JINSEI STORIES
滞仏日記「俺の名前は、つじじんせい、だ。誰か俺の名前を憶えているかい? 」 Posted on 2024/01/10
某月某日、マイナス2度だが、今日も走った。
走るのには意味がある。
今年、最初のライブが3月3日、両国国技館で行われるギタージャンボリーなのだ。そこを目指して、筋トレやランニングを徹底的にやっている。
マイナスなので、のどを痛めないようにマスクをしながら走っているので、苦じィ~。
なので、すれ違う人には奇異な目でみられている。
ギタージャンボリーとは、両国国技館(相撲会場)で弾き語りの人たちが集う、真剣勝負の歌合戦なのだ。6時間くらいやる、フェスらしい。
10人くらいのアーティストが順番に弾き語りをする。
土俵に見立てたステージがあり、そこに立って歌うのだ。ステージは回転する仕掛けで、もっとも、下で誰かが手動で回すらしい。原始的であーる。
持ち時間は30分らしく、だから、4~5曲歌うことができる。
ぼくが最年長だと言われた。
おでんとか、焼き鳥(?)とか生ビールとか飲みながら、土俵の上の人の歌を聴く、という趣旨の、格闘技風花見風歌合戦イベントらしい。
思えば、在仏歴22年だが、最初は道端で歌っていた。
家の中で歌うとご近所さんに叱られたので、セーヌ川の川岸で、対岸に向かって、大声で歌ったものだった。
観光客をのせたバトームッシュに向かって、大声で、ああああああー、と叫んでいた。かなり、危ない人でしかなかった。
ギターを担いでいき、持ち歌を必死に歌っていると、ギターケースに、小銭を投げ入れられたことがあった。
これはいける、と思って、大きな橋の中ほどに場所をうつし、歌った時期もあった。けっこう、通行人が立ち止まって、聞いてくれたものである。ふふふ。
そんなある日、その群衆の中に日本人がいた。
「ええっ、じんせいさん? マジすか? つじじんせい? 」
中年日本男性に見つかり、声をかけられたことがあったのであーる。
ぼくは、一応、ニット帽をかぶって、サングラスをして、歌っていたのだけど、曲が「ZOO」だったのが、いけなかったのか。45歳くらいの会社員風な人であった。
「違います」
ところが、思わず、否定してしまった。とっさ、人間失格になった、父ちゃん。
というのも、家がそこからすぐの場所にあり、その時は結婚したてで、相手に迷惑かけられないかな、と思って・・・思わず。えへへ。
「つじじんせい?」
普通は、つじひとなりさんですか? と聞かれる。
ぼくがミュージシャンとして活動していた時は、子供時代のニックネーム、「じんせい」を名乗っていたのだ。
ECHOESとか知っている世代だと思って、思わず、否定しちゃって、取り返しがつかなくなった。男は、不審な顔で、ぼくをじっと見つめる。
「ZOO、歌ってませんでした?」
うわ、そうだった、ZOO、歌ってたじゃん、逃げられない~。でも、今更肯定もできない。その人、携帯取り出して、今にも、写真を撮りそうだったのも、・・・。
「ええ? だれ? なんのこと?」
もう、めちゃくちゃであった。ぼくは日本語で否定していたのであーる。
否定してるんだから、そっとしておいてくれたらいいのに、その人、しつこくて、疑念の目でぼくをガン見し続けたので、仕方なく練習をやめて、ギターをかたずけ、こそこそ、かっこ悪く、そこを離れることになった、のだった。ごめんなさい。
17,8年前のことだから、もう、時効ですね・・・。
去年は、ジョルジュたちとバンド形式でオランピア劇場をやったが、そのライブのあと、ぼくは一度、ギター一本から出直すべきじゃないか、と自分に言い聞かせてもいた。
夏の日本公演は、弾き語りに、ピアノやパーカッションが加わる、アコースティック色の強いライブをやった。
で、今年は、完全に弾き語りでいこうと思っていた矢先、ギタージャンボリー出演依頼が飛び込んできたのだった。おおお、神様のお導きじゃあ。
ギター一本で、5000人を相手に自分を試す最高の舞台だ、と思った。
父ちゃんは、弾き語りが好きなのだ。独立独歩マンなのであーる。
なので、今は、朝、ランニングをしながら、ギタージャンボリーのことばかり考えている。伊勢丹の個展が同じ時期にあるが、もう、ジャンボリー一色なのであーる。
ギタージャンボリー観客の平均年齢は40代から50代だそうで、ECHOESをぎりぎり知っているかな、という世代の方々がいそう・・・。
去年の年末に不意に来た話だったが、ええええ、いいの、出て、いいの?、いいの?、となった。
「つじじんせいで、出ます」
とジャンボリーの事務局の人に言った時、橋の上で、「つじじんせい?」といった駐在員風日本人男性のことを思い出した。そこに、いるかもしれない。
ぼく、です。
すいません。ウソをつきました。家族を守るために。
でも、今は、一人ですから、もう、ウソはつきません。
「わたしは、つじじんせいです!」
今、走りすぎて、筋肉痛がマックス。ギター弾きすぎて両手が腱鞘炎、歌い過ぎて、のどが咽頭炎っぽいのだが、俺はつじじんせいだ、俺は今日、雪の中走ったんだ、お前は今日、何した? と言いたい。
「俺は、つじじんせい、だ」
5000人の前で、思いっきり叫んでみたい。
今、部屋の中心に立ち、見えている、ぼくのまわりを囲む5000人の観客、俺はつじじんせいだ~、と叫んだセーヌ川川岸の20年前の自分まで見えた気がした。
くそー、生きてやる。
とことん、熱血で、歌い続けてやる。
俺の歌は誰にもとめられない。
皆さん、ご一緒に、今年最初の、
「熱血~!」
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
自分の居場所で頑張るしかないんですよね。厳しい世界ですけれど、生き続けないとならないなら、全力振り絞って、生きたいと思います。3月3日は、つじひとなり、ではなく、つじじんせい、が腹の底から、魂の叫び声を絞り出しますので、よろしく。