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滞仏日記「引退公演にどうしても行きたいと願い続けた母さん、再び、失神す!」 Posted on 2024/07/06 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、辻兄弟においての最大問題は、引退公演にどうしても参加したい母さんをどうやって諦めるよう説得するか、であった。
母さんは、8月7日の大阪フェスティバルホールでのぼくの引退公演について、
「どうしても行くったい。死んでも行くったい。それだけは見ないと死ねんけんね」
と周囲に言い続けてきた。
そこで、弟の恒ちゃんと、事務所メンバーなどと相談をし、大阪への母さんの移動を万全の態勢でやろうと話し合っていたのだった。
ところが、一週間ほど前に、再び、倒れてしまった。
それも、
「いや、ものすごい音がしたから驚いて振り返ったら、母さんが倒れていたんだよ」
と弟がいうほどの転倒であった。
すぐに救急車で病院に搬送された。主治医の先生によると、迷走神経反射による失神ではないか、ということであった。
「倒れたあと、話しかけたけれど、目の焦点があってなくて、今回は焦った。先生に、慢性硬膜下血腫だけ、気を付けてくださいって」
なるほど・・・。
慢性硬膜下血腫とは、脳の細かい血管がきれて、血が脳内にたまるもの。ぼくも一度、倒れた時に頭を打ち、頭から血を抜かないとならなかった・・・。
その時は、入院せずに帰ることが出来たが、これが今後は続くかもしれないし、慢性硬膜下血腫は2,3か月後に症状が出るので、大阪のころが特に危険・・・。
ぼくと恒ちゃんは、このようなことが移動中に起きたら、命に係わるかもしれないね、という話しあいになった。
介護問題はほんとうに大変だ。
うちは、弟が日本の事務所の代表なので、事務所の仕事と母さんの介護を受け持ってくれている、そのおかげで、ぼくは自由に創作ができるが、やはり、ここは力をあわせて、母さんを守らないとならない。
「困ったなァ~」
この一週間、フランスツアーの合間に、話し合った兄弟なのであった・・・。

滞仏日記「引退公演にどうしても行きたいと願い続けた母さん、再び、失神す!」

※ これは2019年7月の母さん、この時、84歳。今は、89歳!

滞仏日記「引退公演にどうしても行きたいと願い続けた母さん、再び、失神す!」

※ 母さんの大好物!



「なあ、恒ちゃん。母さんに引退公演、見せたいけれど、真夏の大阪、ちょっと難しいんじゃないかな」
「うん、そうだね、危ないね」
「君、母さん、説得できないか?」
「うん。それしかないかな」
ということで恒ちゃんが母さんのまずは説得を試みることになった。ダメだったら、ぼくがやるよ、と伝えた。
ということで、その日から、ほぼ、毎日、この問題を協議しあうことに・・・。
恒ちゃんは、毎日、母さんの様子をみながら、大阪はやめとこうね、と説得を続けたのだそうだ。
とにかく、母さんは、ぼく以上に頑固なのだ。
頑固はでも、いいことだと思うが、年齢が年齢だけに、なかなか説得が難しい。
なので、知恵を絞った、父ちゃんであった。
「そのかわり、ぼくがこの夏の日本滞在中、福岡に食事を作りに行くから、その方がいいんじゃないか、と聞いてみてくれないか」
「了解。いいアイデアだね。聞いてみます」
すると、今朝、その件について確認ラインを送ると、弟から朗報が届いたのであった。
おおおお、よかった。
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滞仏日記「引退公演にどうしても行きたいと願い続けた母さん、再び、失神す!」

滞仏日記「引退公演にどうしても行きたいと願い続けた母さん、再び、失神す!」

※ フランスツアーの時に、ファンの方からいただいた父ちゃんラベルの角!!!! 新発売! あはは。



母さん、の件が朝いちばんで解決して、ぼくはほっと胸を撫でおろすことができたのだった。
肩の荷がおりた~、ひとまずだけれど・・・。笑。
そして、今日は、秋、パリのマレ地区で行われるフランス初個展作品の写真撮影を事務所で行ったのだった。
そのあと、撮影の小田光と近所の韓国レストランに行き、暑いから、冷麺、を食べたのである。
母さんが、そっちは暑いのか、と心配してくれたので、冷麺の写真を撮影し、恒ちゃんに送ってやった、父ちゃんであった。
さて、来週はいよいよ、日本を目指します。人生で一番熱い夏になりそうですね。

滞仏日記「引退公演にどうしても行きたいと願い続けた母さん、再び、失神す!」

滞仏日記「引退公演にどうしても行きたいと願い続けた母さん、再び、失神す!」

※ 事務所の近くに冷麺を発見。ひゃああ。なかなか珍しいことです。



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
パリもじわじわと熱くなってまいりました。総選挙と100年ぶりのオリンピックが同時に近づいており、今は台風の前の静けさ、という感じです。英国も選挙で新首相に代わりましたね。都知事選もまもなくということで、この7月、世界はますます慌ただしくなりそうです。ぼくは、少しずつ、荷造りをはじめています。その横で、三四郎が、疑惑のまなざしをぼくにぶつけてきております。パパしゃん、どこいく??? ううう、ごめんなさい。
さて、夏の個展について、ちょっとご報告があります。
昨日、Dancyuの連載を読んでくださった読者の方が(プロフィールに個展情報が出ていたので)、今日、新生堂画廊に下見に来られた、ということでした。ありがとうございます。しかし、その方は、夏の個展が完全予約制であることをご存じなかったようで、新生堂がご対応してくださいました。夏の個展、不意に来られても入れませんので、どうしても、と思われる皆さんは、新生堂さんにご相談をください。
それから、来週、12日に、エッセイ教室をやります。課題はすでに締め切りましたが、いつものように、課題の提出がなくても、十分参考になる講義だと思いますので、文章を書くのが好きな皆さん、どんどん、ご参加くださいませ。
申し込みはこちらから、・・・・。
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滞仏日記「引退公演にどうしても行きたいと願い続けた母さん、再び、失神す!」

※ 人生はいろいろとあるよ。でも、笑顔で、前進しかないのだ。

自分流×帝京大学