JINSEI STORIES

滞仏日記「田舎のロックンロールスターの家に招かれた。ポルシェ二台もあった」 Posted on 2024/06/01 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、いろいろな友だちがいるが、ロックスターみたいなやつがいる。
NHKの「ボンジュール、辻仁成のパリごはん」再放送が決まったが、そこにもたびたび登場をした、ほら、ぼくの田舎のアパルトマンの内装を手掛けたインテリアデザイナーのジェローム!!!!
身長が2メートルほどあり、ぼくからすりゃー若造なんだけれど、いつもアメリカンなキャップをかぶって、何より声がロックスターのようにかすれているし、所作がロックだし、ええと、態度もでかくて、
「だからよー、いいじゃん、いいじゃん、最高じゃーん、ツジー♪」
みたいな、会話の最後に必ず♪が付くようなしゃべり方をする。
その上、指パッチンで締めくくり、敬礼して、ニカっと白い歯を光らせて去っていく・・・、まさに永遠のロックスターみたいな、田舎のおじさん、そういう人、ご近所にいません?
ジェロームはまさに、そういうやつなのであーる・ぱちーの。
でも、お父さんが学者だから家にはすごい本があって、そのせいで、読書家だと言い張る。(嘘だと思います)
「だからよー、ツジー、最近、パリでも仕事してんのよ(指パッチン)」
指パッチン、日本人以外でやるやつは、はじめてなので、笑いがとまらないのであーる・ぬーぼー。
「パリで仕事って、すごいね」
「この前、ツジーのポスター、パリのブティックに貼られてるの見たぜ」
「マジか」(たぶん、岡本さんの店だと思いつく、ところが、狭い・・・)
「マジマジ。おれ、自慢しちゃったよ、この人、友だちだぜって」
ということで、彼の家に招待されることになったのだ。
ええと、ノルマンディって、イメージとしては新潟県くらいに広いイメージ。
隣町まで車すっとばしても30分、なのである。
ぼくのアパルトマンから彼の家まで45分・・・、悩んだけれど、ナビを頼りに、三四郎を連れて、出かけることになった。よっこらしょ。
しかーし、遠い・・・。
延々とまっすぐ伸びる山道を、ひたすら、飛ばしていくのであった。
そして、やっと、到着・・・、えええ、マジか、ロ、ロックスターの家じゃん!
ジェロームの家のガレージに、ポルシェが2台も!!!! う、やばい。田舎のロックスター、決定!!!!
「ジェローーーーム、君はこんなすごい家に住んでいるのかぁ!」

滞仏日記「田舎のロックンロールスターの家に招かれた。ポルシェ二台もあった」



「ジェローム、ポルシェ何台持ってるの?」
「二台だよー。にだーい!」
だみ声で、ニヒルに笑いながら、言うのだった。発音が、歯の間から、漏れまくる仏語で、どこから声だしてんの? 同じ人間かよ。でけー。
「入いれよ、俺んち、かみさんと息子紹介すっからよー(ちょっと盛っています。もうちょっと品はいい。でも、印象的には、これくらいおもろいキャラなんです)」
ところが、ポルシェから回り込み、敷地に入ると、どっかーんと広大な庭、千坪はある?
プールもあるが、驚いたことに、池が三つあった。
「ここによ、ほら、日本の魚を飼うんだ。ピンクとか金色のやつ。なんだっけー?」
「鯉かな・・・」
「それ、それよ、鯉をよ、泳がすんだよー」
マジか、ついていけないわ。このセンス、大丈夫か・・・。

滞仏日記「田舎のロックンロールスターの家に招かれた。ポルシェ二台もあった」

滞仏日記「田舎のロックンロールスターの家に招かれた。ポルシェ二台もあった」



家に入ると、これが、またどでかい。7月に買ったばかりなので、工事中なのだとか・・・自分の仕事がない日に、少しずつ、内装をやっているらしく、なかなか進まない、とぼやいている。
「見てくれ、この床! これ、全部、本物の石なんだよ」
どうでもいいわ、と思うが、相手はインテリアデザイナーだから、自慢したい気持ちもわかる。壁もよ、全部、石にしたんだよー、すげーだろ~。
だから、どうでもええわ、と思うが、呼んでくれたので無下にできない。壁紙とか、ペンキとか、石材とかについて、延々と語り、楽に1時間が過ぎた。
「ジェローム、あの、もういい。わかった。奥さんの料理がおいしいので、そっちに話を切り替えないか?」
「え、ああ、オッケー、それがいいな。(指パッチン)」
いらんわ、指パッチン・・・。
でも、楽しかった。
友だちのしるしに、ぼくの画集をプレゼントしてあげたのだ。
「え、ツジーは絵もやるのか? おおお、なんじゃ、この絵、パンクだな」
「パンク!?」
笑った。インテリアデザイナーなんだから、わかるのかもしれない。じっと画集を見ている。
黙ると、かっこいい。あはは。
奥さんが横から、覗き込んでいる。いい感じのご夫婦である。
「色がいいな」
「マジか、色の良さ、わかんのか?」
「馬鹿にすんな。大学で、美術史も学んだことがあんだよ」
「ほー、そうかよ」
思わず、こっちも口が悪くなった。
「でよー、中世美術とか勉強もしたんだ、わかるにきまってんだろ、ツジー」
「そうかよ、そりゃあ、よかったな」
投げやりになったが、ジェロームはずっと画集を見ていた。小説は読まないかもしれないが、絵はやっぱ、目に飛び込んで来るものだから、デザイナーだし、感じるのかもしれない。
不意に、会話がそこで止まったので、つまらなくなった。
「いいよ、ちゃんと読まなくて」
「ちょっと黙ってろよ」
うららー、ということで、美味しいごはんでした。
カレーのようなソースをお肉にかけて、食べる料理なのだが、食べたことのないスパイシーなうまさ! 世界は広いね。
さ、45分かけて、帰るぞ、サンシー。

滞仏日記「田舎のロックンロールスターの家に招かれた。ポルシェ二台もあった」



滞仏日記「田舎のロックンロールスターの家に招かれた。ポルシェ二台もあった」

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ジェロームもたびたび出演してくれた、NHKの「ボンジュール、父ちゃんのパリごはん」の再放送ですが、
●ボンジュール!辻仁成のパリごはん「2022春」
【BSP4K】6月9日(日)午前9:00~9:59
※初回放送 2022年6月17日

●ボンジュール!辻仁成のパリごはん「2022夏」
【BSP4K】6月16日(日)午前9:00~9:59
※初回放送 2022年9月23日

●ボンジュール!辻仁成のパリごはん「2022秋冬」
【BSP4K】6月23日(日)午前9:00~9:59
※初回放送 2023年2月17日
だそうです。お時間のある皆さん、画面を通してお会いしましょうね。

はい、そんなロッカーな父ちゃんの、引退ラストライブのお知らせです。
辻仁成、ジャパン・引退・ファイナル・ツアーは。
7月30,31,8月5日、有楽町、ヒューリックホール。
8月7日、人生最大の千秋楽、大阪フェスティバルホール
になります。
そして、フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
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●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html

そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html

●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)
あと、ツジビル・ラジオを、月に3回やっています。
皆さんのお悩み相談にこたえたり、一緒に考えたり、時事ネタもありーの、歌はないけれど、笑、お笑いもあって、楽しいひと時になることうけあいです。ラジオ好きな皆さん、どうぞ、ご参加くださいませ。
詳しくは下の、ツジビルサイトを、クリックね!
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