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London Music Life「聖なるライブハウスへようこそ~教会の灯りと響きに浸る夜」 Posted on 2024/10/23 鈴木 みか 会社員 ロンドン
10月に入ると、ロンドンは一気に冬の空気に包まれる。気温も急に下がり、日が短くなり、どんよりとした曇り空が広がる――まさに典型的なロンドンの気候だ。職場でも「寒いね」「今日は少し暖かいかもね」「暗いね、気が滅入るよ」など、天気に関する会話が日常茶飯事だ。毎年繰り返されるこの天気の話題に特に新しさはないものの、冬の始まりにはやはり欠かせない会話であり、誰もが早くクリスマスシーズンが来ないかと待ち望んでいる。
そんな暗くて寒い季節にぴったりなのが、ロンドンの教会で行われるライブだ。ロンドンでは、数多くの教会がライブの会場として利用されており、昼間は礼拝が行われる聖なる空間が、夜になるとライブ会場に様変わりする。
「教会での音楽」というと、賛美歌やゴスペルをイメージするかもしれないが、実際にはポップスや映画音楽、クラシックなど幅広いジャンルが演奏されている。もちろん、教会の荘厳な雰囲気に合わせて、アコースティックな音楽が多いが、教会特有の美しい響きの中で聴く音楽は、ライブハウスとは一味違う特別なものだ。
北ロンドンにあるユニオン・チャペルは、エルトン・ジョンやビョーク、エイミー・ワインハウス、ベック、ノエル・ギャラガーといった著名なアーティストたちがライブをおこなった場所で、何度も「ロンドンのベストミュージック会場」に選ばれている。平日も含めて毎週さまざまなコンサートが開催されていて、コンサートに参加できる機会も多い。
また、Candlelightというイベントシリーズもおすすめだ。世界各地でキャンドルを灯した会場でのコンサートを開催しており、ロンドンやイギリス各地の教会でも頻繁に行われている。子どもから大人まで楽しめるテーマが多く、ヴィヴァルディやショパンといったクラシックの名曲から、映画やNetflixのドラマ音楽、さらにはオアシスやテイラー・スウィフトといった有名アーティストのトリビュートまで、多彩なラインナップが揃っている。
クラシックファンにとっては、トラファルガー広場近くに位置するSt Martin-in-the-Fieldsも、毎週たくさんのコンサートを開催していて魅力的だ。それぞれの教会で、イベントや音楽の特徴があるのも面白い。
ユーロスターの発着点であるキングス・クロス&セント・パンクラス駅の近くにあるSt Pancras Old Churchは、他の教会と少し違い、インディー音楽のライブが頻繁に行われている。この教会は、ビートルズファンには「Mad Day Out」のフォトセッションが行われた場所として知られているが、キャリア初期のサム・スミスやエド・シーランがここで演奏したこともある。教会の親密な雰囲気と特別な音響が、Grass roots venue(草の根的なライブハウス)として、インディーミュージシャンの成長を支える場になっている点もロンドンらしいと思う。
教会ライブでは、ドリンクを片手にリラックスした雰囲気で音楽を楽しめることも多く、寒くて暗い冬の夜を温かいアンバー色の灯りの中で過ごすのは、なんとも心地よいものだ。夏には野外フェスティバルなど太陽の下で音楽を楽しみ、冬には教会の中で心温まるライブに身を委ねる――季節を問わず、特別なお気に入りアーティストがいなくても、いつでも気軽に豊かな音楽体験ができるのもロンドンの魅力だ。
Posted by 鈴木 みか
鈴木 みか
▷記事一覧会社員、元サウンドエンジニア。2017年よりロンドン在住。ライブ音楽が大好きで、インディペンデントミュージシャンやイベントのサポートもしている。