JINSEI STORIES
滞仏日記「フランスの美術史家、フロリアン・メタル氏が読んだぼくの絵画評論」 Posted on 2024/04/12 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ぼくの画集「les Invisible(見えないものたち)」を読んだフランスの美術史家(CNRS、フランス国立科学研究センター、フランス最大の政府基礎研究機関の研究者)フローリアン・メタルさんが書いた評論文を、今日は皆さんに一読してもらいたい。昨日、ご本人と食事をし、日本の読者の皆さんに、ぜひ、読んでもらいたい、という許可を頂いたので、掲載させて頂く。
奥さんのマリエルさん曰く、彼が自らこのような論説文を書くのを見るのははじめてのことだ、そうだ。ぼくがなぜ、絵を描いてきたのか、なぜ、それを個展という形で、人々に見せたのか。ぼくは個展が終わった後も、何か釈然としないものを覚えていた。けれど、フローリアン・メタルさんは、専門が中世美術ではあるのに、あの画集から何か衝撃を受けてくださったようで、それを美術家らしい言葉で紡いでくださり、ぼくに手渡した。フランス人の目に、しかも、美術史家の目に、これらの作品が何を残したのか、をぼくは知る手がかりとなった。大変、興味深い出来事だった。
個展をご覧になっていない皆さん、画集を見てない皆さんに、この評論が、どう、届くかわからないのだけれど、掲載します。
※ フロリアン・メタルさん。
「TSUJI 絵画の詩(うた)」 フローリアン・メタル
「Désert du temps」(時の砂漠)の中で、私はカオス(混沌)を見た。
そしてこのカオスから宇宙、調和のとれた世界、宇宙誕生の衝撃、カタチの母体(マトリックス)を見た。
それは、季節の移り変わりや日常生活の激動の中で宙に浮いた瞬間、そして都市が示す原始的な世界だ。
僕は、あなたの絵に描かれているほどの憂鬱なノルマンディーを、今まで見たことがないと言わざるを得ない。あなたの絵の中のノルマンディーは、まるで自然の暗黒の力に支配されているかのようだ。
それはノルマンディ地方の黙示録のようなもので、世界の終末ではなく、私たちの世界でもあり得る、ただ見方が違うだけの、これから来るべき世界の「啓示」のようなものだ。
力が循環する世界とも言える。
・・・例えば波のような。
Monde équilibré
バランスのとれた世界 | A World in Equilibrium
Taille F60
「Les équinoxes」(分点)は壮大な黄昏を持つ作品だ。昼と夜のバランス、一年の完璧な天文学的区分、そして生命の存在を映し出している。
「La porte du temps immobile 」(動かぬ時の扉)を見た時、僕の目の前に別の世界が開けた。
この扉は不穏なものだが、同時にこの混沌とした形の中で唯一安定した形であり、他の何かを約束するものでもある。
見慣れた日常生活(僕がまだノルマンディーだと認識できるレベル)への入り口であり、人々がただぼんやり眺めているだけのこれらの通りや 入り口に、しかし、あなたは一つの道を見たのだ。
この扉を開けろ、という声が聞こえくる感じがする。
しかしその深く控えめな光は、僕たちを遠ざけてもいる。
そこで僕は、詩人クラウディアンの永遠の隠れ家の扉を思い浮かべる。
その隠れ家には、デモゴルゴンと時間と季節が宿っている。
NEHAN「涅槃」は深い感動を与える作品だ。僕は心を打たれた。
回帰する、満たし合う世界。
でもあなたは、「無」を「空(虚)」としてみるのではなく、満ち足りたものとして見ている。
Légende blanche
白い伝説 | The White Legend
Taille F60
「Irréversible」(不可逆的な世界)で、あなたはこれまで否定されてきたもの、つまり、時に擬人化された自然の力の崇高なビジョンを示していると思う。
幻覚的な絵画の歌であり、そこでは色彩が知覚の楽器となっている。
「La Croix」(The cross)では、僕は方向感覚を見失った。
これまで暗闇に苦しんでいたのに、今は光が眩しい。
奇妙な逆転、奇妙な反転。
「Le Reflet」(反射する世界)では、あなたは、もうひとつの逆転、幻想(イリュージョン)を描いていると思う。
つまり、あなたの中では、物事が “現実 “ではないからではなく、理性的な意味での視覚を捨てて、内面的でスピリチュアルな経験を優先しなければならないからだ。
そう僕は思う。
例えどんなことがあろうと、都市が劇場となり得る経験。
ノルマンディーの四季が、あなたの魂を青と赤で彩り、生まれ育った土地との奇妙な共生が起こっているのだと思う。
Entre ciel et mer
海と空の境目 | Between the Sea and the Sky
仏陀やその他の、まるで見覚えのあるような心強い存在の再来は、すぐそこまで来ている。いや、この旅は、私たちだけのものではない。
僕は、(画集におさめられている)あなた自身による解説文を読む前に、この感想を書き上げた。
あなたは解説の中で、自分が見たものを信じることができないと綴っている。僕は、あなたのように、あなたの作品に抽象性を感じない。
あなたは見ているし、僕たちも一緒に見ている。
とても感動しました。
ありがとう。
(翻訳、水真洋子)
Tsuji, un chant de la peinture. Florian Métral
Dans le Désert du temps, j’ai vu le chaos et à partir de ce chaos le cosmos, un monde équilibré, les soubresauts de la naissance de l’univers, la matrice des formes. C’est un monde primitif marqué par le passage des saisons, des instants arrêtés et suspendus dans la fureur quotidienne, et la ville.
