JINSEI STORIES
滞仏日記「ナルシスト父ちゃん絶体絶命、老化はそこまで来ているのだ、の巻」 Posted on 2024/04/23 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、とにかく、忍び寄る老化の波に太刀打ちできない。
おじいさんになった自分の夢を見て、飛び起きてしまった。杖をついて、白髪で、頑固な顔をして、夢の中で、歯を食いしばって生きていたのだった。
「ひゃああ」
と思わず、目が覚めて、しまった。
風呂場に飛び込み、鏡を見て、愕然とした父ちゃんであった。
まだ、おじいさんではなかったが、心なしか、皺が増えていた。
ほうれい線はそこまでないのだけれど、なにか、弛みというか、口元が今までになく、しまりがないのであーる・ちゅーるらんぼー。
皮膚がかさついて、頬も顎も目の下のくままでもが下がって、疲れ切っている男がそこにいて、
「ぎゃあああ」
と思わず、声が飛び出した。ナルシスト父ちゃんの敗北であった。
まだ髪の毛は黒いのだけれど、よく見ると、白髪の数は増えているし、ロンドンライブで、疲れがにじみ出ているというか、どこか、おじいさんのような顔に見えなくもない。
「ああ、これはごまかせないものがあるな」
と自分に言い聞かせた。
人間は、いつまで若々しく生きていられるのであろう。
NHKの「パリごはん」も、いいタイミングで最終回を迎えられたのかもしれない。
何事も、有終の美、というのがあって、老害などと言われながら、ずるずるいつまでも食い下がって周囲に指摘されて、終わってることを知らされるくらい恥ずかしいこともない。
スパっと、この辺で、惜しまれつつ現役を引退するのが、いいような気がする。
ノルマンディの海を眺めながら、朝、それを悟ったのであった。
「そうじゃないかね、三四郎」
「わん♪」
あはは。
※ チャールズが作ってくれた、フランス風イカ飯!!! 最高だった。
人間、老いても腹が減るので、ランチをしに、チャールズのレストランに顔を出した。
「お、ツジー、どうなんだよ」
「いや、なんか、今朝は、腰が曲がって、杖をついてる夢を見たんだ。おじいさんだった」
「何言ってるんだよ。誰も、君のことおじいさんとは思ってないぞ。20歳は実年齢より、若く見える」
「まじか」
ということで、二人で、記念撮影をした。
え、あれ、これは自撮りと言えるのだろうか?
2ショットだから、自撮り、とは言わないよね? たぶん・・・。
だって、ぼくが携帯を取り出し、二人が顔を近づけ合って、ぼくが自分の携帯のボタン押しただけの、2ショットだもん。
ま、大丈夫でしょう。
(事務所から、自撮り禁止令出されています。なので、こっそり、日記に、載せとくけれど、クレームが来たら、削除します)
なんか、いつも、仲良しなんだけれど、ランチが終わってから、夕方、チャールズが奥さんとお茶を飲みにやって来たので、近所のカフェで、紅茶を飲みながら、長話となったのであーる・ぱちーの。
「老後かァ、ぼくらは考えたこともない」
「そりゃあ、そうでしょ、君ら、まだ40代だし、お子さんまだ、若いじゃん」
「でも、ツジー、あんた、めっちゃ若いよ。わたしたちの周辺で、そんな60代、一人もいないわよ」
と奥さんのミハーが言った。
8月7日の大阪のライブを最後に、日本での音楽活動をやめるんだ、と話した。
「なんで? 年齢的な問題なの?」
「ライブをやるたびに、日本とフランスを行き来しないとならない。ライブが延期になるたびに、ぼくがお金を払わないとならないし、コロナの時期に、車を何台も買えるような支払いの穴埋めをやった。もう、思うようなライブができないんだ。地政学的な問題も大きい。ちょっと、疲れたんだよ」
「そうか、楽しいだけじゃダメなんだね」
「いや、路上で歌っていれば、お金を払うことはないし、フェスティバルに出て歌う分には、問題ないから、あまり背負わないでいいことなら、やろうと思ってる。大規模なツアーとか、ぼくひとりで背負うリスクほど、苦しいことはないので、やめる」
「ぼくはツジーの歌が好きだけどね。ほら、前にカルバドスの蒸留所で歌ってくれたじゃないか」
「ああ、歌ったね。楽しかったなァ」
「よかったよ。ファンの人、寂しんじゃないの?」
「本当は頑張りたいんだけれど、スポーティファイの時代になって、ミュージシャンはみんな苦しい。その責任がぼくのところに来るの、辛いんだ。音楽を取り戻したいよね」
「なるほど。悩ましいな」
チャールズは、夜の営業があるので、店に戻っていった。
「ツジー、あなたは歌いたい時に歌えばいいよ」
ミハーが言った。
「あなたは歌っている時が、一番若いってこと、気づいている?」
「え?」
「そうよ、あなたは歌っている時が一番輝いているのよ。オランピアのライブ、素晴らしかったわ。歌をやめたら、老けるの、早いわよ。それだけは、忘れないで。大きなライブやらないでも、いいから、たまに、ステージにあがってくださいね。みんな、喜ぶでしょ」
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ミハーの言葉にドキッとさせられましたが、ま、今は、最後のライブに向けて、全力を尽くしていくだけですね。昨日、ECHOESのベーシスト、トシ君に、大阪観に来てよ、とメッセージ送ったら、行くよ、と戻ってきました。ECHOES、二人きりになってしまったので、(ギターのひろきは音信不通)なので、トシに代表してもらい、ぼくの最後を観て貰いたいな、と思いました。燃え尽きるまでやらせてもらいます。
月に3度、ラジオを新プランでスタートします!!!
ツジビル村営放送、ラジオ・ツジビルの入会方法は、こちらです。
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https://www.tsujiville.com/
さて、さて、日本での引退も決定したので、東京と大阪公演、これで当面、見納めになりそうですね。生涯、最高のライブにしますので、お付き合いください。
・東京3DAYS公演
7/30(火)ヒューリックホール東京
7/31(水)ヒューリックホール東京
8/5(月)ヒューリックホール東京
・大阪公演、ワールドツアー千秋楽!
open18:30/start19:00
8/7(水)フェスティバルホール大阪
open18:00/start19:00
さらに、、、、
フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
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●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html
そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html
●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(ライブは、だいたい、9月25,26日のどちらかになります。作家としての登壇も予定しています)