JINSEI STORIES
滞仏日記「フランス現代アートの巨人に招かれ、ご自宅まで行ってきました」 Posted on 2024/04/09 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日、母さんと同じ年の、89歳のフランスの巨人と会った。
話が長くなるが、友だちのファブリス・ルノーさんに、フランスでどうしても個展やりたいんだよ、と相談をしたら、建築家、デザイナー、彫刻家、画家のモーリス・マーティさんとまず接触するのがいいよ、と言われたのだった。
といっても、まず、ともかく画集を見てもらうしかないので送ったら、奥さん(日本人のさおりさん)から連絡がきて、
「マーティがあなたの作品に感動しているので、会いに来てください」
と言われてしまった。
おおお。
で、父ちゃんはのこのこと出かけていったのであーる。
マーティさんのアトリエは14区の閑静な住宅地にたたずむ一軒家で、ドキドキしながら入ると、玄関の向こうで、ぼくを指さして微笑んでいる89歳のモーリス・マーティがいた。ニカっといたずらっ子みたいに、笑っていた。
ボーダーの長袖と髪型から、一瞬、ピカソかと思った。えへへ。
「ぼく、君の絵、大好き」
といきなり、巨人に言われたのだった。(奥さんも芸術をこよなく愛する風貌で、マーティの絵のモデル。ジョンとヨーコみたいなカップル!)
っていうか、マーティ、89歳とは思えないくらいに、聡明で元気で、どんなにサバを読んでも、75歳くらいにしか見えない。
ぼくの母さんは意味不明なことを時々、言うのだけれど、マーティさん、しっかりと話される知的なアーティストさんだった。
ぼくが、コーヒーをこぼすと、一瞬で立ち上がり、待って、と叫んだ。そして、美しい世界だ、と言いながら、携帯でその写真を撮影しはじめたのである。
ほんと、120%芸術家なのであった。
マーティさんは現代彫刻家のセザールとか、ダリさんと交流があり、一緒に創作もやられていた。ダリさんとの共作の天地がかわる鏡が凄かった。
とにかく、すごすぎて、彼の歴史をここに記せないくらいたくさんの作品を手掛けられていた。
※ この椅子もぜんぶ、マーティ作。
※ 見てください。ぼくがこぼしたコーヒーを、彼は一瞬で、芸術に変えた!!!
※ 一番左が、マーティさん、右から二番目が、セザール!
で、ま、とんとん拍子だったので、話し半分くらい、聞いていたのだけれど、不意に、
「一緒に、個展やろうよ」
とモーリス・マーティが言った。
「(へっ!?)」
と心の中で、つまづいた、父ちゃん。おしっこが漏れそうになった。
「いや、君はいつか、大きな画廊でやらないとならないし、ぼくはそのお手伝いがしたい。君をフランスでしっかりサポートしたい。でも、もしよければ、友だちがサンジェルマンデプレに小さな画廊をやっていて、秋とかに、あいていれば、一緒に二人展やらないか」
奥さんのさおりさんが、止めに入ったのだけれど、
「ええ、やりたい」
と思わず、口走った、父ちゃんであった。
えへへ。
この気の早いところが、気が合うところかもしれませんね。
「一緒にやろう」
ということで、次の日曜日、さっそく、その画廊を見に行くことになった。あはは。
彼のアトリエを案内された。もー、玉手箱のようなすごい場所だった。
天井もかなり高く、そこかしこに彫刻や作品が並んでいるのだ。
フランスで生きていないと、こういう出会いも普通にできないからね、ここにいて、よかったねー、父ちゃん。はーい。
ぼくがよく、この日記に書いていると思うが、サンジェルマンデプレで昔、たぶん、1950年代とか、60年代かな、トランぺッターのマイルスデイビスが演奏していたのだった。
彼を世界的なミュージシャンにしたのは、パリ、であった。
で、マイルスがよく演奏していたクラブ、なんと、モーリス・マーティさんのデザインなのである。
とにかく、建築物も、家具も、椅子も、彫刻も、絵も、すごいのがごろごろしていた。
その中でも、ぼくが気になったのは、奥さんのさおりさんの横顔を描いたスケッチだった。
ものすごく、おだやかな時間がそこでは流れていた。
おふたりの愛の深さがつたわってくる芸術家の家だった。
「あいしています」
「だいすきです」
マーティさんは、そう日本語で言いながら、笑っていた。
とりあえず、ファーストコンタクトだったが、ぼくがフランスで画家としてデビューするために、力になってくださる、と太鼓判を押してくださったので、信じがたいことだけれど、もしかしたら、幸運であった。
ま、うぬぼれないで、地道に進んでいこう、と思う。
夏に新生堂で開催する個展用の「パリ情景」シリーズを最後に彼に見せた。
「おお、いいね、これはまた、すごくいいじゃないか」
とほめてくださった。
パリの煙突と壁だけを描いた、何の変哲もない、絵なのだけれど、ぼくも好き。
「大好き」
この人、なんで、今、知り合ったのだろう? 今まで、どこにいたのだろう?
神様が作ったシナリオの中にいるようだ。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
人との出会い、ご縁、すごいですよね。昨日まで、知らない人だったのに、もう、なんか、師匠みたいな存在が出現して、芸術について、いろいろと意気投合させてもらって、パリで絵を描き続けることが、ぐんと、現実的になりました。これも、ぼくを発見してくれた、千住博さんのおかげかな。
父ちゃんのワールドツアー2024がスタートします!!!
・東京3DAYS公演
7/30(火)ヒューリックホール東京
7/31(水)ヒューリックホール東京
8/5(月)ヒューリックホール東京
・大阪公演、ワールドツアー千秋楽!
open18:30/start19:00
8/7(水)フェスティバルホール大阪
open18:00/start19:00
Design Stories先行
受付期間:4/6(土)10:00~4/19(金)23:59・抽選
☟
https://w.pia.jp/s/jinsei24ds/
※デザインストーリーズ先行発売でーす。一般発売は5月です。
さらに、、、、
フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
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●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html
そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html
●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(詳細、待って)
●4月19日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟
https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator