PANORAMA STORIES
文化のパトロンになるということ。 Posted on 2017/03/23 児玉 義明 建築家 ジュネーブ
ジュネーブに移り住んで数ヶ月。久しぶりにパリを訪れる機会があり、好評で会期が伸びたというシチューキン・コレクション展(2017日3月5日終了)に行ってきた。
場所は僕が尊敬する建築家フランク・ゲーリーが手がけたルイ・ヴィトン財団。僕はここに来るたびにこの巨大な帆船を見上げ、「I have an idea.」とつぶやいてしまう。
昨年、建築家田根 剛氏のディレクションで行われた東京のゲーリー展は記憶に新しい。
フランス文化を背負って船出したルイ・ヴィトン財団。その船上がこの企画展の舞台となった。
ロシア人絵画蒐集家セルゲイ・シチューキンが生きたのは、19世紀後半から20世紀初頭にかけてロシアに訪れた文化復興期。フランス近代絵画に目をつけたシチューキンは、絵画コレクター、アートパトロンとして、モスクワーパリ間を行き来した。
コレクションには、ピサロ、モネ、セザンヌ、ドガ、マティス、ゴッホ、ゴーギャン、ピカソ、ブラック・・・美術史の教科書に名を連ねる巨匠画家が並ぶ。
しかし、そんな面々も当時はまだまだ無名の画家だった。
フランスのモダンな作品を買い漁るシチューキンに対し、周りは「金をドブに捨てるようなもんだ」と顔を顰めていたという。今、ピカソ、マティス、モネを知らない人がいるだろうか?
シチューキンの眼の鋭さが伺える。
そんなシチューキンの絵画コレクションは、1917年に起きたロシア革命後、全て国に没収された。
政治的理由で紆余曲折を経た後、現在はモスクワの国立プシュキン美術館とセントペテルブルグの国立エルミタージュ美術館に分けて所蔵されている。
そのうちの130点を、100年後となる今年、21世紀のアートパトロン ベルナール・アルノー率いるルイ・ヴィトン財団が一気に集めたのだ。いわば、歴史的な展覧会ということになる。
朝一のチケットで入ったが、それでも館内は人でごった返していた。
・・・そりゃそうだ。今後、これだけのコレクションが一気に並ぶことはまずないだろう。
シチューキンの蒐集は想像を遥かに超えていた。美術館の常設展とは違い、一人の人間が一点ずつ集めた作品群は、その人物の趣向を浮き上がらせ、展示に独特の流れを生む。
展示パネルに印刷された当時の写真を見て、壁いっぱいの絵画に囲まれて生活するシチューキンを想像した___。
僕なら、寝れない(笑)
シチューキンには直感と使命感のようなものがあったのだろう。
当時、パリはすでに芸術都市だったが、その中でまだ評価されない前衛的な芸術を見出し、自国に持ち帰って若い芸術家たちを学ばせた。
この人物の存在がなければ、ロシアはこれら芸術の宝を持っていなかったことにもなる。
人間が創り出す芸術や文化は、人間が保護し、発展させていくしかない。
誰かが見つけ、不確かな価値を信じ、そこに投資する勇気がなければ、それらは廃れていく一方だ。
自分のためだけにコレクションするのではなく、パトロンとなって芸術を後世に伝えたシチューキンの行動の意義は深い。そして、ルイ・ヴィトン財団が私たちにその意義を検証する機会を与えてくれた。
一度に巨匠の絵画を堪能できたことも素晴らしいが、一人の仕事人として彼らのイニシアチブに感動する。
私たち大人は新しい才能を見つけ、応援していかなければならない。
フランク・ゲーリーがつくった大船は、多少の波風では転覆しないフランスの強い芸術文化支援力を見せつけてくれた。
Posted by 児玉 義明
児玉 義明
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建築家。44歳、2002年に小さな設計事務所を妻と設立。3人の子供の父親。代表作、世田谷の介護施設S、西麻布のホテルH改築責任者。小淵沢T山荘のキツツキの穴を塞ぎ評価を得る。受賞、多数。