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滞仏日記「パリで個展をやりたい父ちゃんは、雨の中、アポなし画廊巡りをしたのだった。熱血~」 Posted on 2024/04/28 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、熱血とは何か、を思い出さないとならない。
人間は、熱血をなくす時に、人生の大半を失うことになる。若者が生き生きしているのは、熱血がみなぎっているからに他ならない。
ぼくは、気分がすぐれない今だからこそ、熱血を取り戻さないとならない、と思った。
ぼくは生活地でもある、ここフランス、とくに芸術の都パリで個展をやりたいのだった。やらなければだめだ、それも、継続して・・・。
しかし、パリの画廊の人に、芸術大学を卒業してから出直してこい、と袖にされた苦い過去があった。どひゃあ。
文学部を出ないと、作家になっちゃダメみたいな珍しい思考であーるぬーぼー。
俺の絵を見てから言えよ、と日本語で捨て台詞をはいて、そこを後にした進歩的な父ちゃんであった。あはは。人生は常に、このような権威主義との闘いと勉強である。
絵も見ないで、大学出てから来い、はないだろ。今に見てろよ、と思った時、ぼくはまだ何者でもなかった。(伊勢丹個展の前だったのだ。あはは)
誰もがはじまりは新人なのであーる・はんぶら宮殿。
このことは先の日記で描いた通りで、他にも、絵を見せに行こうとしたら直前にキャンセルをされた画廊とか、いろいろと苦い経験がある。
しかし、人生にスター街道などあるわけがない。
踏みにじられても、父ちゃんは、ただ一人の理解者を探し続ける。それだ、それこそが、熱血道、というものである。
熱血道開祖、父ちゃんだ~。

滞仏日記「パリで個展をやりたい父ちゃんは、雨の中、アポなし画廊巡りをしたのだった。熱血~」



音楽の場合、パリの路上からスタートした。(映画もここパリで自主映画を一本撮りきったことがあった。無謀だった)
でも、ここで生きているのに、日本でしか評価されないようじゃ、パリで暮らしている意味がなくなる。
パリで生きている以上、ここの人たちに自分の創作を届けてこそ、の自分なんだ。それ以外に何がある?
ここで這い蹲って、創作をしているのだ。50年後を、見てみろ。俺は死んでる。でも、父ちゃんの絵はこの世界のどこかに展示されているはずだった。
あはは。はずなんだ。死んでるから、わからないけれど、がはは。
自分を信じているから、その絵が見える・・・。
ということで、無謀な父ちゃんは画集を2冊、抱えて、サンジェルマン・デ・プレにある画廊街へ、なんのアポもなしで、出かけてやった。
穴掘って蟻が落ちてくるのをまつだけの、アリクイのような人生はぼくにはむかない。
息子に言い聞かせている。履歴書だけ書いてやった気になってる青春を生きるな!
64歳の無名画家は、画集「les invisible」を抱えて、サンジェルマン・デ・プレのギャラリー街のど真ん中に立った。ええと、どっちに行こうかな・・・。
昔、友だちのお母さんが個展をやった小さな画廊があったことを思い出したので、まず、そこを目指した。
こじんまりした画廊だが、ギャラリストのムッシュが椅子に座って、ふんぞり返っていた。堂々と、ドアを押し開けてみた。サムライ、登場・・・。
気配に気づき、おじさん、顔をあげた。
「元気ですか?」
言ってみた。おじさん、不審な顔で、ええ、まあ、と言った。
「ほら、前に、・・さんがここで個展をされて、ちょっと話をしたんですけど、ほら、日本人の、ぼく、こんな感じの、覚えてます?」
え、という顔のご主人、まもなく、ああああ、あんた、日本作家の?
「そ~、やった、よく思い出してくれました。ご名答。ぼく、ほら、日本で個展やるって、あの時、言ってたでしょ? やったんですよ。で、これ、その時の、カタログです」
有無を言わさず、画集をおじさんに手渡す、父ちゃん。おじさん、おそるおそる、開いた。やった。まず、画集を開いてもらうのが、とっても大切なのだ。
じっと見ている。いいぞ、ちゃんと見ろよ。ページをゆっくりと捲った。よし~。
「実は、フランスで個展やりたいんです。やっぱ、パリでしょ、芸術の都だもの」
「そうだね。うん」
「どうです? はっきり言ってください。遠慮しないで、暴言歓迎」
「いや、いいね、こんな絵を描いてたんだ」
おお、やった。この瞬間、心の中でガッツポーズ。
でも、まだ、わからない。本心はわからないからだ。いろいろと質問を受け、20分ほど、話をしたのだった。でも、気に入ってくれているみたいな、感じ・・・。
「ええと、実際の絵を見て、決めていいかい?」
「もちろんですよ。アトリエに来てください」
「必ず行く。ただ、9月まで時間がないんだ」
えええ、あっと驚く為五郎・・・。まだ4月なのに!!!
なんか事情があるようだ。メアドを交換して、約束を取り付けた父ちゃんであった。しかし、これじゃあ、気持ちが収まらない。9月に、この世界がどうなっているか、わからないからであーる。やれやれ。

