおいて、老眼鏡なるものをかけて執筆に入る、生活なのじゃ。
老眼鏡、よく見えるのー。
メガネのミキさんのかっちょいい老眼鏡なのだ。
老眼鏡だけは絶対、死んでもつけない、と思っていたが、おおお、よく見える。
白髪も数えられるようになったし、もう、どうあがいても、年なのだ。
でも、単行本はまだメガネを使わないでも読めます、と言ったら、事務所のスタッフさんたち、驚いていた。みんな、若いのに老眼なんだね。
ま、個体差というやつかな、あはは。
で、話がそれたが、絵に集中をしていたら、SMSの着信ベルが鳴った。
あれ、誰かな、と思って覗いたら、知り合いのマダムSさんであった。
「辻さん、ちょっと遅れます。5分くらい」
あああ、今日、ランチの約束していたじゃん。
と、思い出し、そのまま、とるものもとらず、飛び出した父ちゃんなのだった。
走りながら、「今、向かっているけれど、こちらも、ちょっと遅れます。15分くらい。先にワインでも飲んどいてください」とメッセージを送り返した。
ということで、今日は、中華街にあるSINORAMAという中華レストランで、知人のSさんと話し合いがあったのだ~・・・。
急げ~、、、、、、、
ところがである。
ぼくが地下鉄に飛び乗ったら、なぜか、みんなが、笑うのだった。
目の前の、お姉さんが、しょうがないわね、という感じで、ぼくの顔を指さした。
あ、もしかして、と思い当たった、間抜けな父ちゃん。
携帯をとりだし、自分を自撮りしてみたら、やはり、顔中に、油絵具が、べったり。
おおお、まいがっ。
この油絵具って、ウイルス並みに、感染力が強いのであーる。
で、手の甲とかに着いていることに気づかず、顔を拭くものだから、鼻から耳にかけて、ベターっと、ついてもうたやないかい!
やべー、でも、拭くものない。
思わず、顔を隠した、父ちゃん。
目の前のお姉さんが、ティッシュを一枚、ぼくにくれた。
なんか、みんな、笑っている。
「画家なんです」
「でしょうね」
「ありがとう」
「頑張ってください」
しかも、これがティッシュじゃ、落ちない。
仕方なく、つばを付けて、取ろうとすると、逆に、のびてしまって、どうしようもないのだった。
ということで、ドジな父ちゃんが四苦八苦していたら、ビオデルマという洗顔の液体があって、(父ちゃんも愛用してます)、それのシートを持っている人がいて、一枚くれた。
「どうぞ」
「あ、すいません」
それでなんとか、ふきとれた、かっちょわりー、父ちゃんなのだった。
みんな、優しい。
ということで、その写真はもちろんないのだけれど、実は、事務所でもいつも顔に絵の具を付けているので、スタッフさんに指摘されたことがあり、その時の写真があったから、かわりに、これでご勘弁。ご想像いただきたい。
笑っていいとも~。
※ 別の日の、顔の落書き。こんなの、ほぼ、毎日なのだ。爪の中は油絵具が入って、また、とれないし・・・。さんざんなのであーる。
15分どころか、結構、おくれて、Sさんが待つ老舗の中華レストランに到着~。
ここは、20年くらい前には、日本人で賑わっていた名店。
ここの「カナール・ラッケ(鴨のロースト、皮つき)」がとっても美味しいのである。
実は、Sさん、個展で見た絵がほしい、という相談なのだった。その絵は売れてしまってもうないので、新たに描いてほしい、と・・・。
父ちゃん的には、自分のコピーはできない、と言ったが、同じでなくてもいいので、ああいう絵がほしい、と切望され、ま、嬉しいことだから、ご飯をしながら、じゃあ、どんな絵にしましょうか、という展開に。
個展が終わった後に、やっぱり、あの絵がほしい、という方は実はけっこういらして、ありがたいというか、何がいいんだろう、と自分のことながら、思うのだけれど、そこがわからないから、いいのかもね。
父ちゃんは、父ちゃんの宇宙だけを描いているのであーる・ぬーぼー。
ということで、いろいろと食べたし、話は盛り上がった。
顔についた絵の具がなかなか落ちなくて、遅刻した、という言い訳、ぎりぎり、ウソではなかったので、よかったです。ア、これを読んだら、ばれるか、、、、
あはは。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
そそっかしいうえに、やっていることを忘れて、次のことをやる、この体質ですから、周りは大変だし、自分が心配になるのです。でも、結局、Sさんの依頼を受けてしまった、父ちゃんでした。やれやれ、小説書かないとならないのに・・・。笑。
はい、お知らせです。明日、5日は、ツジビルラジオ、パリから生放送です。ご視聴ご希望の皆さん、下のTSUJIVILLEバナーをクリックくださいませ。メルシー。