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フランスごはん日記「街の哲学者、アドリアンが、呼んでないのに個展会場にいきなり登場!みんな大興奮」 Posted on 2024/10/12 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、個展のラス前の日となった金曜日、スタッフさんから
「バーゲンセール会場みたいになっています」
と、14時に連絡があった。
ぼくは、その時、お昼ご飯を食べていた・・・。
どうしても、海老天かき揚げ蕎麦を食べたくて、冷凍のエビと玉ねぎで作ったのだった。
「今日は、日本のお客様ばかりです」
となぎさのシンドバッドこと、ナッギーから!
「皆さん、先生のブログの愛読者さんらしいです。でも、こんなにパリで読まれていたんですね」
ふふふ。おそれいったか。
ということで、昨日と同じ、カリカリ梅しらすおにぎりと、小さいかき揚げ蕎麦を作って、胃袋をきちんと押さえこんでから、地下鉄で出勤の父ちゃんであった。あはは。
のんびりしておるの~。

フランスごはん日記「街の哲学者、アドリアンが、呼んでないのに個展会場にいきなり登場!みんな大興奮」

フランスごはん日記「街の哲学者、アドリアンが、呼んでないのに個展会場にいきなり登場!みんな大興奮」

※ 蕎麦はだいたい30g、おにぎりは三つですが、お茶碗、一杯分ですかね。ま、これで、夜まで十分、持ちます。

フランスごはん日記「街の哲学者、アドリアンが、呼んでないのに個展会場にいきなり登場!みんな大興奮」

※ これが、マジで、やばうま!

フランスごはん日記「街の哲学者、アドリアンが、呼んでないのに個展会場にいきなり登場!みんな大興奮」

※ もう、すっかりメトロ慣れした、父ちゃん。みんな、携帯をみている。世界中、どこも一緒なのであーる・ぱちーの。



今日も、また、日本の一橋大の二人の学生さんから声をかけられた。
パリ政治学院(パリ・シアンスポー)に通っている、というのである。
昨日、法政大の子、広島大学の子と会ったばかりで、今日、一橋大の女子大生二人が、声をかけてくださった。(やはり、お母さんの影響で、日記を読むようになった、というのである)
「コロナ前から、愛読しています」
と20歳くらいの学生さんが言った。
って、ことは、15歳くらいから、ぼくのこの日記を読んでいることになーる。ひゃあああ、早熟~。
ま、頭の良さような、かわいい、二人組であった。
質問をされたので、絵について、こたえる画家の父ちゃん。息子と同じくらいの年齢だが、今時の子たちだが、しかし、なんて、しっかりしておるのじゃろー。
結構、難しい話をしたのだけれど、ちゃんと、ついてくる、うんうん、理解力があるね。
しかし、女性大生だけではなかった~。
あの、我が町の哲学者、アドリアンも、やってきたのであーる。
「ツジー、おめでとう」
「おおお、アドリアン! 呼んでないのに}
「あはは、そりゃあ、わかるよ。ポスターを見た」
ということで、抱き合い、再会を懐かしがった。
正直、二人組の女子大生さんの方が、アドリアンよりも、ちゃんとしていた。あはは。
アドリアンは、いつもの、アドリアンなのだ。哲学者なのに、言葉が少ない。
「どう?」
「すごいね」
「それだけ?」
「いや、ほんとに、すごい、おめでとう」

フランスごはん日記「街の哲学者、アドリアンが、呼んでないのに個展会場にいきなり登場!みんな大興奮」

※ おおお、街の哲学者、アドリアンじゃないか!!!

フランスごはん日記「街の哲学者、アドリアンが、呼んでないのに個展会場にいきなり登場!みんな大興奮」

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※ ぼくのパリライブの長年の相棒、オランピア劇場ライブにも登場した、ピアニストのエリック・モンティニー!!!

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「すいません。辻さん、あの絵の白い部分は何を表しているのですか?」
三人組のマダムの一人から、質問を受けた。
で、自分でもびっくりするような返事をしていた。
「とくに、深い意味はないんです」
言いながら、そんなわけないだろ、と思ったが、口から出たのは、そういう言葉であった。
つまり、言葉で説明できないのである。
説明できるんだけれど、したくないのかもしれない。
冷たい言い方で、ごめんなさい。
つまり、絵は言葉を超越することがある。
小説は、つまり、説明であってはならないが、ある程度の説明によって、説明を超越しようとする、ことがある。難しいの~。
しかし、ある絵は、説明を排除するから、小説よりも直截に、脳を刺激するのだ。
これは何か、と言われて、これはこうです、と説明をしてはならないものが、絵、の根本にあるような、・・・、ま、小説も似てはいるが、微妙に異なる。
なので、深い意味があるのに、深い意味はない、とぼくは言ってしまったのだ。
パリ政治学院に留学中の二人にも、同じことを言った。
直接、脳になにがしかのメッセージをおくるものが、絵にはある。
もちろん、絵によって、出来不出来があるわけだから、メッセージ量は作品によって異なる。
そうそう、今日はパリの音大に留学している学生さんも来ていた。
この子は、音感で、この絵たちを感じているようだった。
ピアニストのエリックは、「いくつかの作品で音がはっきりと聞こえてきます」と言った。
同じようなことを、言い残す、フランス人がいた。
音が聞こえる絵、というわけである。

気が付けば、父ちゃんの周りには、けっこう、学生さんたちが、いた。
きっと、この日記を読んでいる人たちの中にも、いるだろう。
ぼくが65歳にもなって、こうやって、画布に叩きつけているものは、答えがあるようでない、終わりのない問いかけのようなものかもしれない。
なぜ、人間は生きているのか、という問答のようなもの。
だから、街の哲学者、元南ア大教授のアドリアンとは、そういう議論をしないのかもしれない。
彼とは、コロナの時期に、かなり突っ込んっだ話をしたが、それ以降は、もう、語り合うことはない。
ぼくはコロナ禍のあの時期に、なぜ生きているのかを今こそ考えないとならないと思った。そして、今の戦争の時代、もう一度、熟考している。
ただ、言葉で説明をする前に、画布に、思いを叩きつけている。
なぜ、生きるんだ。
なぜ、ぼくはパリで、個展をやっているんだ。
なぜ、大学生はここに来るのか。
なぜ、なぜ、・・・。
生きているかぎり、私たちは、この「なぜ」から逃げることが出来ないのか・・・。
ありとあらゆる人々が、だから、絵を、世界中の画廊や美術館で眺めるのかもしれない。
「あの白い線がなにか、深い意味はないんです。でも、深いところでぼくは描いているんです。うまく説明できないのですが、その、説明は窮屈ですから」

フランスごはん日記「街の哲学者、アドリアンが、呼んでないのに個展会場にいきなり登場!みんな大興奮」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
いよいよ、今日、土曜日、17時で、初のパリ個展は終わります。実に、素晴らしい経験になるでしょう。答えは、もちろん、まだ、わかりません。なぜ、生きているのか、ぼくは毎日考えますが、その答えをいまだ、見つけることができていません。でも、ほとんどの人間が、同じように、答えもない中で、生きています。だから、問いかけが生まれ、そうやって、作品が世にでるわけです。でも、頭を抱える必要もないし、深く考えすぎてもいけないわけです。なぜだろう、と思う、疑問が、人間を人間にしていくのですから・・・。よーし、個展、最終日、今日最後までは笑顔でのりきります。今日を精一杯生きてやります。えいえいおー。最終日!!!

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自分流×帝京大学

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