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滞仏日記「久々、フランスのプロモーター、ベルトランと会った。新・希望回復作戦」 Posted on 2024/05/30 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、オランピア劇場を仕掛けたフランスのプロモーター、ベルトラン・トロペド(魚雷という意味のフランス語)と夕飯を食った。
パリでの個展が決定し、気をよくした父ちゃんのもとに、ベルトランから、ツジー、辛い、と連絡が飛び込んだので、じゃあ、飯、行くか、ということになった。
行きつけの和食店「YUZU」で合流!!!!
こちらの大将は、おっさんずラブの会で時々、日記にも登場してくるおおたけ大将なのだが、物静かで、余計なことは喋らないし、口を挟んでこない、ま、父ちゃんと同じ、友だちいない人間だから、気楽に飲める店なのだった。
ベルトランは、昨日までツアーをやっていたが、大赤字だったらしく、しょんぼりと登場した。
なんだよ、暗いな、と言うと、赤字になったことを吐露したが、こいつのいいところは、アーティストの悪口は言わない。借金は自分で背負う、のだ、そうだ。
なんか、同情したくなり、好きなものを好きなだけ喰えよ、と言って気分を盛り上げてやった。
もちろん、来月、30日のパリと、7月3日のリヨンでのライブのプロモーターなのだ。まだまだ、これからも共に頑張ろうということで、決起集会みたいになった。
「ここの天丼は世界一なんだぞ。喰えよ」
というと、大将が、ちょっと、辻さん、メニューにないんですよ、と苦笑した。
「ええ、でも、世界一の天丼なのに、この落ち込む仲間に食わせたいんだよ」
とわがまま、言った。
「はいはい、わかりました。でも、外では吹聴しないでください」
「わかった。日記とかには書かないから」
と約束をし、二つ、頼んだ。
御覧いただきたい、これが、YUZUの裏メニュー「天下一天丼」であーる。

滞仏日記「久々、フランスのプロモーター、ベルトランと会った。新・希望回復作戦」

滞仏日記「久々、フランスのプロモーター、ベルトランと会った。新・希望回復作戦」

※ おおたけシェフの独り言「辻さん、って、困った人なんですよ、あはは」



ということで、何でも好きなものを食え、と前回の東京で若造たちに言ったのと同じことを繰り返した父ちゃんだったが、ベルトラン、めっちゃ食う・・・。
天丼、寿司、唐揚げ、納豆いなり、とろろそば、あん肝、しし唐揚げ、最後に、フォアグラのステーキまで平らげ、さらに、日本酒、焼酎、ワイン、ビールを飲み干した。
「おいおいおい、俺は金持ちじゃねー。なんでも喰えとは言ったが、弁えつつ、何でも喰え」
と笑いながら、言ってやった。
「でも、辻、昨日までは地獄だった。借金を抱えて、どうしようか、と悩んだ。でも、辻に会えて、今日は幸せだ。明日から、また何とかなると思えた。持つべきものは友達だな」
と言うので、がはは、と笑った、父ちゃんだった。金は天下のまわりもの。
「ところで、パリのライブ、チケット何枚売れてんの?」
訊いたら、ベルトランの鼻の穴がパかっと見開いた。
「二階席は完売したけれど、立見席がまだぜんぜん、広々してる」
「あはは。あんなに天井高い会場なんだから、ビーチバレー出来るくらいかな?」
「サッカーできるぞ」
作家だけに、サッカーができる、というオチなんですけど、ま、よかでしょう。
パリ在住の皆さん、ぜひ、6月30日、ベルビルの「ル・ゼブル」までお越しください。損はさせませんぜ、いひひ。
ということで、まだまだ苦戦が続く、パリのライブなのだけれど、リオンも、まだまだ、席に余裕があるらしい。
「ベルトラン、でも、今日は仕事の話はやめよう。暗くなる、それに、なんとかなる」
「・・・」
「赤字にはさせないから、安心しろ」
そう言って、ぼくは画集をベルトランに手渡したのだった。画集を開き、驚いた顔で、じっくりと絵を見下ろすプロモーター。☜、わかっとんのんかい?
「ツジー、お前が描いたのか?」
「実はパリでの個展が決定したんだ。だから、お祝いだ」
「マジか」
ぼくらはグラスを傾けあった。大将も一緒にカンパイとなった。
「人生はいろんな道があってね、きっと、いつか、道は繋がる。だから、君にもぼくが描いている絵をみてほしい。観に来てくれよ」
「もちろん・・・」
ベルトランは、いつまでも、絵を見下ろしていた。☜何か、感じるものがあるのかな。

滞仏日記「久々、フランスのプロモーター、ベルトランと会った。新・希望回復作戦」

滞仏日記「久々、フランスのプロモーター、ベルトランと会った。新・希望回復作戦」



ベルトランは中央アフリカのカメルーン国の出身だが、アフリカのアーティストはみんなベルトランに頼って来る。
彼がアフリカの窓口のようなことをしている。
ベルトランは決して器用な男ではないが、でも、ウソはつかないし、大きなことは言わない。だから、いつも赤字なのかもしれない。でも、本物のアーティストが彼の周囲には集まって来る。常に、彼には夢がある。それは素晴らしいことだ。
ぼくは、そういう誠実さが好きなので、ライブをやろうと言われれば、喜んで、と言っている。
「今日は最高に楽しい夜になった。ツジー、ありがとう」
ベルトランが言った。
でも、きっと、ベルトランは乗り切ることが出来る、と最後に励ましておいた。
いいタイミングだった。ぼくはちょうど個展も決まり、エネルギーがあふれていた。エネルギーを失っていた彼の心の穴ぼこをふさぐことが出来た。
持ちつ持たれつ、というが、ぼくらは、パリの片隅で、日本酒を傾けあったのであった。
「仲間に、かんぱい」

滞仏日記「久々、フランスのプロモーター、ベルトランと会った。新・希望回復作戦」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
自分が苦しい時に、誰かに支えられたら、人間はその恩義を忘れないものです。ぼくはベルトランに救われた日があったので、それを返すのが今日だな、と思ったのでした。いつか、ぼくがノックアウトされた時、きっと、彼が彼なりに、ぼくをガードしてくれるでしょう。そういう仲間、大事にしましょう。それが、生きるということです。友だちの少ない父ちゃんですが、人数じゃないです。

はい、引退ラストライブのお知らせです。
辻仁成、ジャパン・引退・ファイナル・ツアーは。
7月30,31,8月5日、有楽町、ヒューリックホール。
8月7日、人生最大の千秋楽、大阪フェスティバルホール
になります。
そして、フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
☟☟☟☟☟
●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
☟☟☟
https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html

そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
☟☟☟
https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html

●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)
あと、ツジビル・ラジオを、月に3回やっています。
皆さんのお悩み相談にこたえたり、一緒に考えたり、時事ネタもありーの、歌はないけれど、笑、お笑いもあって、楽しいひと時になることうけあいです。ラジオ好きな皆さん、どうぞ、ご参加くださいませ。
詳しくは下の、ツジビルサイトを、クリックね!
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