JINSEI STORIES
滞仏日記「ムッシュと言われる日、マダムと言われる日、毎回、トイレで大混乱なのだ!」 Posted on 2024/01/14 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、父ちゃんは、小柄で、鼻とか小さいし、ロン毛だから、服装も黒のロック色の強いものばかりで、だいたいユニセックスの服が多いから、しょっちゅう「マダム」と言われておーる。
フランスの男の人たちとは明らかに骨格が違うので、間違えられてもしょうがない。
間違えられたくなければ、髪を短くし、ちょびひげでもはやして、おやじっぽい歩き方で、「おっす」とか言ってればいいんだけれど、性格的にもなかなか難しいので、最近は「マダム」と言われたら、「ウイー」で通している。☜通してるんかい。
あはは。そーなんです。
というのも、「ノン、ムッシュです」と説明するのが面倒な時もあるのだ、・・・。
昨日だったか、おとといのことだけれど、カフェで、トイレに行ったのだ。フランスのカフェのトイレというのは、だいたい、階段をおりた地下にある。
で、当然だが、男性用と女性用とにわかれている。
で、ぼくは間違えて、女性用のトイレに入ったのだ。
いや、本当に間違えたの。
で、そこは女性用だから、個室が二つあって、一つを覗いたら、壊れていて、もう一つで、男性が立ちしょんべんをしていた。
あ、失礼といって踵を返したら、女性が入ってきた。
「あ、ここ、男性用ですよ」と忠告しようとしたら、入り口に「dames」(女子トイレ)という表示!!!
ひゃあ、俺間違っていたんだ、と思って、顔を伏せて、大急ぎで外に出たのだけれど、待てよ、さっき、立ちしょんべんしていた男性は、じゃあ??? となった。
ま、フランスはそういう細かいところが結構、イージーで男女共用みたいなトイレもたまにあるから、苦笑しながら、気を取り直して(ミスタービーンみたいな表情で)男性用トイレに入ったら、黒人の大きなおじさんが、ぼくを見るなり、両手を「ダメダメダメ」と強くふって、
「ここは、男性用ですよ、女性は隣ですよ、マダム」
と真っ赤になって、忠告されたのだった。
おじさん、手を洗っていたんですな。驚かしちゃいました。
「あ、いや、あの、ぼく、ムッシュなんですよ」
と告げると、おじさん、じっとぼくの顔を覗き込んで、2秒、沈黙・・・。
「あー、あ、なるほど、そりゃあ、失礼しました」
こういう時に、なんていえばいいのか、ぼくはいまだ、よくわかってなくて、フランス語に、「Ce n’est pas grave(大したことじゃない。そんなことはどうでもいい)」という常套句があって、とりあえず、そう言っておいた。
ちなみに、このgraveという単語だけだと、実は「深刻だ」という意味になる。
正確に訳すと「深刻じゃない」になるんだけど、ま、常套句だから、肩がぶつかった時なども、みんな「せ・ぱ・がーぶ(neを省略すると会話言葉っぽくなるよ)」こういうのである。
で、ちょっと前に、同じようなシチュエーションがあって、その時は白人のおじさんだったが、「女性はあっちだよ」と言われたので、「ぼくはムッシュですよ」といつも通り言ったら、おじさん、顔色一つ変えずに、「Ce n’est pas grave」と言うじゃあーりませんか。
そんなのどうでもよくないだろ、と思った父ちゃんマダムなのであった。
ともかく、細かい話で恐縮ではあるが、ロン毛で、線が細いと、こういうめんどうくさいことが結構ある。
ところで、女性たちも、ぼくを「ムッシュ」と呼ぶ人と「マダム」と呼ぶ人がいて、明らかに、ここには大きな違いがあることに最近、長年の研究の結果、気が付いた。
まず、レジ係の人で、ぼくを「マダム」というマダムたちは、ぼくをちゃんと見てない人たちなのだ。印象や格好で、マダム、と決めつけてくる。
ちゃんと見ている人は「ムッシュ、メルシー」と言ってくれる。
今日もカフェでトイレを探していたら、背後から、「ムッシュ、男性トイレはあっちです」と後ろ姿だけで、、ムッシュと見極めた人がいた。ふふふ。
そのマダムは、ぼくの歩き方や、ちょっとしたしぐさから男性を嗅ぎ取って、つまり、ちゃんと見ている人なのだった。
「Ce n’est pas grave(そんなことはどうでもいい)」
いやいや、やっぱり、人間は相手のことをちゃんと見てほしい、ので、「ムッシュ」と言われると、なんとなく、かっこつけたくなる父ちゃんなのであった。
で、ロン毛が「ムッシュ」と「マダム」が混乱する原因かな、と思って、息子とかとレストランに行く時は、髪の毛を後ろでぎゅっと縛って、男らしくオールバック風にして、しかもいかり肩で、入店したりするのだけれど、それでも、「マダム」というマダムやムッシュがいたりするので、もう慣れっこだけれど、息子君、ま、しゃーないね、パパは線が細いからさ、と慰めてくれるのだった。
父親の威厳など、あったものではない。こんちくしょーめ。
それでも、息子は肩幅もあるし、明らかに男子の骨格をしているので、「よしよし、立派になったの~」とうれしく思う今日この頃なのでありました。
えへへ。おそまつ君。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
「ムッシュ」と言われるとちょっと嬉しく、「マダム」と言われると、一応周辺に人がいないか、確認をしてから、「ウイー」と返事をしている変なおやじなのであります。
さて、そんな父ちゃんですが、今年も熱血全開で怒涛の一年と向かい合っております。英国&フランスのツアーも決まり、がんばりますねー。
さて、今年の父ちゃんのスケジュールのお知らせです。
●小説「十年後の恋」集英社文庫版が1月19日全国発売。
●小説「東京デシベル」がイタリア、Rittoli社から刊行されました。
●2月28日から、新宿伊勢丹のアートギャラリーで個展(詳しくまたご報告します)
●3月3日、両国国技館、ギタージャンボリー出演。(検索ください)
●3月6日、ツジビル・ライブ(SOLD OUT)
●4月19日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟
https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator
●6月30日、パリ・ライブ決定(詳細、待って)
●7月3日、リヨンでもやります!!!
以上です。