PANORAMA STORIES
愛すべきフランス・デザイン「フランスの正月飾り、幸運を呼ぶ、ギーとは?」 Posted on 2024/01/06 ウエマツチヱ プロダクトデザイナー フランス・パリ
フランスの仕事始めは1月3日からと、お正月気分はあっという間に消えてしまう。
休みが長い国という印象があるが、年末年始の休暇はクリスマスイブから三が日までと意外と短い。
出社すると同僚たちから、日本で起こっている、震災や航空事故などについて聞かれ、日本に住む家族の心配をしてくれた。
フランスでも大きく報道されているのだ。
同じアパルトマンの下の階に住むマダムも、心配して我が家を訪ねて来てくれたひとり。
「少し遅くなってしまったけど…」と差し出したのは、葉っぱのブーケだった。
聞けば、12月31日の深夜から玄関に吊るすもので、新しい年に幸福を呼んでくれるものだという。
フランスには正月飾りなんてものはないと思っていたが、実は存在していたようだ。
よく見ると、白い半透明の小さな木の実がついている。
「ギー(Gui)」という植物だそう。
※白い実をつけるギー
日本で起こっている様々なニュースをみて、私達日本人一家が異国の地で不安な思いをしていないかと気遣って、持ってきてくれた。
マダムは、クリスマスバカンスをスペインのバルセロナで過ごしたそう。
パリと違って天気が良くてビックリしたこと、レストランが美味しかった話など、楽しくおしゃべりをして帰っていった。
冬の欧州は南に行くのが良さそうだ。
そんな心遣いが嬉しくて、ギーについてもっと知りたくなった。
※ギーを持ってきてくれた近所のマダム
翌日、会社のランチタイムに同僚たちにギーのことを聞くと、10人もいたのに、実際に飾っている人は皆無。
ひとりが「12月31日の零時にギーにビズ(bise)すると幸運が来るらしいよー。ギーはヤドリギだけど、寄生する植物にビズするってなんか気持ち悪い気がするな」と興味深い話を始めた。
ちなみにビズとは、お互いの頬と頬を合わせて、チュッと口で音を立てる、フランスの挨拶。
コロナ禍で感染防止の観点から禁止されて以降、私の職場では未だに誰もしていない。
以前は職場の自席につくと、まずはその場にいる同僚全員にビスをして周る風習があったが、すっかり廃れてしまった。
※ギーはヤドリギ
さて、ギーにビズをするといっても、どのようにするのだろうか…。
ネットで検索すると、ギーの下でビズをすると幸福が訪れる、と出てきた。
ギー自体にではなく、ギーの「下で」ビズをするようで、同僚の勘違い。
なにはともあれ、フランス人でも現代っ子のギーへの知識はそのくらいということで、自分で調べることにした。
ギーは、12月という寒い季節にも関わらず、実をつける稀有な植物ということで、繁栄、幸運、豊饒の願いが込められているそう。
イギリスのケルト起源の伝統で、かつては敵と森のギーの下で遭遇した場合、武器を捨てて翌日まで休戦しなければならなかったそうだ。
18世紀に入り、友情と好意の象徴として、家族や友人など親しい人とビズをする風習に至ったという。
※ギーが入った、新年挨拶のカード(geneanet.orgより)
思い返せば、フランスでも、イギリスでも、田舎道を車で走っていると、大きな木にいくつも丸いものがついているのを見かけて、ずっと何かわからず不思議だった。
クリスマス飾りのようで、可愛らしいとすら思っていたが、あれはヤドリギであるギーであったかと、長年の疑問が解けてスッキリ。
※田園風景でみられる丸いギーがついた木々
多くは、ポプラやリンゴの木に宿り、冬なって樹の葉が落ちると丸い姿をみせるギー。
寄生するといっても、宿主を枯らすことはせず、土の上では発芽できない弱い植物だそう。
鳥の糞で運ばれて、樹の幹の上に落ちたときに「寄生根」という根を伸ばし、ちょっと樹の栄養を分けてもらって、やっと発芽する。
※12月31日から玄関に飾る
寄生しているのに、か弱いし、幸せを運ぶ。
知れば知るほど、ミステリアスな魅力を感じてきた。
このブーケをそのまま育てられたら良いと思ったものの、成長がゆっくりで、丸い球状になるまでには2、30年もかかるとか。
桃栗三年柿八年以上の忍耐が必要そうなので諦めた。
玄関に掛けて飾るものだが、少しでも長く楽しみたくなったので、花瓶にいけることに。そうだ、マダムがバルセロナの話をしていたから、スペインで飲んだミネラルウォーター「ソラン・デ・カブラス」の青が綺麗な空き瓶に生けよう。
今年もこんな調子で、フランス生活で見つけたモノにまつわる話をお伝えできたらと思う。
※ソラン・デ・カブラスの青い瓶に生けたギー
Posted by ウエマツチヱ
ウエマツチヱ
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フランスで企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の娘を子育て中。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速い。