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フランスごはん日記「これからの世界はもう小さく生きるしかない。小さく生きる人生の選択」 Posted on 2024/11/13 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、やはり、あらためて、小さく生きようと思った。
世界は、もはや、ぼくが若い頃に見ていたものとは、ぜんぜん違うものへ、と変貌を遂げてしまった。
それは別にそれで、構わないけれど、その速度についていくのがいやになったし、くだらない、と思うようになった。
一応、世界中のニュースは毎日、チェックしているし、SNSも一通り見まわしているけれど、貧富の差ばかり広がり、若者が戦争で死んでも気にしない独裁者ばかりが跋扈して、なんだか、見ていられない世界になってしまった。
文化というもの、民主主義というものも、メッキが剥がれ始めている。
人口も増えすぎているし、全人類がもはや幸福になりえる世界はあり得ないだろうし、コメンテーターの声だけが響き渡り、ぜんぜん構わないんだけれど、そういう意見に「うんざり」、もう、いい、と思った。
コロナ禍の時に、都会にいたら、おかしくなる、と思って田舎に家をうつし、二拠点生活をはじめたが、それは間違いじゃなかった。
軸足をもっと、田舎にうつさないとならない。
今年で、音楽業界から引退出来たのもラッキーだった。
だんちゅー(dancyu)の連載も終わったし、テレビとか、いろいろと終えた。
少しずつ、自分を閉ざしはじめているのが、わかる。
それが、大切なタイミングである。
心を何ものかに破壊される前に、ぼくは、ぼくがぼくでいられる「静寂」を手に入れないとならない。
それは「小さく生きる」ということなのだ。

フランスごはん日記「これからの世界はもう小さく生きるしかない。小さく生きる人生の選択」

フランスごはん日記「これからの世界はもう小さく生きるしかない。小さく生きる人生の選択」



昨日、息子にも少し話をした。
「パパは、小さな世界に閉じこもるから、会いたくなれば田舎に来い。君たち、二人が宿泊できる部屋は、そのうち、作るから」
「うん、・・・」
世界のトップの人たちは、なぜか、独裁者ばかりになり、それを一部の人たちが支持して、もう、逆らえない雰囲気、空気が蔓延しているし、その余波なのかどうかわからないけれど、そこら中で、流行的独裁者を真似るような、優しさのない、偉そうな人たちが増えて、この世界のバランスが、どうやら、思わしくない。
そういう世界で、がんばろう、という気にはなれない。
ぼくは、表現者だから、森に籠ろうが、海に潜ろうが、創作をすることはできる。
実は、田舎のアトリエの近くに、小さな畑を持とうと思っている。都市の土地は余っていないが、田舎には土地がまだ余っている。
それも、無限に近いのだ。
なんでか、みんな、あんなごみ溜めみたいな都会に住みたがる。
危険しかないし、不穏しかない。
もう、そういう幻想は捨てないとならない、と気が付いた。
今は、一日でも早く、田舎にシフトしないとならない、と思っている。
畑で、作物をつくり、自然と向き合って、愛犬と生きる。
田舎と言っても、ネットは通じているし、Amazonやフェデックスは配送してくれるし、仕事がある時には、パリでも、東京でも、ドバイでも、行けばいいだけのことだ。
勝ちたいとも思わないし、お金がなくても幸せになることのできる世界は実現できる。

フランスごはん日記「これからの世界はもう小さく生きるしかない。小さく生きる人生の選択」

フランスごはん日記「これからの世界はもう小さく生きるしかない。小さく生きる人生の選択」



ぼくは「新世界」を作るのだ。
それがいい。
人里離れた場所に、小さな世界を、創る。
そこで、収穫されたものを、季節を感じながら、食べていく。
動物や、空や、海、と向き合って生きる。
暖炉に薪をくべて冬を過ごし、夏は、靴を脱いで浜辺を歩く。
海は、広大なので、そこから、エネルギーを貰う。
嫌なものごとと向き合う必要もない。
マフィアみたいな連中の顔色をうかがって、生きる必要すらない。
自分の空想の世界の中で、静かに、生きる。
時間が静かに流れていく、自分だけの世界だ。

きっと、絵を描いているのは、言語のしばりがなくても、世界中の人々に、ぼくの気持ちを届けることが出来るからじゃないか、と思う。
今日も、最新作を梱包して、外国へむけて、フェデックスさんに手渡した。
「田舎にうつっても、取りに来てくれるのかい?」
「もちろんですよ。どこにでもピックアップに行きます」
いいね、とぼくは笑顔を戻した。
それでいいじゃないか。

フランスごはん日記「これからの世界はもう小さく生きるしかない。小さく生きる人生の選択」

フランスごはん日記「これからの世界はもう小さく生きるしかない。小さく生きる人生の選択」

フランスごはん日記「これからの世界はもう小さく生きるしかない。小さく生きる人生の選択」

※ 世界へ、届け! ぼくは田舎にいるよ。



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
人間って、不思議ですよね。昔は、音楽やってましたが、今は絵を描いています。人生はそういう風に、いろいろと可能性があるんです。しがみついて苦しくなるなら、そこを出たらいい。いつか死ぬ人生なら、自分を大切にしたらいいんです。四半世紀、パリで生きてきましたが、いい機会なので、一度、道をそれて、また、次の世界を探します。

辻仁成 展
-Les Invisibles NEHAN-

主催 帝京大学総合博物館
対象者 どなたでもご覧いただけます。(事前のお申込は必要ありません)
入場無料です。
会場 帝京大学総合博物館ミュージアムプラザ(帝京大学八王子キャンパス ソラティオスクエア地下1階)
会期 2024年10月18日(金)~12月23日(月)

開館時間 9:00~17:00(最終入館は16:30)

閉館日 日曜日・祝日

臨時開館日 10月27日(日):青舎祭(大学祭)実施日(一般来館可)

臨時休館日 12月14日(土)
備考
・大学構内には駐車場がございません。公共交通機関をご利用ください。
・高幡不動駅・聖蹟桜ヶ丘駅・多摩センター駅から「帝京大学構内」行きのバスが便利です。(所要時間15~20分)
・車いすでご来館予定の方は事前にご連絡ください

フランスごはん日記「これからの世界はもう小さく生きるしかない。小さく生きる人生の選択」

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