JINSEI STORIES
滞仏日記「息子と三四郎を比較してみた。どっちがいいとか悪いとかでなく」 Posted on 2024/08/25 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、息子は学校に通うが、三四郎は学校に行かない。
息子には反抗期があったが、今のところ三四郎に反抗期はない。
息子とは将来のことを話し合うが、三四郎はぼくの膝の上で寝ている。
息子はいい子だが、三四郎もいい子だ。
息子は社会に出るまで面倒みないとならないが、三四郎は一生面倒みないとならない。
息子にはガールフレンドがいるけれど、三四郎にはパパがいる。
息子はパパのことをいつも心配してくれるが、三四郎もたまーに心配そうな目でパパのことを見ている。
息子は三四郎をかわいがるが、三四郎は息子が来ると大喜びする。
息子をたまに叱るが、三四郎は毎日叱られている。
息子はぜったい泣かない子だったが、三四郎はほとんど吠えない。
息子はたくさんの仲間に愛されているが、三四郎は浜辺に行くと犬友がいる。
息子は自分でご飯を作ることが出来るが、三四郎はなんにも作るこができない。
息子とはよく話をするが、三四郎とは魂の波動で繋がっている。
息子は自分の世界で立派に生きているが、三四郎はパパの傍から死ぬまで離れない。
息子はバレーボール部員だったが、三四郎は散歩に出てもちっとも歩かない。
息子は多少頑固だったが、三四郎はかなり頑固だ。
息子はまったく攻撃的な人間ではないが、三四郎もまったく攻撃的な犬ではない。
息子は歌が上手だが、三四郎は番犬になれる。
息子が遊びにくると嬉しくなるが、三四郎がぼくの足元に来ると嬉しくなる。
息子はいい人間だと思うが、三四郎は愛おしいわんこだと思う。
息子と三四郎を比較するつもりはないが、なんとなく、ぼくにとっては、どっちもなくてはならない存在なのである。
きっと、この一人と一匹は、ぼくを裏切ることはない。
変な言い方だけれど、たぶん、傍にい続けてくれる存在なのだろう。
つまり、息子も三四郎も家族なのだ。
三四郎は手がかかる。
でも、それがぼくにとっては、嬉しい、のかもしれない。
誰よりも神経質なぼくだが、三四郎のうんちを片付けることや、三四郎の身体を洗うのは苦痛じゃない。
むしろ、ちゃんと健康的なうんちが出てくれると、大喜びしている。
息子が赤ちゃんだった頃、おしめをかえるのは、苦痛じゃなかった、のに、似ている。
それは、きっと、愛の一種なのだろう、と思う。
もちろん、頑固で、言うことを聞かない三四郎に、頭にくることもある。
散歩に出しても、歩こうとしないので、今日も、怒った。
うんともすんとも、動こうとしないのだ。あんまり、怒ると、犬を飼っているフランス人に、動物虐待者みたいな目でみられるので、マジで、怒るに怒れないのである。
やれやれ、頼むよ、歩いてくれよ、健康のために、と最後はお願いをしている。
息子には一時期、反抗期と思春期があった。
わかりやすい感じで、反抗されたが、大学生になったとたん、すっかり、大人になった。
あの反抗期はなんだったのだろうというくらい、物分かりのいい青年になった。
三四郎は犬だから、反抗期はないけれど、頑固なので、手こずることはある。
でも、日々の彼鳴りの小さな反抗期だと思えばかわいい。
ぼくは人間というものはなんだろうなァ、とよく考える。
戦争だらけの世界のニュースを毎日、読みながら、戦地にも犬がいるだろうし、そこにも子供がいることを知っている。
ミサイルで、子供が殺されている世界のことを思うと、どうしようもなく苦しくなるが、この世界は、不条理なことも含めて、世界なのだ、と思い知らされて泣きそうになる。
人間があまりに、不完全な生き物なので、他の動物たちには、大迷惑を及ぼしているに違いない。
独裁者の命令で、死んでいった何十万人の若者が今、この現代にもいるのだ、と思うと、あまりに、やりきれない。
落ち込んだぼくを三四郎は慰めてくれる。
せめて、ぼくにできることは、まず、身近にいる人や生き物を大切にすることだろう。
そして、世界が平和になることを祈らない日はない。
ぼくは画布の中に、祈り、を描き続けている。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
不条理なこの世界ですが、苦しい思いを癒してくれる小犬にぼくは救われてもいます。ぼくの友だちたちは、貰い手のない犬や猫たちを引き取って育てています。そういう人間もたくさんいるのです。
はい、ということで、父ちゃんからのお知らせは、いつもの、「エッセイ教室」と「ラジオ・ツジビル」に、ついてです。
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※ 9月になったら、また、個展に関する、詳しい情報を出しますが、ぼくは、基本、在廊はしませんので、よろしくお願いいたします。日本でも、パリでも、そういう方針です。