JINSEI STORIES
滞日日記「麻布台ヒルズマーケットでめざしを買う。パリのマルシェとの違い」 Posted on 2024/08/13 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、麻布台ヒルズで元ダンチュー編集長の植野さんと食や引退公演についての、対談、を行った。ま、それは、お仕事、であった。
ハードな日程なのだけれど、植野さんからふられた仕事なので、快く引き受けた、心の広い父ちゃんであった。(身体は、ぼろぼろ・・・)
もちろん、話題の麻布台ヒルズにも行ってみたかったので、ちょうどよかった。
で、対談が終わった後に、森ビルの営業部長さんに連れられて、麻布台ヒルズ内にある「マーケット」を見学しに行った「だんちゅーでござる」チームであった。
※ 植野さんとぼくは「だんちゅーでござる」というお笑い料理ユニットを結成している。つまり、植野さんは、父ちゃんの相方なのであーる・ふぁろめお~。
あはは。
ま、お仕事のことはどうでもよくて、父ちゃんがいろいろと面白いと思ったのは、その「麻布台ヒルズマーケット」なるもの、なるスペース、であった。
英語のマーケットは、仏語のマルシェと一緒なのであろうか?
関係者の皆さんには、申し訳ないが、正直なことを書かせてもらう。
パリのマルシェの場合(フランス全域でそうかな)、マルシェというのは、地方の行商の方々が、パリ市内まで、いわゆる産地直送的に新鮮な食材を届けて(パリ市が運営している)、パリだと各カルチエごとに、市場が開かれる場所が決まっており、毎週、ほぼ同じチームが移動して市民に安く新鮮な食材を届けている、のだった。
これがフランスのマルシェ文化ということができる。
もっとも、誰もが出店できるということでもなく、いろいろと審査もあり、それ以前に、お客さんが肥えているので、実力がないと続かないし、そこで生き残るのは並大抵なことではないのだった。
新鮮で、なおあかつ、路面店やスーパーよりもやや安い、というのが、一般的なマルシェで、たぶん、高級店は存在しない。
日本だと、「アメ横」とか、そういうイメージが近いと思う。アメ横が向こうからやってくるのが、フランスのマルシェだったりする。(アンティークの家具なども売られている!)
そこが、マルシェが人気な理由かもしれない。
新鮮、産地直送、安い!
では、麻布台ヒルズマーケットはなんなのか、マルシェなのか、ということになるが、フランスのいわゆるマルシェとは異なるものだ、とぼくは思った。
ただ、正直、父ちゃん的には、わくわくしたし、思った以上に感動させられた、いわゆる、そこは、食のワンダーランドなのだった。
父ちゃんのような食べることが好き、つねに美味いものを探し求めている、食べることにうるさい、こだわり続ける人々の心を射抜く、新しい空気感と創意工夫とチャレンジ精神を持っているマーケット(?)だった。
日本全国にある、ほんとうに美味しい鮮魚店さんとか、肉屋さんとか、ダシ屋さんとか、を運営会社が選別し、口説いて、なんと、麻布台ヒルズ直営で、営業されているのである。
なので、デパ地下とちょっと違うのは、店子に場所を貸すのじゃなく、森ビルが自分たちで店を選び、交渉をし、そこを運営している、ということ。☜営業部長さんの話をようやくすると、そうなるのかな。
テナントを貸す側からすると、ここまでやるのは、かなり、リスキーなことだが、しかし、それくらいやらないと、差別化も難しいし、新しいことをやる上で、その場所にこだわった結果を優先したのであろう。そこが面白い。
なので、それなりの覚悟があるということを感じた。
最初、商業施設のデパ地下のようなものだろう、と思って、踏み入っただけに、まもなく、その一店舗、一店舗のレベルの高さに、ほー、と驚いてしまったのであった。
虎ノ門、神谷町という場所がら、決して一品一品は安くないが、自分たちの足で、その土地のその美味しいものを目掛けなくても、麻布台ヒルズマーケットに行けば、ある種の最高峰の日本の味を見つけられる、出会える、ことになる。
フランスのマルシェとは方法論も考え方も違うが、食道楽で好奇心の旺盛な人には、今現在、もっとも注目すべき食のスペースということになるだろう。
課題として、父ちゃんが感じたのは、このマーケットが10年後、20年後も、人々の好奇心をつなぎ続けることが出来る、いわゆるフランスのマルシェレベルにまで市民権を得られるのか、ということ。
人は飛びつきやすいが、冷めやすい。今は120点でも、20年後も120点かどうか、わからない。つまり、それだけ、オールスターが勢ぞろいしている市場なのだ。
植野さんが、この魚屋は最高ですよ、という店がって、そこで、二尾450円ほどのめざしを父ちゃんは買ってみた。
確かに、この一等地で買えるものとしては安いかもしれない。
さっそく、火にあぶって、食べてみたら、ふわふわでいい塩梅であった。もちろん、めざしはめざしなのだが、脂がかなりのっており、実に美味かった。ほー。
麻布台ヒルズで買えるんだ、こんなものが、というのが、正直な父ちゃんの感想だった。
そこが、このマーケットの売りなのであろう。
東京中の人がここで、最高の日本の味を、100メートル範囲で、ゲットできるのだから。
何を期待するか、だと思うが、ぼくは選び抜かれた食のスタンドが32店舗もひしめく新しい形態のマーケットが東京の中心に登場した、と思った。
あとは、そこから、どう広がって定着していくか、であろう。
自分でダシの配合を決められるダシの専門店、冷めてもめっちゃ美味しい焼き鳥屋、肉パテに奈良漬けを配合した欧風のお惣菜屋、マグロの「はがし」といわれる筋を抜いてうまいところだけ剥がした部位をうる魚屋など、どこもかしこも、唸るしかない店舗が連なっていて、これまでのフード施設とは一線を画す、食のセレクトショップなのだった。
好奇心旺盛で食いしん坊でパリ在住の父ちゃんの目を輝かせるくらい、よーく選び抜かれた本物がずらりと並んだ一級のマーケット、これはたしかに、一見の価値がある。
焼き鳥屋で食べた「黒玉」と呼ばれる、うずらの卵の串焼き、食べたことがなかった。
その一つ一つ、食のワンダーランド全開の、まさに、今が旬の麻布台ヒルズマーケットは、食道楽な大人たちの心と舌を驚かせるマーケットであることは、間違いない。
楽しい。
しばらく、この辺に住み、通い続けたい、と思った。
びとまず、次回は、じっくりとここで買い物をしてみようかな。安いか、高いか、それは、マーケットに何を期待するかで、意味がかわってくるのじゃないか、と思った。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
話しはかわりますが、上野にあるスーパー「吉池」のことを、ぼくは麻布台ヒルズマーケットを歩きながら、思い出したのです。ここも、ぼくは国内で大好きなスーパーの一つで、庶民的で、でも、うまいものを集めていて、明治屋さんとも成城石井さんとも違って、ある種のワンダーランドなのですが、幾層にも連なる美味い立地の中に、ぼくらが選ぶ場所がいろいろとある、ということが素晴らしいんですよね。あー、食いしん坊に終わりはありません。あはは。
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