JINSEI STORIES
ニッポンごはん日記「人形町今半の、知る人ぞ知る、ふわたまご飯、なるものを食べてみた。お!」 Posted on 2024/11/26
某月某日、軽井沢から新幹線で戻り、東京駅で編集者さんO氏と会った。
ぼくといつか仕事をしたい、と言うので待ち合わせた、昔からの知り合いだった。
「辻さん、日本を離れる前に、何か食べておきたいものはないですか? うまいものを食べながら、次の小説の話をしましょう」
でも、けっこう、自分的には美味しいものばかり食べた日本滞在だったので、思いつかなかったのだ。
「思いつきません」
と言ったら、やり手の編集者さんが、じゃあ、ふわたまご飯はどうですか、と言うのである。
「ふわたまご飯?」
「そうです。今半、ご存じでしょ? そこですき焼きを食べると、〆にこのご飯がついてくるんですよ。ふわふわのたまごご飯」
「へー、うまそう」
何もイメージできなかったが、ふわたまご飯、という響きにすでに持っていかれた、父ちゃんなのであった。
すき焼きかァ~、そう言えば、もう何年も食べてないな。☜何十年かも、あはは。
「じゃあ、行きましょう。いい小説が書けるかもしれません」
おおおおお、
おおおおおおおおお、
おおおおおおおおおおおおおお、
連れていかれた、今半、で、ぼくらはすき焼きの特上定食というのを食べた。
普通に美味しいすき焼きであった。
しかし、ぼくの頭の中は、ずっと、「ふわたまご飯」が渦巻いていたのだ。
ところで、25年ぶりくらいのすき焼きだったので、すき焼きの食べ方もすっかりと忘れていた。
何か、こぶだしを入れて、沸騰してきたら、タレのようなものを入れて、そこに薄切りの肉をひらひらと置いて、しんなりと火が入って来たところで、溶いた卵の器に、うつし、じゅるっと、頂くのだ。うへへ。
野菜も、同じような感じで、ふつふつと沸騰してきたら、まず、こぶだしを差し、そのあと、タレを入れ、(あれ? もしかしたら、順番反対かも、笑)そこに野菜を置いて、イイ火加減になったら、卵の器にうつし、口に運ぶのだった。
とっても、美味しかった。
出版社さんのご馳走なので、何も考えずに、美味しいものを頂いていた、小作家の、父ちゃん。
そんなに量もなく、腹八分手前で、だいたい、終わった。
コースじゃないので、小鉢とか何もない。デザートもない。
すると、店員さんがやって来て、
「そろそろ、ふわたまご飯にしましょうか」
とおすすめした。
知り合いが、ぜひ、と言ったら、店員さんがにこっとほほ笑んだのだ。
肉や野菜をたいらげたあと、鍋の中には、その煮汁というのか、うまみのつまった汁がかなり残っていた。そこに、溶いた卵をざざーっと落とし、木のへらを使って、軽く火が入るように、ゆさぶったのである。
新しいご飯が用意されており、そこに、そのとろける卵汁をかけて、完成。
あああ、これが「ふわたまご飯」なるものか。
「どうぞ」
と店員さんが言った。
ぼくは覗き込んだ。た、たまごが、美味そうに、光っていたァ~。
オおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、それを一口、頬張ると、要は超半熟の卵かけご飯なのだけれど、卵はたしかにふわふわで、しかし、濃厚なダシとか肉味とか野菜の風味とかいろいろなものが混ざっていて、うまくないわけがなかったのです。
「これ、ずるいな」
とぼくが呟くと、編集者さんは、
「こういう小説を書いてください。辻さんは、エッグマンだから」
と言ったのでした。
あはは。確かに、エッグマン辻、がんばります!!!