PANORAMA STORIES
グルマンなフランス猫。猫との暮らしがもたらす『ラ・ジョワ・ド・ヴィーヴル』 Posted on 2024/11/10 ルイヤール 聖子 ライター パリ
新しい家族として迎えた黒猫ウンベルトは、とてもシャイで、きれいな目をしていて、最初はこわごわと部屋の隅で様子をうかがっていました。
「猫は自分のペースでご飯を食べる」。たくさんの猫と育ったわたしはこう思い込んでいましたが、黒猫ウンベルトは他の猫とは違う、とてもグルマン(食いしん坊)なフランス猫でした。
彼のグルマンっぷりは「野良時代のトラウマかな?」「保護施設で他の猫たちに取られていたのかな?」と飼い主がいろんな想像をめぐらすほど。
※フランスの保護施設では基本的に保護猫をゲージに入れず、自由に動き回れるようにしています。
そんなウンベルトはフードの袋を「カサカサ」と開ける音にも反応し、猛ダッシュで駆け寄ってきます。たとえ深い眠りのなかでも、その音には反応せずにはいられないようで、目を覚ました瞬間からスピード全開で走ってくる姿は、まるで小さなハンターのよう。
※「その音、聞き逃しません!」と顔を出す黒猫ウンベルト
しかし一日2回のご飯ではまったく足りないようで、フランスの獣医さんと相談したところ、「少なく分けて一日4〜5回のご飯タイムを」ということになりました。
今では決まった時間にご飯を与えているのですが、ウンベルトはその時間を正確に覚えています。
彼はご飯タイムの30分前から、キッチンでスタンバイしています。わたしが「もう少し待ってね」と言っても、尻尾をピンと立て、大きな瞳で「何かいいことが始まるの?」と期待を込めて見つめ返してきます。
わたしはそんな瞬間をとても嬉しく思っています。「もう少し待ってね」と誰かに言えること自体に幸せを感じますし、ご飯を美味しそうに食べている姿や、全部たいらげて顔を洗っている姿にも、毎日感動してしまいます。
一度ウンベルトが目の手術で入院したときには、さみしくてキッチンで黒猫の残像を見たほどでした。
※キッチンが大好きなグルマン猫
グルマン猫と暮らしはじめて、飼い主も変わりました。たとえば日本に帰国したとき、以前は人間の食べもの(日本食)で一杯だったスーツケースが、今では猫のフードで埋め尽くされるようになったのです。
そして、黒猫ウンベルトは日本のおやつが大好き! フランスには猫用の「かつおぶし」や「にぼし」がありませんので、あげるとブルトーザーのようにガツガツと食べます。
わたしはここでも感動してしまうのですが、もしかしたら猫より飼い主の方が喜んでいるかもしれません。
※フランス猫に大人気、日本のおやつ
猫の呼び名やあだ名も、どんどん増えています。元の名前はウンベルトなのに、わたしは「ウンちゃん」や「グルマンちゃん」と呼び、フランス人の主人にいたっては「ミニ・パンテール(小さな黒ヒョウちゃん)」「モン・プティ・ブヒブヒ(私の小さなブヒブヒちゃん)」などと呼んでいます。
フランス人は愛情を込めて、かわいい動物にたとえて相手を呼ぶことがあります。とくに日本語のオノマトペはフランス人にも聞こえ方がかわいいらしく、「ブヒブヒちゃん(子ブタちゃん)」という呼び方がお気に入りのようでした。
※フランスの猫用フードには、フランスらしく、たくさんの種類のスープがあります。
食いしん坊な黒猫が家にやってきてから、わたしたちの毎日はちょっとだけ賑やかで楽しいものになりました。
以前は夫婦ふたりで何気なく食べていたご飯。しかし、フード袋を開ける「カサカサ」という音も、催促の「ニャー」も、カリカリが皿の中で撥ねる音も、今ではすべてがしあわせな音楽のように聞こえます。
たとえ引っかかれても噛まれても、それは勲章。グルマン猫との暮らしで、フランス流の『ラ・ジョワ・ド・ヴィーヴル(生きる喜び)』を感じています。
Posted by ルイヤール 聖子
ルイヤール 聖子
▷記事一覧2018年渡仏。パリのディープな情報を発信。
猫と香りとアルザスの白ワインが好き。