JINSEI STORIES
滞仏日記「フランスの大学生たちに、大混乱する政治について訊いてみた!」 Posted on 2024/06/16 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、大混乱する今のフランスの現状について、大学生の意見を聞いてみたい、と思った。
なにせ、フランスやEUが今とんでもない状況になりつつあることは、世界中で、周知の事実となっている。
しかも、オリンピックの直前に、フランスの政権が入れ替わる可能性がかなり濃厚になりつつ、あるのだから・・・。
日本のメディアが「マクロン大統領は賭けに出た」と言うているが、賭けに出た、という状況じゃない。もはや、やけくそみたいな、感じにさえ、見える。
友人のジルは、左派でも右派でもなく、どちらかというとマクロン大統領に近い、中道右派なんだが、その身内的な人間でさえも「マクロンが勝つ可能性はゼロに近い」というのだ。
日に日に、なんでこんなことになった、オリンピック前に、と大騒ぎになっているが、選挙権を持つフランス人の大学生たちがどう思っているのか、すごく気になり、行きつけのカンボジアレストランで、息子に通訳を頼み、息子の友人でもある3人のフランス人学生に意見を聞いた。
これが、めっちゃ、面白かった、というと語弊があるが、そこまで、政治に関心があるのだ、とびっくりした、というのが正直な感想である。
一人は、経済系の大学に通うU君、もう一人は理系学生A君、もう一人は政治家を輩出する専門の学校に通うZ君である。ちなみに、U君は左派を応援し、A君は極右政党国民連合を支持し、Z君は、中道・・・。
「バルデラさんは人気あるけど、大学生はどう思っているの?」と父ちゃんは彼らにぶつけてみた。
「バルデラはもともとユーチューバーだったからね、人心掌握が上手。でも、表のソフトなイメージに騙されちゃだめ。彼が政権を持ったら、フランスは昔に戻っていく。文化はエリートのものだって、彼は発言している。美術館は無料で入れなくなるかもしれない。文化の面だけでも、かなり後退することになる」と左派のU君。
「でも、マクロン政権にみんなへきえきしている。彼は何も実行できなかった。バルデラは、フランス人の心をつかんだからね、頭がいい」と右派のA君。
A君は、息子に言わせると、思想的には極右。移民の排斥を日ごろから口にしているので、U君とはそりが合わない。
「バルデラになったから、ここまで国民連合が拡大した、というのは間違いないですね」とZ君。Z君は女子大生でもある。
「ぼくのような日本人は、どうなるの?」とぼく。
「昨日のバルデラのツイートでは、フランスが好きな外国人で、ちゃんと法律に従い、納税出来ている人は、フランスにいて貰いたい、と書いてありました」とA君。
「出生地主義は、もう確実になくなります。アメリカで生まれたらアメリカの国籍がもらえますが、フランスでは、フランスで生まれても、これから先は、フランス人になることはできなくなります。これは、マクロン政権も、同じことを考えています」とU君。
「Z君、どっちに、投票するのか、もう決めているの?」と聞いてみた。彼女は、中間層なのである。
「あの、まだ、ぎりぎりまで悩みますが、たぶん、接戦になると思うんです。右派になっても、左派になっても、フランスは大混乱に陥るでしょう。敗れた方の政党支持者が激しいデモや、あるいは暴動のようなことを引き起こし、オリンピック前に、シャンゼリゼとかが、燃える可能性がありますが、政権が交代する可能性が高いから、どこまで、警察がこれをおさえることが出来るのか、とか、オリンピックが危険にさらされる可能性が高いですし、それを、避けることを考えて、最終的に、投票をするかな、と・・・」
「なるほど。Z君のような浮動票が今度の選挙で、どう動くか、で、フランスの未来は決まるってことだね」とぼく。
「あの、フランスだけじゃなく、欧州連合の未来も、ウクライナの未来にも少なからず、影響があると思いますよ」
「だよね」とぼく。
※ 食事が下げられても、大学生たちの議論は続いた・・・。
「でも、ぼくが解せないのは、なんで、マクロンさんは、こうなることがわかっているのに、下院を解散して総選挙に打って出たのかな。日本のメディアはみんな、賭けに出た、と勝ち目もないのに、言ってるんだけれど、これって、賭けじゃないよね? もはや、自滅みたいにしか、ぼくには見えないんだけれど、だって、議席をほぼ、失いかねないでしょ?」
Z君が続けた。
「あの、私の推察というより、一般的に言われていることですが、マクロン大統領は、この選挙は頭から負けるとわかっていて、もっと大きな意味で賭けにでている可能性もあります。つまり、彼は国民連合が勝つと踏んで、行動に出た。左派連合が生まれたのは、予定外だったんじゃないでしょうか? で、国民連合が勝つのは避けられないので、総選挙に出て、国民にそれを選択させる。国民連合が組閣して、新しい内閣ができるんですけれど、大統領の任期は27年まで残っています。バルデラさんのお手並み拝見という立ち位置に一度下がるんです。国民連合が政権をとっても、左派は勢いづいているし、中道も反対にまわり、実際、議会が荒れ続け、法案が可決されなくなり、下手すると、フランスの経済が大混乱に陥り、EUのほかの国からも、相手にされなくなって、ブレグジットの時の英国以上に、もっとすごいことになれば、国民は、やっぱり、中道政権がよかった、と思うかもしれない、と。その流れを2、3年かけて、作ろうとしている」
