PANORAMA STORIES
日陰の街で日向を探す。猫と過ごす冬のパリで Posted on 2024/11/24 ルイヤール 聖子 ライター パリ
最近のパリは、毎日曇り空です。
「また曇ってるね」。朝、雨戸を開けるたび、飼っている黒猫ウンベルトにそう話しかけるのが、すっかりわたしの日課になりました。
渡仏する前から、冬のパリが曇りがちだとは耳にしていましたし、こちらに来てからも次第にその天気には慣れてきました。とはいえ、こうもどんよりした空模様が続くと、日本の冬に広がるスカッと晴れた青空が恋しくなるものです。
※冬のパリは曇りがち
人間も動物も、日光が恋しいのは同じこと。窓辺で日向ぼっこをするのが大好きなウンベルトも、この季節はどこかつまらなさそうです。
窓の外に広がるのは、どこまでも続く灰色の空。その下を、寒そうに羽ばたく鳩やカラスたちが行き交うだけ。
そんな彼らの姿をじっと見つめるのが、いまのウンベルトのささやかな楽しみなのかもしれません。
しかし、曇り空の冬だからこそ味わえる喜びがあります。それは、猫が「暖を求めて」人間にピッタリとくっついてくれること。
黒猫の男の子は甘えん坊だとよく言われますが、ウンベルトはそのなかでも一段と甘えん坊です。
「猫はクールで気まぐれな生きもの」と信じていた家族も、彼の性格を知るうちに、すっかり骨抜きにされてしまいました。
「またくっついてきたの? 甘えん坊さんだね」と言いながらも、嬉しくてつい笑顔になってしまうわたしたち。
寝起き、朝ごはんのあと、午後のお昼寝タイム、夕食のあと、そして夜の寝る時間……。1日の大半を飼い主のそばで過ごす彼の姿を見ていると、日陰ばかりの冬もそう悪くないな、と思えてきます。
ただ、たまに一人でゆっくりしたいのか、黒猫ウンベルトは夜、ソファで寝てしまうことがあります。そうなると寂しいのが、飼い主であるわたしの方です。
そんな日は毛布を持って、わたしがソファに行きます。そして再び朝を迎えて、「また曇ってるね」と、いつもの窓辺で話しかけてみるのです。
※バカンス先のレユニオン島で見た猫ちゃん
猫や犬が人間に寄り添ってくれる喜びは、世界中どこにいても変わりません。それでも、フランス人の主人を見ていると、「やっぱりフランス人だなあ」と思う瞬間があります。
フランスの人々は家族、とくに子どもに対しては、とても情熱的な愛情表現をします。
「モン・ベベ(わたしの赤ちゃん)」「モン・シェリ(ダーリン)」といった愛称は、子どもが30代や40代になってもそのまま。褒めたり励ましたりする言葉も、わたしたち日本人からすると少し大げさに感じられるほど豊かです。
その愛情表現は、猫ちゃんやワンちゃんに対しても同じでした。
ウンベルトに向かって「モン・ベベ」と呼ぶのは日常茶飯事。病院に行く日は「大丈夫、君ならやれる!」と励まし、トイレで大を済ませば「かっこいい!」「最高だ!」と褒めちぎり、ご飯を完食すれば「よくできたね!」と、賛辞の言葉を惜しみません。
さらには、フランス人らしくビズ(キス)の嵐です。嫌がるどころか、「まんざらでもない」という表情を見せる黒猫ウンベルトに、わたしは「さすがフランス生まれの猫だな」と思うのでした。
本物の日光は少ない冬のパリですが、わたしはこうして猫のぬくもりを感じながら、ささやかな「日向」を探し続けています。
Posted by ルイヤール 聖子
ルイヤール 聖子
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猫と香りとアルザスの白ワインが好き。