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London Music Life「聴くか、歌うか、踊るのか、ライブの楽しみ方は十人十色」 Posted on 2024/02/08 鈴木 みか 会社員 ロンドン

London Music Life「聴くか、歌うか、踊るのか、ライブの楽しみ方は十人十色」

先週日本で行われたエド・シーランのライブに関するニュースが目に留まった。日本の観客が静かに聴いてくれることに「リスペクトを感じる」と感謝し、当初予定になかった曲を演奏したという。「僕の国ではお祭り騒ぎで叫びまくっている」と言ったそうだが、まさにその通りだ。私も昨年4月にロンドンで彼のライブに行ったのだが、観客は曲を聴くというよりも、一緒に歌って踊っていた。

ライブ中のスマホ撮影はもちろんのこと、家族や友達と電話をしたり、一緒に歌う自分の姿を録画したりする人も最近は増えている。私の前の若者たちは、バラードになると、ステージに背を向けてフラッシュで自分たちを照らしながらスマホに向かって歌っていた。最初は少し驚いたが、これが最近の若者の楽しみ方なのか、とも思った。彼女たちにとっては、ミュージシャンの声や姿を記憶に焼き付けることより、その場にいた体験の記録を残すことが重要なのかもしれない。この時代のちょっぴり不安な気持ちを想像すると、温かく見守りたい気分にすらなった。



London Music Life「聴くか、歌うか、踊るのか、ライブの楽しみ方は十人十色」

別のライブでは、目の前でずっと大声で世間話をしていた観客二人が、ある曲になった瞬間、急に歌いだし踊りながらステージ前まで人をかき分けて行った。呆気に取られていると、今度は別の観客が振り向いて、ビールを持った手を掲げて笑って吠えている。気にし始めるとライブに集中できないこともしばしばあり、これが日本だったら、見えない!うるさい!と観客が怒り出すのでは?と思うのだが、よほどのことがない限りトラブルにはならない。楽しみ方は人それぞれなのだ。

この違いの理由のひとつは、日ごろからの音楽への接し方なのかもしれない。
日本は音楽を「聴く(listen)」。ライブでは曲紹介と共に「それでは聴いてください」とよく言う。聴く=相手を尊重していて、コンサート中におしゃべりをするのは、演奏者に失礼と思うだろう。子供の頃には、幼稚園や小学校で音楽の授業があり、練習と発表会があり、他の人の発表中は静かに座って聴いていた。立ち上がって自由に踊りだしたら、先生に注意されただろう。

一方でイギリスのライブは「楽しむ(enjoy)」。曲紹介の後は「hope you enjoy (楽しんでくれるといいな)」が多い。一緒に歌って、踊って、全身で楽しむ。ミュージシャン自身も観客を楽しませるエンターテイナーという意識が強く、観客が踊りだしたらいい演奏の証しだという話もよく聞く。
彼らは子供の頃から身の回りにパーティーがあって、音楽が流れれば家族や友達が踊る中で育っている。私の職場でも大きなパーティーの後には、DJが入って夜中までみんな歌って踊っている。そういう時に流れるのは、誰でも楽しめる往年のヒット曲だが(クイーンのDon’t Stop Me Nowは定番だ)、ダンスこそが、上下関係もなく、話が上手くなくても仲良くなれるコミュニケーションのツールなのだ。音楽が流れると反射的に体が動いてしまうので、じっとして聴いていることの方が難しいのだろう。上手く踊れるかなんて誰も気にしていない。レストランの生演奏では、立ち上がって踊りだす夫婦がいたり、音楽フェスでは、ステージが見えない場所でも、家族や友達と輪になって踊ったり、好きなように楽しんでいる。

London Music Life「聴くか、歌うか、踊るのか、ライブの楽しみ方は十人十色」

どちらが正解ということはないと思う。私は幼い頃に、ビートルズ好きの母と家の中でTwist And Shoutを踊っていた影響か、自由に楽しめるイギリスのライブも大好きだが、時々「みんなー!ちゃんと前向いて聴こうよ!」と日本人の心が叫びたくなることもある(笑)。
ミュージシャンが様々な国を旅することで、異なる音楽体験が共有され、その国の文化とつながる発見があるのはとても面白いものだ。

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Posted by 鈴木 みか

鈴木 みか

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会社員、元サウンドエンジニア。2017年よりロンドン在住。ライブ音楽が大好きで、インディペンデントミュージシャンやイベントのサポートもしている。