滞仏日記「パリで個展をやりたい父ちゃんは、雨の中、アポなし画廊巡りをしたのだった。熱血~」



ということで、もう一軒、もう少し大きな画廊が近くにあることを思い出したので、せっかくだから、行ってみることに。
ここもアポなしで突撃することにしたのだった。ぴんぽーん。
「あの、こんにちは」
ということで、女性のギャラリストさんだったが、これまたアポなしなのに、面会出来てしまった、父ちゃんだった。運がいい。
画集を取り出し、渡すと、その場で、全部の絵を隅々まで見てくれたのだった。
「すごくいいわ。いつか、お仕事がしたい。でも、残念なことに、11月でここをしめるんです。それに、私は専属の画家がたくさんいて、その人たちの面倒をみないとならないから、あなたのために動く時間がないの。ただ、とっても気になるから、私が企画展をやる時に、作品を出展されてみませんか?」
「え、します」
二つ返事の父ちゃんであった。
そこから、フランスで個展をやるために必要な様々な方法をアドバイスくれたのだった。簡単なことではなかった。組合というか、いろいろなルールがあるようだ。なるほど、なるほど、はー。有益であった。大学では絶対に教えてもらえないような・・・。
ぼくはある意味、今日、ここフランスでいい意味で前進ができたのじゃないか。この人の画廊は閉まることになるが、この人から別の人を紹介してもらうことができそうだった。
大雨が降っていたが、そこを出る時、パリは晴れ間が見えていた。
ぼくはパリでいつか個展をやることができるのだろう。あらゆる可能性を排除せず、力の限り、ここで自分を発信してみたい。
その答えは、熱血だけが、知っている。

滞仏日記「パリで個展をやりたい父ちゃんは、雨の中、アポなし画廊巡りをしたのだった。熱血~」



滞仏日記「パリで個展をやりたい父ちゃんは、雨の中、アポなし画廊巡りをしたのだった。熱血~」

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
そういえば、来年の9月に南仏でアートのフェスティバルがあり、主賓としての出演がほぼ決定しています。今年の9月のコルシカ島でのアートフェスにも、もしかしたら、作品の展示が認められるかもしれない。会う人会う人に絵を見せ、ファンを増やしています。まだまだ、味方は少ないけれど、諦めません。熱血に終わりはないからです!!! 世界よ、早く、父ちゃんを発見しろよ!!!!

父ちゃんからの、お知らせだよー。

5月26日に、エッセイ教室をやります。正式募集は、5月1日ですが、課題は「お弁当」エッセイです。エッセイ好きなみなさん、今から課題取り組んでくださいね。
詳しくは、とりあえず、こちらをご覧ください。
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https://www.designstoriesinc.com/wp-admin/post.php?post=52012&action=edit

それから、それから、
月に3度、父ちゃんがお茶の間に登場し、熱血で語ります。
ツジビル村営放送、ラジオ・ツジビルは、こちらです。
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TSUJI VILLE

さて、さて、日本での引退も決定したので、東京と大阪公演、これで当面、見納めになりそうですね。生涯、最高のライブにしますので、お付き合いください。

・東京3DAYS公演
7/30(火)ヒューリックホール東京
7/31(水)ヒューリックホール東京
8/5(月)ヒューリックホール東京
・大阪公演、ワールドツアー千秋楽!
open18:30/start19:00
8/7(水)フェスティバルホール大阪
open18:00/start19:00

さらに、、、、
フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
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●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html

そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html

●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)

滞仏日記「パリで個展をやりたい父ちゃんは、雨の中、アポなし画廊巡りをしたのだった。熱血~」

自分流×帝京大学

滞仏日記「パリで個展をやりたい父ちゃんは、雨の中、アポなし画廊巡りをしたのだった。熱血~」