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フランスごはん日記「なぜ、あなたは小説を書くのか、何を描くのか、とコルシカ人に質問された」 Posted on 2024/09/26 辻 仁成 作家 パリ

フランスごはん日記「なぜ、あなたは小説を書くのか、何を描くのか、とコルシカ人に質問された」

某月某日、昨日はミュージシャンとして、コルシカ島のステージに立ったが、今日は小説家として、人々の前で語った。
司会者(質問者)のサンドラさんがいて、通訳をされる方がいて(なんと、作家のリシャール・コラスさんだった)が、ぼくに様々な質問を投げかけてきたのだ。
コルシカ島での文学イベントだから、そこまで複雑な議論にはならないだろうと気楽に構えていたら、大間違いであった。
いきなり、このような質問を浴びせられたのだ!!!
「辻さん、いくつかの小説に共通するテーマ、あるいは焦点となるテーマの中で、死、記憶、忘却のテーマは特に印象的です。『白仏』では、幼い時に長兄の石太郎が溺死したことをきっかけに、幼い頃から死の神秘に取り憑かれています。本全体が、故人の思い出と記憶、現実世界と来世との架け橋、忘却と喪失についての変奏を展開しています『太陽待ち』も、記憶の重要性と同時に、生き続けるために必要な忘却についての変奏で、という薬物によって象徴されています。愛はしばしばこれらの変奏をつなぐ役割を果たしているようです。あなたも本を通じて、これらの問いに対する答えを探求しているのでしょうか?」
ちょ、ちょっと待って、難しすぎるー、と驚く父ちゃん。
南国の島で、頭のネジが緩んでいたので、この質問に面食らったのだった。
「ええと、そうですね。ま、大変、素晴らしい質問です」
冷や汗をかきながら、なんとか、答えたのだけれど、こういう質問が、数多く、用意されていたのであーる。
炎症中の腕が再び痛くなってしまったじゃないか!!!
 いてっ。笑。
「あなたの本の物語構造について一言ください。しばしば並行する時間軸があり、時代が重なり合い、登場人物、あるいはその転生が一方から他方へ移動したり、混同したりします。これが物語に特別なリズム、非常にオリジナルなリズムを与えています。特に『太陽待ち』ではこの非定型的な構造はどこから来ているのでしょうか?」
おお、難しや・・・。
ともかく、ごまかしごまかし、このような質問に答えていった父ちゃんであった。しかし、観客の皆さんは、めっちゃ熱心に聞いてくれている。視線を浴びた!
コルシカにも多くの読者さんがいたのが、ちょー、嬉しかった。
なんと販売のための本は全部売り切れてしまったじゃないか!!!! メルシー。

司会者のサンドラさんは、フランスで出版されたぼくのほとんどの本を読んでいたし、集まったみなさんも、読んでいた!
通訳を買って出てくださった、友人のリシャール・コラス氏の最高の超訳のおかげで、うまく、ことなきを得た、ふー。あはは。
しかし、残念なことに、議題にのぼった作品「太陽待ち」「旅人の木」「海峡の光」「白仏」などは、ぼくが作家になったばかりの初期の作品で、古いものが多く、主人公の名前とその行動が一致しないのであった。あはは。
そこで、ぼくは、普段ぼくが持っている死生観、世界観について語ることになった。
難しい話は、ここではやめておくが、久々に、ほんものの読者にあったことは、父ちゃんを喜ばせた。
しかも、コルシカ島のアジャクシオで!!!

フランスごはん日記「なぜ、あなたは小説を書くのか、何を描くのか、とコルシカ人に質問された」

フランスごはん日記「なぜ、あなたは小説を書くのか、何を描くのか、とコルシカ人に質問された」

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「あなたは脚本家であり監督でもあります。時には、あなたの好みの世界が重なり合います。例えば、『太陽待ち』という小説では、主に映画撮影中の出来事が描かれており、有名な映画監督(黒澤明)が、太陽が自分の期待通りの瞬間を待っています。それは何十年も前に、別の撮影で既に見た太陽と同じものです。合唱のような小説として構成されたこの本は、映画のシーンを思わせるシークエンスを中心に組み立てられており、あなたのペンが読者にその雰囲気を『体験」させます。執筆時に、時々頭の中で進行中の本の「映画的な」イメージを投影することはありますか?まだ映画化したい作品は一つか複数ありますか?」
こういう質問もあった。
「日本には無常という魅力的な概念があります。これは物事の無常性を示す概念で、その帰結として「物の哀れ」があります。これは自然界における儚さとその美しさに対する共感や感受性と訳すことができるでしょう。例えば、これら二つの概念は、春に桜の花が咲き、そして散るのを観察する「花見」の伝統と結びつけられていますこれらの概念は文学においてどのように表現されると思いますか?」
「広島の悲劇にも触れている『太陽待ち』の最後で、あなたの登場人物である次郎は、到来する世紀に希望を託しているようです:今日の緊張や戦争、再び振りかざされる核の脅威を見て、どのような思いを抱きますか?そして芸術はまだどのような役割を果たせるのでしょうか?」
と、緩んでいた父ちゃんの顔は、不意に、芥川賞を目指していた頃の文学青年時代の父ちゃんへと戻って、険しい顔になってしまった。
「皆さん、ともかく、大事なことは、今を精一杯生きるということです」
ぼくはそう、切り出した。そして、ゆっくりと語り始めた・・・。
「なぜ、生きるか、なぜ、死ぬかということです。人間は、生まれた瞬間を知っているものはいません。あなたも、私も、そして、誰も死んだ自分を見ることが出来ません。わかりますか? それが意味するものが?」
一同が、黙り、静かになった。
父ちゃんは、空を見上げた。
「実際、私たちは死を恐れますが、死を知っている人間はいない。また、同じく、生を知らないのです。しかし、誰かが生まれ、誰かが死ぬことで、私たちは、一生を想像します。小説家は、その曖昧な人間の一生を象ることが出来ます。示唆します。それが私の仕事なのです。想像の宇宙でもあります」

フランスごはん日記「なぜ、あなたは小説を書くのか、何を描くのか、とコルシカ人に質問された」

※ 今日は、リラックスな小説家な父ちゃんであーる! うおっほっほ。

フランスごはん日記「なぜ、あなたは小説を書くのか、何を描くのか、とコルシカ人に質問された」

フランスごはん日記「なぜ、あなたは小説を書くのか、何を描くのか、とコルシカ人に質問された」



父ちゃんは、講演会の後、彼らと握手をした。質問者も通訳を引き受けてくださった作家のコラスさんも、満足した顔であった。
よかった。ぼくは、いくらでも難しい問いかけに応えることが出来る。しかし、答えを出すのは、読者の皆さんなのです。

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、ちょっと、疲れました。あはは。さ、美味しいフランスごはんを食べに行きましょう。

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自分流×帝京大学

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