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自分流塾「恨みを晴らせない時、あなたがとるべき行動」 Posted on 2024/02/07 辻 仁成 作家 パリ
まず最初に言っておきたいが、恨みというのは、屈辱のあと、しばらくしてから沸き起こってくる思い出し感情なのである。
そして、長年、残り続け、恨んだ側を苦しくさせていく後遺症的現象でもある。
恨みを持っているのであれば、一日でも早くこれを晴らして穏やかな気持ちにならないとならないが、恨みというものは、そう簡単に人の心から離れてくれるものではない。そもそも、恨みを晴らす、必要などない。
しかし、明らかなことがある。
恨みは相当に負のエネルギーなので、恨み続けているということは、自分自身の心と肉体を痛め傷つけ、ひどい場合は、死に至らしめる病へと導く諸悪の根源にも成りえる。
恨みを晴らす、という日本語があるが、この意味を直訳すると、ひどい仕打ちをした相手に仕返しをして、ざまーみろ、という気分で恨みを追い払い、解消することを指すのである。
SNSなどを使って、匿名で相手の悪口を言いふらし、相手を失墜させるような行動に出たら、その負の力の返す刀で、己も地に落ちる。
ここで、注意してもらいたいことがある。
強い恨みというものを持っている時点で、まず、ひどい仕打ちをされた人間に負けている、ということなのだ。
悪口を言われたやつのことを十年も根に持って生きたとしよう。それはその人物に10年も支配されてしまった、ということにならないか。
そういう自分でいいわけがない。
では、どうするのか、を考えたい。
方法は大きくわけて、二つ、あると思う。
一つは、いたって簡単な方法だが、恨んでいるということは、自分が不幸の中にいる、ということなのだ、と自分に言い聞かせること。
そいつに、いまだに負けている、と思うこと、ならば、自分がだれよりも幸福になればいいだけのことなのである。
その幸福は誤解してはならないが、勝ち負けに支配されない、澄んだきれいな生き方、人生のことである。
恨みを持ち続けれるとその悪い負の力で、自分が蝕まれてしまうことになる。
いつまでも、そいつに支配されるのは、実に愚かなことだと気が付けばいいだけのこと。
それでも、うまくいかない場合は、その「恨み」をばねにして、人生の起爆剤にしていくという方法がある。
ひどい仕打ちをされた、自分のみじめさをよりみじめにするような恨みの思考に傾けば、ますます自分が悪い感情に支配されて、堕落してしまう。
そうじゃなく、なにくそ、とこれをプラスの思考へと転換させ、その世界で、もっともっと頑張って、(恨みは消えなくてもいい。変な言い方だが、恨みは最低限持っていてよい、と思うことで楽になる。恨みなど、人間の基本精神なんだから、最低限持っていながら、生きても大きな問題ない、と高を括るのも大事なこと。その上で)、とにかく、一心不乱に、その負の感情に負けないよう、自分を高めていくことに精進される方が圧倒的にいい。
精一杯生きた先に、大きくなった自分が出現したなら、その時、まず、あなたは、何を思い出すだろう?
あんなことで恨んでいた自分が愚かだった、と気が付くだろう。
恨みなど、くだらない、感情なのだ、と知ることになるだろう。
つまり、あなたが幸せを感じているならば、恨みを昇華できているはずなのだ。
日々を切に、一生懸命生きていれば、勝ち負けではない、外の領域に立つことができるはずだ。
あれはなんだったのか、と笑いが起きるくらい、全力で生きて、幸せになれば、恨みの世界を突き抜けているはずである。
たとえば、ある人に、「お前は失格者だ」と言われ、それで恨みを持ったとする。
しかし、この土俵にいてはいけない。
なにくそ、俺はそうじゃない、私は違う、と自分に言い続け、その土俵から飛び出し、もっと高い土俵に、それをバネにして、挑戦していけばいいだけのこと。
人の批判しかしない馬鹿者ほど、自分の言った言葉に責任もないわけで、つまりは、そのような無責任な言葉に一生振り回されることくらい愚かなことはないのだ、と気がつけばいいだけのこと。
なにくその精神で、がむしゃらにがんばり、自分的幸福を手に入れられれば、その恨みは必ずや消えさるであろう。
そうやって、生きていけば、魂も心も肉体も健康でいられるはずだ。
恨みを晴らす、などという悪い野望を抱いてはいけない。恨みは捨てて自分の価値を高めるために人生を泰然と生きることが大事なのである。
posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。