JINSEI STORIES
滞仏日記「大人になったら何が大事になるの? と息子に質問された」 Posted on 2024/05/04 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、昨日の夜、暇だったから携帯で為替レートを眺めていたら(海外在住者の趣味)、わずか30分ほどの間に、2円ほど円がぐぐんと高騰したのでひっくり返った。
「え、え、え、また、為替介入してんの?」
誰かに言いたくてしょうがなかったが、誰もいなかったので、ものすごい瞬間を生で目撃してしまった父ちゃん、こ、興奮で風邪がふっとんだ。
で、朝、164円台まで円が上がっていた。
最初の日銀による為替介入がある前は171円くらいまで円が下落していたのに。※為替介入という証拠はありません。あくまでも世界的な憶測によるものです。
そういうこともあって、円高と同時に目覚め、風邪がどうやら治っていた。現金。
息子から、ごはんを食べよう、栄養をつけよう、と連絡が入ったので、夕方、円高に背中を押されて、少し早い時間にパトリスのレストランに行き、向かい合った。
「何食べる?」
「何がおいしいの?」
「なんでも美味しい、遠慮するな。今日は財布が重たいんだ」
メニューを眺める息子、いろいろと考えている。
「じゃあ、お肉食べたい。いつも、自炊で、ほら、お肉は高いから。いい?」
息子は、前に訊いたら、一日5ユーロくらいの食費だと言っていたから、すごい。安く買えるスーパーを見つけたのだ、という。お米も一キロ5ユーロだって・・・。
「好きなものをどうぞ。円がね、ちょっとあがった。今日は遠慮なく、ごちそうできます。あはは」
ここは結構、ビストロでは高い方なのだ。
で、前菜、肉、魚、とメニューが分かれている。
肉は、十種類くらいがあって、一番安いハンバーグで21ユーロ。一番高い牛フィレステーキで40ユーロもする。
でも、28ユーロのハラミ肉ステーキから、32ユーロの鴨ステーキあたりが、値段的に人気・・・。
※円安がずっと続いているので、高いと思われるかもしれないが、普通のカフェでもハンバーグは15ユーロ(2500円)くらいはするのが、欧州の現実。物価が日本と違い過ぎて、父ちゃん的には、いつも眩暈ばかり、だから突発性難聴になった、笑。
「高いな。学生からすると、全部、手が出ない」
「だから、今日はいいよ、気にするなよ」
「じゃあ、ハンバーグかな」
「せっかく、レストランに来たのに、ハンバーグじゃなくていいんだよ」
「でも、わからないから。いつも自炊だから」
給仕さんが来たので、一番高いフィレ肉のステーキを選んでやった。
「いいよ、そんなの」
「でも、こういうところでいいものを食べるのが勉強にもなるし、年に一度のことだから、食べなさい。また、円安は戻って来るから、そしたら、辛ラーメン」
「あはは。うん、で、パパは?」
「ハンバーグ」
あはは。
風邪が治ったばかりだから、アルコールはやめておいた。
「聞きたいことがあるんだ。その、たとえば、パパくらいの大人になったら、何が大事になるの」
けっこう、アバウトな質問だったので、ハンバーガーを頬張りながら、軽く戻しおいた。
「パパが君くらいの時に、絵本作家の君平おじさんの家に居候をしてことがあってね、ほら、君の日本のお母さん役のミナちゃんのお父さんね。遠い親戚なんだけれど、良く面倒をみてもらっていた。君平さんの家に、住んでいたんだ。学生のころ、一時期。で、おじさんと二人でご飯食べた時があって、その時に、君平さんが言った。ヒトナリ、大人になったら、医者と弁護士を大事にしなさいって」
「え、なんで?」
「パパも最初、わからなかった。でも、大人になるとわかることがある、自分がどんなに正しく生きていても、いんねんをつけられることがある。星の数ほどの人生の妨害が降りかかってくる。それが病気だったり、事件だったり、詐欺だったり、いろいろだよ。大人になると、恐ろしいものばかりに囲まれる。でも、パパは日本にもフランスにもなぜかお医者さんの友だちがたくさんいるんだ。その人たちが、いつも、助けてくれる。今回の風邪も普通の風邪じゃなかったけれど、パリのドクターが親身に遠隔でサポートしてくださった。同じように、生きていると、病気にかかるみたいに、いいがかりや、難癖や詐欺まがいの横暴が押し寄せてくることがある。それは法的に対応してもらうしかないんだ。例えばぼくの顧問弁護士の先生が同時に親友だから、パパは安心して生きていくことできる」
息子の小学校の頃の同級生のお父さんが弁護士で、ぼくはずっと、お世話になっている。友だちでもあるから、軽く相談ができ、真剣に戦ってくれる。ぼくが22年、フランスで生きることができたのは、弁護士の先生と、ドクターのおかげなのだ。
「君平おじさん、すごいね」
「でも、君平さんはこうも言った。でも、大人になった時に、3人、世界のどこかに、友だちを持っておくともっと安心だよ、と」
「へー。なんで3人?」
「さあ、君平さんは46歳の時に死んじゃったからね。それを聞きそびれている」
「そうなんだ」
「でも、パパが思うに、3人というのは、ちょうどいい数字じゃないか、と思うよ。もちろん、1人でも十分だけれど、ちょっと少ないじゃん。10人だとちょっと多すぎない? 本当の友だちって、せいぜい、3人くらいかな。知り合いはたくさんいるだろ? 君は大学で友だちできたか?」
「みんないい仲間で、うまくやっているけれど、まだ親友はいないかな」
「ユゴー、トマ、アレックス。昔からの友だちが3人いるじゃん」
「そうだね。ルイもいるし、ウイリアムもいる。ほかにもいるよ」
「じゃあ、お前は幸せなんだ。大人になって、困ることはない。いいか、友だちは財産だから、大事にしなさい。それだけで君はこの国で生きているんだよ」
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
さすが、病み上がりで、ハンバーガー食べきれそうになかったから、まず、フォークで半分にカットし、息子くんに先に食べさせました。美味しい美味しい、と完食してました。昔はお肉を食べない子でしたが、自炊男子になってから、なんでも食べられるようになっています。少しずつ、大人になっているので、安心ですね。大事なことです。あはは。
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