確かに、極右政党支持者たちと、極左政党支持者が、各地で激突しており、この状況が続くとフランスは疲弊する。やはり中道がよかった、という人が出てくる可能性も、・・・、昨日も、リヨンで、警察と極左支持者が激突をしている。
「いや、そんなことにはならないでしょ。英国はいま、景気いいじゃないか」とA君が笑いだした。
「国民連合はずっと、長い年月、フランスの政権をとるための協議を続けてきたし、実際、マリー・ルペン(実際のドン)も、政権を取る準備はできている、と発言しているし。暴動が起きたら、軍隊がそれを鎮圧すればいい」
とにかく、こういう話しが延々と続いたのだった。
ぼくが、もっとも興味深かったのは、フランスの大学生たちが、実に政治に高い関心をしめしている、ということ。
そして、有権者の多くが、次の総選挙に行くだろう、ということ。驚くべき、投票率になることは間違いない。
6月30日、決選投票に残るのは、国民連合と左派連合ということになり、7月7日のフランスの命運を決める第二回投票日は、欧州中、世界中から、注目を集めるだろう。オリンピックどころじゃない、という事態に、まさかの事態になるのだ!
現財務相のル・メール大臣が、「もしも、国民連合が勝利し、同党が考える経済プログラムが実行されると、フランスは債務危機に陥る」と警告しているが、さて、どうなることだろう。
学生たちは、途中から、ぼくのことなど、忘れて、激しい議論を始めてしまった。
父ちゃんは仕方なく、一人で、ワインを飲み、カンボジア料理を頬張り、彼らの熱い議論に耳を傾けることになった。
どちらにしても、学生たちの政治への関心はものすごく強い。そして、もともと学生は左派に傾く傾向が強いのに、バルデラ党首の人気がかなり高いことにも、驚かされた。
極右政党の国民連合にそこまで否定的ではない、というのも、今日、感じたことであった。
しかし、こればかりは、7月7日まで、誰にもわからない。
何が起こるのか!?
どっちが勝っても、7月7日からしばらく、パリは激しいデモや、あるいは、暴動もおこることも予想される。オリンピックなどそっちのけで・・・。
パリにこの時期訪れることを計画されている皆さん、情報をよく分析し、安全の確保をお願いします。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
その一回目の選挙の日、6月30日に、父ちゃんはベルビルにある「ル・ゼブル」でライブをやります。フランス人の方々は、ライブどころじゃない、みたいです。ですよねー。ま、がらがらになるかもしれないので、和気あいあいとやりましょうかね。笑。
はい、ということで、引退ライブが近い父ちゃんから、お知らせです。
今月の地球カレッジ、6月27日、ボルドー市内オンラインツアーをやります。なんか、ボルドーで美味しいもの、探しましょうね。
ボルドー市内を練り歩く、父ちゃんガイドは、こちら。
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https://tunagate.com/community/xWZVvgZD/circle/92861/events/329477
そして、地球カレッジ、7月12日、第二回、エッセイ教室もあります。もう少し、文章で人生を豊かにしたい皆さま、どうぞ~。
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https://tunagate.com/community/xWZVvgZD/circle/92861/events/329479
さて、さて、ボルドーに続き、そのあとは、パリに行きます。
●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html
7月3日、リヨン、La Marquise
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html
それから、来月は、いよいよ、日本での引退公演ファイナルツアーがスタートします。音楽興行の世界から、引退します。
父ちゃんのジャパン・引退・ファイナル・ツアー・・・。
7月30,31,8月5日、有楽町、ヒューリックホール。
8月7日、人生最大の千秋楽、大阪フェスティバルホール
と、なります。
お時間があれば、どうぞ、お立ちよりくださいませ~。最高のライブにしましょうね!!!!
その他の情報~。
●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)
あと、ツジビル・ラジオを、月に3回やっています。
皆さんのお悩み相談にこたえたり、一緒に考えたり、時事ネタもありーの、歌はないけれど、笑、お笑いもあって、楽しいひと時になることうけあいです。ラジオ好きな皆さん、どうぞ、ご参加くださいませ。
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