Je dois dire que je n’ai jamais vu une Normandie aussi inquiétante que dans vos tableaux, comme si les forces noires de la nature s’étaient emparées d’elle. Ce serait presque une apocalypse normande, non pas la fin du monde, mais la révélation d’un monde à venir qui pourrait aussi être le nôtre, simplement regardé autrement. Un monde aux forces circulaires, telles les vagues peut-être.
Les “équinoxes” sont des œuvres magnifiques, crépusculaires. Elles sont à l’image de cet équilibre entre le jour et la nuit, le partage astronomique parfait de l’année et aussi de l’être.
Quand j’ai vu La porte du temps immobile, là un autre monde s’est offert, un monde où il me fallait faire un choix. Cette porte est inquiétante mais elle est à la fois la seule forme stable dans ce chaos de formes et la promesse d’autre chose. C’est une porte dans un quotidien connu (je crois reconnaître encore la Normandie) ; dans ces passages et ces entrées que l’on ne regarde que distraitement,vous avez vu un chemin.
Il y a un appel, je crois, à ouvrir cette porte qui, pourtant, nous tient à distance par sa lumière profonde et sourde. Je pense alors à la porte de l’antre de l’éternité chez le poète Claudien où loge Demogorgon, le temps et le cours des saisons.
Nehan est une œuvre bouleversante. Elle m’a frappé. Un monde en régression, se suffisant à lui-même. Mais le néant n’est pas du vide chez vous, il est plein.
Avec Irréversible, je crois que vous offrez ce qui se refusait auparavant, une vision sublime des forces de la nature, parfois personnifiées. Une chant de la peinture, halluciné, où la couleur devient l’instrument de la perception.
Dans La Croix, je crois avoir perdu mes repères, j’ai souffert des ténèbres auparavant et maintenant c’est la lumière qui m’éblouit. Étrange inversion, étrange retournement.
Je crois que dans *Le Reflet*, vous offrez une autre inversion, une illusion. Je crois que chez vous d’ailleurs tout est illusion d’ailleurs, non parce que les choses ne sont pas “réelles” mais parce qu’il faut abandonner l’optique au sens rationnel au profit d’une expérience intérieure et spirituelle. Une expérience dont la ville peut, malgré tout, être le théâtre. Je crois que les saisons normandes ont coloré votre âme, de bleu, de rouge, et s’opère alors une symbiose étrange avec votre terre natale.
Mais voilà que se prépare le retour à la figure, celui du bouddha et d’autres figures rassurantes, presque familières. Non, nous ne sommes pas seuls dans ce voyage.
J’ai écrit ces impressions sur le vif avant de lire votre texte p. 90. Vous écrivez à juste titre que vous ne pouvez croire les choses que vous voyez. Comme vous, je ne vois pas d’abstraction dans vos œuvres ; vous voyez et nous voyons avec vous. J’ai été très touché, merci.
(原文)
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
こういう意見を貰えて、ぼくはさらに、自分の表現域を増やしていきたい、と思うことができるのです。「よかった」「感動した」にもいろいろとあるので、額面通り、なかなか、受け取れないことがあります。けれども、ぼくが投げかけた表現をどのように受け止め、それを咀嚼したのか、を作者が知る時、何か不思議な感動が起こるものなのです。ぼくには尊いことだったりします。ぼくの挑戦は続きます。
さて、日本公演は、これでしばらく、見納めになりそうです。
・東京3DAYS公演
7/30(火)ヒューリックホール東京
7/31(水)ヒューリックホール東京
8/5(月)ヒューリックホール東京
・大阪公演、ワールドツアー千秋楽!
open18:30/start19:00
8/7(水)フェスティバルホール大阪
open18:00/start19:00
Design Stories先行
受付期間:4/6(土)10:00~4/19(金)23:59・抽選
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https://w.pia.jp/s/jinsei24ds/
※デザインストーリーズ先行発売でーす。一般発売は5月です。
さらに、、、、
フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
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●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html
そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html
●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(詳細、待って)
●4月19日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟
https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator