JINSEI STORIES
滞仏日記「休み方がわからない父ちゃんだが、ついに、バカンスに突入したよ!!!」 Posted on 2024/08/23 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、命をおろそかにはできない、と気が付いた。
少し、ぼくはぼくの人生を見つめなおさないとならない、と思った。
ぼくは生き急ぎ過ぎた。思えば、ずっと、走り続けてきた。
1年、365日、休みなく、働き続けてきた。
でも、限りある人生なのだ。2,3日、ぼんやりしたところで、批判されることもないだろう。
この星から旅立ち、永遠になった人たちのことを思った。
ぼくはもう少し、この苦しい世界で生きないとならないみたいだ。
でも、決して若くない。
ちょっとは、自分の肉体をいたわらないとならない年齢になりつつある。
身体のあちこちが、痛い。
炎症を起こしているのがわかる。
大阪フェスティバルホールで、燃え尽きたことで、ぼくを支えていた強いバネが切れて、今は、ゆでだこみたいになっている。
自分でよくわかる。鏡を見たら、ひどい顔をしていた。
ライブをやる前のあの、かっこいい父ちゃんはいなかった。
ぼろぼろの、おじい様、が鏡の中で、苦笑していた。
「疲れたの~」
ほんとうに、その通りである。
パリに戻ったが、ここでは休まらないと思い、自分の心を休める土地へと、移動することにした。
休もう、マジで、休息が必要だ。
また、すぐに創作を開始するかもしれないが、休むふりだけ、しておかないと、肉体が悲鳴をあげてしまう。心が壊れてしまう。
三四郎を、海で走らせてやりたい、沈む夕日を拝みたい、と思った。
そういえば、ぼくはバカンスなどなかった。
ずっと、稼働し続けてきた、自分。でも、やっと音楽シーンから引退することができた。
これからも歌うが、のんびりと身体を酷使しない程度に、続けていきたい。
ぼくに何が残されたというのであろう。
父ちゃんから、おじい様へと、なっていく、自分・・・。あはは。
その時、足元に愛犬がいて、ぼくを見上げていた。
おお、お前がいたね。
この子がいてくれて、よかった、と思った。
※ 高速の休憩所で、かわいこちゃんに、心を奪われる我が愛犬なり。
※ ノルマンディの太陽が、ぼくを待っていた。なんで、こんな土地にぼくは住んでいるのだろう? みんなに聞かれるが、わからない。南仏でも、スペインでも、モナコでもよかっただろうに。昨日、墓参りをしたMさんは大阪で生まれ、トゥールの墓地で眠っている。44歳という若さである。ノルマンディの空を見上げながら、人生、というものの不条理を思った。
ところが、休むのが上手じゃないのである。
ぼくは気が付くと、スケッチブックを取り出し、気が付くと歌っているし、気が付くと詩を書いたりしているし、そこから長時間、創作に集中してしまうのだ。
どうやって、休めばいいのだろう?
「なァ、三四郎、パパしゃんはどうやったら、楽になると思う?」
愛犬は首を傾げた。
あはは、お前にわかるわけはないか、・・・いや、お前と生きる人生は、ぼくを慈しんでくれる。ぼくを癒してくれる。
かわいいなァ、と思うと、若返る気がする。
ぼくが、さんしー、と呼ぶと、浜辺の先から走って戻って来る。
こんなにかわいい生き物がいるだろうか?
この子が、元気で、いてくれるなら、ぼくは寂しくない。
「だよな、三四郎」
すると、三四郎が、ぺろりと、ぼくの頬っぺたを舐めた。
あはは。
この子は自分がいないと生きてはいけない、と思うと、なぜか、心が温まる。
この子にご飯を与えている時、何か大きな責任感を達成している気持ちになる。
信仰はないけれど、神様に、感謝をしたくなる。
三四郎以外、考えられなかった。
ぼくが三四郎と出会った時、この子は、震えていた。
出会った子を飼いたいと思って、犬の園へいくと、そこの人が三四郎を連れてきたのだった。まだ、3か月とか、そんな時だった。
「うちでいいのか?」
と3か月の三四郎に訊いた。
あれから、ずっと一緒なのだ。
ぼくが仕事で、日本に行くときだけ、ジュリアに預けないとならなかったが、引退したので、これからは一緒の時間が増える。
来月、3歳になるのだ。
3か月の赤ちゃんだったこの子が、3歳になる。
ぼくは三四郎を抱きしめた。
ありがとう。
パパしゃんも、もう少し長生きするからね。
※ といういいわけのもと、バカンスなので、ビールを頼んだ、父ちゃんであった。くー、うまい。フランスのビール、最高だ。ついに、父ちゃん、バカンスに突入~!!!
ノルマンディを選んだ理由はわからない。
でも、ここで、死んだら、ぼくはお墓じゃなく、海にこっそり、骨をまいてほしい、と息子に頼んでいる。
「法律的にダメな場合は、どうする?」
「え、じゃあ、ハワイとか、散骨していい、綺麗な海にまいてくれ」
「ハワイ?」
大笑い。
「パパはね、地球の一部になりたいんだ。で、魂はね、宇宙に帰還するんだ」
「わかったわかった」
「いやいや、マジで、言ってるんだ。だから、覚えておけよ」
ぜんぜん、とりあってくれない息子君であった。
でも、事あるごとに、ぼくは言い続けてきた。
ま、その話は、おいおい。笑。
ということで、休むことのできない回遊魚の父ちゃんだったが、しばらく、休憩することにした。
いろいろと、締め切りが迫っているのだけれど、編集の方に、一週間ください、とメールを送っておいた。なんとかなるだろう。
休める時に、休むのがいい。
人生は長いようで、短いのだから。
「そうだ、三四郎、どこか、ゴージャスな雰囲気のホテルに行こうか?」
「わん」
やめとけ、そんな、無駄遣い、と聞こえた。
「えええ、いいじゃないか。一人で、ハワイに行くわけじゃないし、お前とフランスの田舎のホテルを巡るの、どうだろう? 楽しいバカンスにならないか?」
「わん」
何もすることがないと、イライラするんじゃないの、と聞こえた。
「つまらないこと言うね」
「わん」
あはは、じゃあ、パパに任せておくれ。今からホテルを探すから!
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
どうやって、のんびりしたらいいのか、悩んでいるところが、父ちゃんらしいところで、笑えますね。皆さんは、いいお盆休みでしたか? 父ちゃんはこれから、さんちゃんと、ゴージャスな田舎のホテル探して、骨を休めますね。グッ!
はいちょっと、お知らせ。
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